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弟子入門

 何時もの日課になっている芝生と森のメンテナンスを終らせて、北側の庭を見てどんな風に造園するか思考を巡らす。


 北側は南が広い分狭くなっている。

 横幅が6m、縦は館の長さと殆ど同じだから当然長い。


 それだけなら普通の裏庭として造園すれば良いが、問題は館の窓から見える景観だ。

 つまり、北側はただ庭を造るのでは無く、窓からの景観も計算して作る必要があった。


 庭の広さと条件から沸いたイメージは、和式の家の縁側だった。


 窓からの景色を和式の家の縁側として作れば、情緒溢れる庭になる気がした。


 まず元々北側に均等間隔で植えていたイロハカエデの木を移動させることにする。

 そもそも、エルフ野郎に紅葉を見せようと閃いたのは、このイロハカエデを思い出したからだ。


 それにしてもここにイロハカエデを植えた奴は良いセンスをしていると思う。

 カエデは秋の紅葉の代表的な樹木だが、実は乾燥に弱い。そして川べりや谷合に育つ植物だから、太陽が良く当る場所は逆に乾燥して葉っぱが萎れる。


 ここだと北側な為、地面は程よく湿度が保たれ、西日が当る時間は館に隠れて当らない。多少日照時間が短い事を除けば、育てるのに適していると思う。


 ここにイロハカエデを植えたのは俺の前の庭師の爺か?

 俺が来る前に死んだから一度も見てないし名前も聞いてないけど成仏しろよ。だけど芝生に関しては糞過ぎだ、地獄に落ちろ。


 イロハカエデの成長具合を見ると、一番成長しているので2mぐらいで全体的にまだそれ程成長していない。


 スコップで丁寧に、柔らかい地面を掘って…………って9歳の子供が植木の移植を一人で出来るか!!

 一人で切れてスコップを地面に叩きつける。


 人手が足りない、如何しよう。ギルバードさんに頼むとしても、あの筋肉は現在俺の依頼で王都から離れている。


 ウェンツは……ここ暫く見ていない、恐らくギルバードさんが居ないうちに、無理やり外に用事を作って、そのついでにエリスさんと逢引しているのだろう。


 ビルさんにちくったろかー。


 他に手伝いの伝はな……ピコーン!俺の脳裏に思い当たる人物が一人浮かんだ。

 早速連絡するために、姫様に会いに行こう。


 城に行く?とんでもない、あの小娘は毎日この森に遊びに来ているから、こちらから出向く必要が全く無い。

 そして迷惑だから来るなと言いたいけれど、それを言ったら間違いなく殺される。


「姫様、こんにちは」

「おお、アルか、お主から声を掛けるのも珍しいのじゃ」


 何時もは仕事してるんだよ。


「一つお願いがあるんだけど良いかな?」

「アルには何度も世話になっているからな、何でも好きなことを叶えてやるのじゃ」


 やべえ、欲望に任せて別の望みが言いたくなってきた……やっぱり駄目だ、ビルさんに殺される。


「前、森に水を巡らせた時にさ、芝生の管理を任せた土木屋の少年が居たじゃん」

「……おお、確かに居たのじゃ」

「そいつ、くれ」

「……あれは確か大臣を通して雇ったはずじゃ、大丈夫じゃ任せるのじゃ」

「やったー、ありがとう」

「構わぬのじゃ」


 こうして俺は奴隷を手に入れた。

 何となく姫様の従者の二人が俺達の会話を聞いて物凄く嫌そうな顔をしていたけど気にしないことにした。




「何で?僕、どうしてまたここに居るの?」

「さあ、始めようか」


 彼の名前はピエール14歳。俺が姫様を介して召還したうだつの上がらないただの土木見習いだ、因みに彼女募集中。

 そんなこと聞いてないけど、何となく彼女なんて居なそうな顔をしているから募集中。


 泉の作成時にお世話になった親方に拉致されて、俺の目の前で放置された彼にスコップを渡して北の庭に向かう。


「え?え?え?」


 状況が分かっていないのか俺に引っ張られるまま彼は自分の状況を確認しようと試みていたが、そんな暇は与えない。とっとと俺の肉奴隷として頑張ってもらおう。


「ここ掘ってね」

「え?」

「あ、根っこに注意してね、傷一つついたらエルフとの全面戦争になるから注意して」

「え?ええっ!」


 嘘だけど、


 おっかなびっくりのピエールを使ってイロハカエデの根元を掘り起こす。


 その間、俺は壁を塗り始めた。

 手を付けていない外壁はグレーのレンガが積み重なっているけど白く平らにしたかった、だって目指すは和庭だもん。

 なので、消石灰を混ぜたセメントを壁にべたべたと塗る。


 壁にセメントを塗るけど実は左官とか苦手なんだよね。

 一応、前世の時に研修も受けてそれなりにはこなしていたけど、出来上がりを見れば本職の人と比べるとボロボロでお恥ずかしい限り。


 それでも壁をシャカー、シャカーと平らに塗っていたら、ピエールが作業を中断して俺の仕事を食入る様に見ていた。


「あ、あの、何をしてるんですか?」


 奴隷、仕事しろ


「壁を塗ってるだけだよ」

「ペンキじゃ無いよね?」

「違うね」

「…………あ、あの!」


 突然ピエールが大声を上げて俺に頭を下げた。いや、そういうのはいいから、仕事しろ。


「僕を弟子にして下さい」

「壁塗りたいの?」

「違います、庭師になりたいんです」


 突然の弟子願望で吃驚。しかもこっちはまだ9歳、それはピエールの親が許さないんじゃないかな?


「今の仕事は?」

「親父の後を継ぐために奉公していましたが、この間、芝生の手入れをしていて、思い出したんです、草木を弄るのが好きなんだって」


 ピエールは意外とメルヘンな人らしい。


「だからアル師匠の才能に惚れました。弟子入りお願いします」

「取り敢えず、仕事して」

「は、はい!」


 面倒臭いのは後回し、今は目の前の仕事をしよう。

 それに弟子入りとか言われても、俺一人で「はい、良いですよ」とは決められない。

 既に丁稚として働いているんだからあの親方の許可も取らないと駄目だし、給料についてもビルさんにご相談だろう、もし俺の給料から出すとか言われたら絶対に断るけどな!


 ピエールがイロハカエデを取り出し、俺が壁にセメントを塗ってこの日は作業を終らせた。




 翌日、ビルさんにピエールの話をしたところ、少し考えて雇う方向で話を進めることになった。

 ビルさんは9歳の少年一人に庭の管理はやっぱり荷が重いだろうと考えていたらしく、この話は好都合だったらしい。


 給料の方は数年に一回発生する芝生の交換が今後も無いという皮算用から、ある程度は出せるとか、だったら俺の給料も上げろ。

 後は向こうの親方との交渉次第だけど、全部ビルさんに投げたから、後はよろしくと言って執務室を出た。




「だってさ」

「やった!師匠、ありがとう御座います」


 ギルバードさんの時と違い、今度はちゃんとピエールに説明したら物凄い喜んだ。やっぱり自分が成りたい職業に就けるのは嬉しいらしい。努力次第で俺の父ちゃんの給料越すから頑張れよ。


 昨日塗った壁を見るとセメントが固まっていたから、次の作業に入る。

 西の倉庫から俺の作成した配合土を手押し車で運び、壁側に大小様々な形の小山をいくつも作った。

 因みに配合土は、馬の糞とギルバードさんから購入した森の土混ぜて、黒い布を被せて熱殺菌したのを夏の間に作っといた。


「師匠、庭を平らにしなくて良いんですか?」

「このカエデの生息地は何処だか知ってる?」

「知りません」

「この木は森の谷合や、川の近くに群生しているんだ。だったら、地形もその環境に整えるのが筋だろ」

「師匠の考えだと、庭に草木を植えるんじゃ無くて、草木に合わせて庭を造るんですか?」

「そうだよ、それが俺のやり方だから」

「成る程……」


 ピエールが尊敬の眼差しで俺を見た。そうだ、崇めろ、もっと俺を崇めろ!


「師匠作業が止まっています」


 ハッ!?


 正気に戻って作業を再開、折角塗った壁の1/3まで土砂を積み重ねて、幾つもの小山が完成した。


「ピエール、紅葉の赤が一番映える背景は何色だと思う?」

「え?そうですね……赤だから逆の青?」

「ブッブーッ!そんな森の自然に存在しないような色は駄目でーす」

「え?川とか青じゃないですか、それにカエデは川べりに生えてるって師匠も言ってたし」

「滝つぼは青の場合もあるけど森に流れる川は青じゃない、水が透き通ってるからその場所の色と考えたほうが相応しいね」

「成る程……」

「それで先ほどの答えだけど、紅葉の赤が映えるのは色彩理論の補色色彩配色からして緑!」

「色彩…理論……?でも壁は白いですよ」

「この壁の影の部分は何色?」

「そうですね……青緑?」

「そう、白い壁は暗い所だと黒には成らず青緑に変色します、そしてその補色色彩配色の色は赤みを帯びた橙になる、つまり」

「……ゴクリ」


 その先を聞きたくてピエールが生唾を飲み込んだ。


「つまり、ここは秋になると、手前のカエデは光を浴びて赤い葉がやや赤い橙に見えて、奥のツツジは壁の影で赤く染まる。

 これは同じ色で明るさが異なるとこれは赤系統の同色系相配色になり興奮を高める効果が発生します。


 次に苔の緑と壁の青緑!

 これも同じ緑系統の同色系相配色になってリラックス効果が高まります。


 これぞ奥義!二重補色色相配色!!」


 ……ピエールからのリアクションは無かった。


「えっと、つまり、色相環上で向かい合う赤系統と緑系統の補色色彩配色をすると、緑が赤を補佐する形で明確なコントラストが生まれる計算になります。


 それが全部組み合わさった秋にこの場所を見ると、そいつの心の中は赤色の持つ情熱の感情と緑色が持つリラックス効果がひっちゃかめっちゃか大暴れして大変な事になるはず、これでエルフの野郎共だって一網打尽だろう、ふふふふふ」

「よく分かんないけど…………スゲエ」


 称えろ、もっと俺を称えろ!


「師匠作業が止まっています」


 ハッ!?


 正気に戻ってから、一旦土から掘り起こしたイロハカエデを再び庭に植える。

 植える場所は壁と館の中程に植えて、館の窓の正面は控えた。


 ここまでの作業で五日。翌日、ギルバードさんが採取してきた第一陣が到着した。




「今度もまた大掛かりな作業をしているな」

「まあね、金を惜しむなって言われてるし、いっその事、大改造しようと思ってね」


 糞暑い中でな


「まあ、いいや、依頼のカエデとツツジを持ってきたぞ、だけどこんな曲がりくねった奴で良いのか?」

「それが良いんじゃないか」

「良く分からねえな、他の奴からの依頼だと何時も真っ直ぐな木を持って来いって言われてるから楽だったけどよ」

「じゃあ安くなる?」

「ならねえよ!」


 チッ!


「それじゃ、後は例の奴を宜しくね」

「あれか……探しているけど中々見つからないんだよな。

 確かに奥のほうで見た記憶はあるんだが、正確な場所までは覚えて無くてな、まあ何とか探してみるよ」

「宜しく~」


 ギルバードさんが帰ってから持ってきた品を確認する。曲がりくねったカエデにドウタンツツジ!これを見たとき思わず親指を立てた。


 高木の紅葉と言ったらイロハカエデだけど、低木の紅葉と言ったらこのドウタンツツジだと俺は思っている。

 成長しても高さは3mほどだし、秋にはカエデに勝るとも思える見事な紅葉になる。

 それをピエールと一緒に壁際に植えた。


「師匠質問です、何で壁際に植えるんですか?」

「それは遠近法です」

「遠近法?何ですかそれは」

「この庭は人が通りません」

「裏庭ですしね」

「その通り、では何故この庭を手入れしているかといえば、館の窓からの景観を求めているからです」


 そう言ってから館の窓を指差すと、ビルさんがこちらを見ていてお互い吃驚した。


 やだ、あの人怖い。


「と、取り敢えず、だ。

 あの窓から見ると手前の高木のカエデが近くにあって、遠くに低木のツツジがあることでこの庭が実際よりも奥行きが広く感じる事が出来るのです」


 小さな庭を造る場合は遠近法を使えば、庭が広く見える。

 東みたいな大きな森だとあまり効果は無いが、こちらの庭でこの技法を使えば、効果は抜群だ。


「本当ですか?」


 ピエールが半信半疑で館の壁に寄りかかってこちらを振り向いた後、目を思いっきり開いて驚きの声上げた。


「ほ、本当だ!庭が広くなっている」

「ということです」


 敬え、もっと俺を敬え!


「師匠作業が止まっています」


 ハッ!?


 その後、ケヤキを壁が隠れるぐらい沢山植えて、曲がりくねったカエデも盆栽感覚で適当に植えてから、何時ものように苔を地面に敷き詰め、アクセントとして、カエデの根元に高さ30cmぐらいの岩を置いた。


 北の庭がカエデやツツジの緑に覆われて完成に近づいた頃には、この王都も夏の猛暑から残暑に変わり秋を迎え始めていた。


今回後書きが長いです、作者の糞ムカつくうんちくが入ってます、飛ばしても構いません。




アル「今回、何だか難しい言葉が出てきたね。色彩理論とか補色色彩配色とか一体何なの?」


作者「そうだなぁ、解り易い様にまずは最初に色彩心理学から話そうかな。

 色彩心理学とは、


  赤は情熱、黄は陽気、緑はリラックス、青は冷静

  赤と黄が陽で緑と青が陰


 人間が色を見たときに湧き上がる感情を分析した心理学なんだ、確か風水でも同じだったかな」


アル「それが庭と何の関係があるの?」


作者「身近な例としてラッピングで説明するよ。


 誕生日プレゼントを渡すときの包み紙は陽気を表す黄色を中心とした色が良いんだ、理由は黄色には喜ばしいの意味も込められているから。

 そしてその黄色に情熱の赤を混ぜるとピンク色になって、その意味は幸せ、思いやりと女性が好む色になる。

 男性の場合は、黄色にリラックスの緑を混ぜると薄緑になって、その意味は親友、語り合える友達と男性が好む色になる。


 次に、恋人に渡す場合は情熱の赤を中心とした包み紙にすると愛しているという意味になるんだ。

 そこに黄色を混ぜるとピンクになるから先ほどと同じ、逆に青を混ぜると紫になるから年上相手だったら良いけど、

 年上の女性は心が若い人が多いからあまりお勧めはしないね。


 そして緑はリラックスだから家族に対して渡すと良いし、

 逆に青は冷静という意味になるから、相手に渡す場合は好ましい色じゃなかったりする」


アル「成る程ね」


作者「次に色彩理論だけど、美術室の黒板にカラフルな丸い学習道具があったけど覚えている?」


アル「ああ、そういえば確かあったね、そんなのが」


作者「それが色彩理論に使われる色相環って奴なんだ」


アル「授業で一度も触れなかったから知らなかったけど、やっとアレの名前を知ったよ」


作者「色彩理論を使ってさらにラッピングを例にして説明すると、

 赤の包み紙に黄色のリボンと緑のリボンを付けるとどっちが鮮明に見える?」


アル「えっと緑かな?」


作者「正解、それが色彩理論、赤の補色色彩配色は色相環で見ると間逆の緑だから、より赤を鮮明に見せることが出来る色が緑になるんだ。

 そして最初に説明した通り、赤は陽、緑が陰の関係で、緑が赤を補佐する形で赤の色が冴える様に見せることが出来る。


 つまり、異性に贈り物をする場合、相手が女性だと包み紙の色が赤でリボンが緑、

 逆に男性相手だと、包み紙が緑でリボンを赤くすれば、心理学上だと高感度が上がる事になる」


アル「逆じゃ駄目なの?」


作者「女性から男性に包み紙の色が赤でリボンが緑だと肉食系に見えるしそこは控えたほうが良いかもね。


 ついでに駄目なパターンを上げると、

 誕生日プレゼントの包み紙を黄色にして、補色色彩配色で考えるとリボンは紫になるんだけど、今度は紫に青の冷静が混じることから贈る色としては微妙になる」


アル「だったら如何するの?」


作者「そのときは色彩理論の類似色相配色の橙、黄緑を使うか、同色系相配色で同じ色で統一した方が良い。

 類似色相配色は色相環で隣接した色になるから、包み紙に黄緑、リボンの外側を橙、リボン中心の色は黄色で使うと色鮮やかになる。

 まあそこら辺の組み合わせは自由だけどね。


 同色系相配色だと、黄色の色のコントラストを変えた同じ色で統一させる事だから、

 黄色のラッピングにピンクや黄緑などの黄色が混じったリボンを付けると包み紙とリボンの色が同じ意味になるから相手も喜ぶということだ」


アル「成る程ね、全然実用的じゃないけど面白かった」


作者「実用性あるよ。

 色彩理論を使えば服装の色でダサいと言われなくなるし、

 色彩心理学を使えば相手の服装を見てそのときの気持ちが分かるから対応を誤ることが減る。


 そしてこれはガーデニングにも思いっきり影響があるんだ」


アル「そうなの?」


作者「うん、だけど長くなるからこれは次回で」


アル「ガクッ!」


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