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自然保護団体という名のテロリスト

 八月の初め、朝の水撒きが終ってからビルさんに呼ばれて執務室に居た。

 そして待っていたビルさんから出た言葉は、


「北側の作業を前倒しで始めてください」

「だが、断る」


 現在、北側の庭は放置して荒れ果てている。だけど、こんな糞暑い夏の日に炎天下で仕事なんてお断りだ!


 そもそも、東側に枯山水を作った時にビルさんから賞与代わりの休暇を貰ったのに、毎日芝生や森の手入れをしている俺は丸一日休める事が出来ない。

 だから、代わりとして北側のガーデニング作業を秋まで延ばしてもらい、夏の暑い間はのんびり芝生とキャッキャウフフをするつもりだった。


 前世で娘がもふもふ最高と言っていたけど、俺から見ればそんなのはただ毛のついた肉と同じ。

 お前は俺の胸毛でもふもふ出来るか?コノヤロー!と迫ったら泣いて逃げられた、41歳の春。


 そんな辛い過去は忘れて、今後のブームはもふもふではなくもさもさだと思う。

 地面に転がって芝生のもさもさを体全体で体感してキャッキャウフフ、これ最高。


 それなのにいきなり呼んで仕事しろとか、サービス残業か?ここは派遣社員を使い捨てにするブラック企業か?俺はまだ9歳だぞ、虐待じゃ、児童虐待じゃ!


「派遣?ブラック?何を言っているか分かりませんが、事は急を要するのです」

「ほへ?何かあったの?」

「御館様が予定を変更して帰ってきます」

「それが如何したの?」


 別に帰ってきてからでも問題ないし。


「その時、客人を連れてきます」

「で?」

「その客人はエルフです」


 エルフ!!


「それ美味しいの?」

「……食べ物じゃありません、少しは常識を身に付けて下さい」


 何だ、がっかり。


「そのエルフって人と北の庭が何の関係があるの?」

「まず、エルフは人じゃありません、森に住んでいる種族です」

「変な所に住んでるんだね」

「森を作ったアル君が一番言ってはいけないセリフですね。

 話が横に逸れました。そのエルフがこの王都に御館様と一緒に秋の中ぐらいに来ます。

 エルフは自然と共に生きる種族で、逆に自然を傷つける相手には厳しい人達です」


 過激な自然保護団体か……


「何でそんな危険思想の団体をほっといているんですか?絶滅しましょう」

「……何を考えているのか分かりませんが、その考えは捨てなさい」


 テロリストを見逃せというのか?


「平和のために…「いい加減にしなさい!!」

「すいません」


 悪ふざけが過ぎました。


「いい加減話を進めます。

 今回エルフが御館様と一緒に来る目的はこの国と通商条約を結ぶためです」

「通商条約?貿易でもするんですか?」

「……何で君は文字も一般常識を知らないのに、このような難しい話の方は詳しいのですか?」

「あ、前世の記憶です」

「冗談はさて置き」


 あれ?この人もあっさりスルー?


「先ほども言った通りエルフは自然、そして森を愛する種族です。

 そして王都で会談となると幾つか他にも候補がありますが、御館様が連れてくる事も考えて、この館の森のテラスで行う可能性がかなり高くなります」

「げっ」


 会話をしてから終始言葉使いが悪かった俺に堪忍袋が切れ始めたビルさんがジロリと睨む。

 あ、石化攻撃だ、石になっちゃう。


「ただでさえ、国王が御館様を贔屓していると噂が出ているのに、正直こちらも迷惑していると言うのが本音ですが、まあ、御館様なら気にしないでしょうね、はぁ」


 ビルさんが珍しく愚痴を言っている、言葉の後に「陰謀なのか、何処かの貴族の陰謀なのか?」とブツブツ呟いているし……


 そして、どうやら御館様は大らかな人らしい。そういう人、大好き。


「それで、先ほどの続きですが、今の処、南の正面玄関、東の森はこのまま維持すれば問題無いでしょう。

 問題は何も手を付けていない北側です。もしこの館で会談を行った場合、この館でエルフが宿泊する可能性もあります」

「うーん、北の廊下から庭が丸見えって事か……」


 館の構造を思い出して、溜息混じりに呟く。


「その通りです。エルフが東の森を見て気分が良いのに、別の場所を見たら雑だった場合の心境を考えるとやはり整備は必要になるでしょう」

「だけどエルフが東の森を気に入らなかったら?」

「会談自体が潰れます、その時は諦めましょう」


 良いのかそれで?


「と言う訳で、予算は幾らでも使って構いませんので、早急に北の庭をよろしくお願いしますよ」




「という訳なんだよね」

「訳も糞も如何でもいいから、内容を話せ」


 ギルバードさんが訳分からんといった顔をする。


 ビルさんとの会話を終えてから館を飛び出し、場所は代わって俺は今エリスさんの店に居た。

 店番のエリスさんは当然ながら、依頼が無いのかウェンツ対策の番犬なのかギルバードさんも一緒に居る。

 正直言うと、筋肉男が花屋の前に立っているだけで営業妨害な気がする。


 そういえばウェンツ最近出番が無いけど、まあ、如何でもいいや。


「通じてない?」

「着て早々「訳なんだよね」だけで通じるか!」


 ふむギルバードさんには通じなかったか、エリスさんは別の客と接客しながら苦笑いしている。


「じゃあ、カクカクジカジカ、これで良い?」

「良い訳あるか!アホ」


 面倒臭いな。


「今度さ、あの例の森にエルフが来るかもしれないから、エルフが好きそうな木とか草を適当に持ってきてよ」

「最初からそう言え」


 ギルバードさんが溜息を吐いてから、腕を組んで考え始めた。


「エルフの好きそうな木と言ってもなぁ、良く分からねえんだよな」

「植物採取のハンターなのに?」

「エルフって奴は元々、東の大森林に住んでるんだが、あそこは遠いしエルフの監視も厳しいから冒険者だとしてもエルフに認められない限りうっかり入ると捕まるんだよな」

「流石テロリストだね」

「テロリストってのが何か知らねえが……

 まあ、あいつ等の生態なんて当然知らねえから、好きな草木とか言われても分からねえぜ」


 やるなテロリスト、正体や支援組織を謎にするのは基本か……


「ふぅん……じゃあ、いいや」

「良いのかよ?」

「分からないならもういいよ。それに今考えたんだけど、今回の会談は貿易のための会談らしいから、相手ばかりを贔屓にするとこっちが頭を下げる事になるし」

「それで如何するんだ?」

「来るのが秋って言ってたから俺は秋で攻める事にする」

「秋で攻める?」

「秋で攻めるって言ったら、もちろん、紅葉狩りに決まってるさ!」


 ギルバードさんに欲しい木や草花を注文してから、館に戻ろうとしたとき、エリスさんから呼び止められて手紙を渡された。


 ウェンツへ届けて欲しいらしい、こいつ等まだ繋がっていたのか、爆ぜろ。


アル「紅葉いいよね」


作者「春の桜は気分を陽気にさせて元気になるし、秋の紅葉は気分を儚くさせて心が落ち着く気がするね」


アル「だから花見よりも行く人が少ないのかも、会社でも花見はあるけど紅葉狩りに行く会社ってあまり無いし」


作者「そうだね、社員を元気にさせる目的で花見に行くのは会社の利益に繋がるけど、社員を落ち着かる目的で紅葉を見せても利益に繋がるとは限らないしね」


アル「だけど、紅葉狩りの方が好きだな。

 だって食欲の秋だぜ、春よりも美味しいものが山にはいっぱいあるし良いじゃん」


作者「確かにそうだけど、花見はね、それだけじゃないの」


アル「どういうこと?」


作者「年末決算が終った後だから飲んで暴れてえんだよ!」


アル「最低だ……」

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