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私、魔石ちゃん。お披露目に王子が来ちゃ・・・ウルセエ!んなこと如何でもいい、俺はケツが痛てえよ

 翌日、昨日の内に水を流さなかったことを後悔した。

 この小娘、またアーサー王子を連れてきやがった。


 何となく何時もより従者の数が多かったから、門から入ってきたときに嫌な予感がしてたんだよね、ビルさんも頬が引き攣っていたし。

 で、実際に馬車から降りてきたらこれだよ、仕方が無いからビルさんと一緒に頭を下げる。


「ようこそいらっしゃいました」


 会話は全てビルさんに振る。俺は頭を下げるだけというか勘弁して下さい、まだ俺のケツは回復していないのです。

 不適切な発言をしたら、ビルさんのフリーキックがスピンキックに変化するのです。


「もう分かっていると思うが、今日はビクトリアが作ったという森を見に来た。どんな風に代わったのか楽しみにしている」


 心なしか楽しそうな王子を案内して森の中へと向かった。


「ここが妾の作った場所じゃっ……て!?」


 お前、草花を植えただけじゃねぇか。


「ほう、これは見事だな」

「アル!アル!」


 アーサー王子は姫様の指す方向を見て感心してしたが、姫様の方はそうはいかなかったらしい、俺を大きな声で呼び出した。


「ほ…痛!何で御座いましょう」


 本日一本目のビルシュートが炸裂した。


「何故昨日と風景が変わっているのじゃ?

 昨日終ったときはもっと植えた草花が茂って岩肌があまり見えなかったのに、それに……昨日に比べて泉が明るいのじゃ……今のこの場所は水が無いのにまるで水が流れているように感じるのじゃ……」

「それは今朝、この場所を剪定したからです」

「真か?」

「はい、この泉の周辺だけ、日光が直接当たるように剪定しました。

 そうする事でこの泉に光が当ります。そして周辺の薄暗い影と対比して明るくすることでこの泉に清らかさを与えました」


 ドヤ?俺だって偶には上手に丁寧語話せるんだぞ。

 チラッと後ろを向いたら、ビルさんが首を振って前を向けとジェスチャーしていた。少しは褒めて。


「気に入ったのじゃ!

 …………妾は剪定を舐めていたのじゃ……草木を切るだけでここまで変わるとは思わなかったのじゃ、真、真、凄い技術なのじゃ……」

「そんなに凄いのか?」

「凄いのじゃ!」


 俺はケツが痛いのじゃ!


 俺が痛みで苦しんでいるのを他所に、アーサー王子は泉とその周辺を色々な角度から見たり、触ったりしていた。


「アル、この場所の岩は一見不安定に見えるが、実際に触ると頑丈に作られているな。一体どうやって作った?」

「ほ、うっ、石灰石と砂利と砂を一定の比率で水を入れて混ぜて作りました……そうですね粘土に近いけどそれより強度な素材を岩と岩の間に繋ぎとして混ぜています」


 最初に「ほへ?」と言おうとしたタイミングでビルシュート、二本目。


「ふむ、成る程、それで隙間が無く水漏れも無くなるのだな」

「左様でごじゃいます」


 ズボ!


 本日、三本目、ただ噛んだだけなのに酷い。


「そんな事は後回しじゃ、早く魔石を起動させるのじゃ」


 そうだ早く終らせて帰ってくれ、俺の尻が悲鳴を上げている。


 姫様が「うんしょ」と言いながら、水が入っていない泉に入る。そして「何故か水が出ちゃうの魔石ちゃん」を起動させた。因みに名前は俺が今、名づけた。


 その途端、魔石が一瞬輝いたと思ったら、魔石から水が滲み出て一気にどばどばと泉の底を濡らし始める。

 ご都合主義だな、何でも有りか?前世の砂漠に行って水売りとして商売したい。

 魔石を確認してから姫様が、従者の手を取って泉から這い出る。


「泉に水が溢れるまで暫く時間が掛かります。その間、テラスでご休憩など如何でしょうか?」


 ビルさんの提案に二人が賛成して、この場を離れた。




 テラスに行っても姫様は泉の様子が気になるのかそわそわしていた。それをアーサー王子が何度も笑って宥めるというほのぼのとした様子だった。


 正直言わせてもらえるならば、自宅でやれ。


 そもそも、何で俺を巻き込むんだ?きっかけはただ噴水の近くで土に絵を描いてただけじゃねぇか!

 日ごろの行いが悪いのか?だけど日ごろの行いと言っても芝しか弄ってねえし!


 俺がブツブツと心の中で文句を言っていると、やはり姫様は我慢できなかったらしい。様子を見てくるのじゃと言って席を離れた。


「やれやれ、仕方が無いな。代わりにアル、お前が私の話し相手になれ」


 ゲッ!


 如何したら良いのかこっそりビルさんに指示をあおると、首をしゃくっただけで「行け」と特攻の命令が下る。俺にはそれが「死ね」に見えた。


 アーサー王子に近寄ると座れと椅子に勧められたので、椅子の上に正座する。


「変った座り方をするのだな」

「お褒め頂き、有難う御座います」

「いや、褒めてないから」


 こっそりビルさんを見たら、手で顔を覆っていた。


「別に公式の場では無いから畏まらなくても構わんぞ」

「いえ、これで十分で御座います」


 ケツが痛くて座れないので御座います。


「まあ本人が良いのならよいか……それでアル、お主、その庭師としての技術を何処で手に入れた。

 聞けばビクトリアと同じ9歳と聞くが、とてもじゃないが9歳で手に入る技術ではない、例えどんな師匠の下に就いたとしてもだ」

「はい、生まれる前の前世で培われた技術です」

「はっはっはっはっ、面白い冗談だな。それで実際は何処で手に入れた?」


 あれ?







 あれれ?即効で全拒否?







「答えられないのか?」


 どうしよう……


「えっと、天から与えられたと思います」

「む?自分が天才だと言いたいのか?」

「いえ、違います。僕が4歳の時、赤痢になって死にかけました」

「ふむ、それが如何した?」

「はい、その、苦しんでベッドで寝ているとき、窓の外が光って空を飛ぶ円盤が現れて僕を浮かび上がらせて、そのままさらって行ったのです」

「な、真か!」


 アーサー王子が驚いて机の上に乗り出す、俺も何かノッてきた。


「はい、そしてその円盤の中には人間とは見た目も言葉も違う不思議な種族が話をしていました。そして僕の体を色々と実験台として弄ったのです。

 もちろん僕も「止めろ!ショッガーぶっ飛ばすぞ!」と抵抗しました。

 あ、ショッガーというのはその場で考えた異種族の名称です。

 だけど結局、僕は成すすべなく体を弄られ、気が付いたら赤痢が治って再びベッドの中に居ました」

「ふむ、それで如何した?」

「それから何故か僕に剪定の才能が生まれたのです」


 全てが嘘である。


「ふむ、それは数奇な運命だな」


 あれ?こっちの話は信じるの?まあ、いいか……


「兄上、アル、水が流れてきたのじゃ、もう直ぐここに流れて来るのじゃ」


 俺とアーサー王子の会話が終る頃、興奮しながら姫様がこちらに向かって走っ……あ、コケタ


「ビクトリア!」


 アーサー王子が慌てて席を立つが、何事も無かったように姫様はむくりと起き上がった。意外と頑丈である。


「凄いのじゃ!早く来るのじゃ」


 後ろから来た従者に服の汚れを叩かれるのを全く気にせず、姫様がアーサー王子の腕を引っ張り泉へと誘う。


「分かった、分かった。落ち着きなさい、慌てなくても泉は逃げないぞ」


 姫様に引っ張られながらアーサー王子が肩を竦めて、泉へと向かう。

 その後ろを俺達使用人もぞろぞろと後を付いて行った。




 先ほどまで唯の岩場だった場所は「駄目、何かが溢れ出ちゃうの魔石ちゃん」から出た水が溢れ出て、美しい人工の泉に様変わりしていた。

 え?魔石装置の名前が先ほどと違う?何て名付けたっけ?ごめん、忘れた。


 泉から溢れ出た水は直ぐ下の岩に当って水飛沫を周辺に撒き散らす。

 そして、その水飛沫が滴り落ちて直ぐ近くの水溜まりに集まり、そこからさらに水が溢れて先ほどと同じように水飛沫を浴びて下に落ちる。

 岩場から落ちた水滴が溝を伝って一つの小川となり、俺達の足元へ流れていた。


 うん、今の処、特に問題のある箇所は見当たらないな、水の流れも予想していた通りだし。

 だけどもう少し水の勢いと落差があれば迫力を出すことも出来たなぁ、音もしょっぽいし。でもこの庭の広さじゃ流石に無理か……


「……素晴らしい」


 俺が泉の状態を確認していたら背後からアーサー王子が泉を見て驚きの声を上げていた。

 振り返るとアーサー王子だけでは無く、一緒に着いて来たビルさんや王子の従者を含めた全員が泉と渓流をただ、呆然と見ていた。


「この水流は……高さに比べて勢いが強い気がするが、どのような技法を使ったのだ」


 泉を調べて考えていたアーサー王子が俺に問いかける。


「水圧を利用しています」

「噴水と同じ仕組みか?しかしその様な仕組みは何処にも見当たらないぞ」

「例えば、ここをご覧下さい」


 そう言って、泉から水が漏れている部分を指す。


「ここは回りと比べて少し低く作っているから水が落ちるようになっていますが、その中程は少し高めに作っています。

 そしてその間に細深く指の太さほどの溝が掘られています」


 そう説明するとアーサー王子が確認して「確かに」と呟いた。


「この溝から出る水は水圧で他よりも勢いがあり、それが下の岩に当って水飛沫が出るように流れます。

 そこ以外の溝から溢れた水は左右の浅い場所から流れるように設計しています。

 こうすることで一部だけ勢いを強くしていますが、遠くから見た場合、左右の水と同調されて一つの流れに見えるのです」

「……つまり勢いのある部分と無い部分の二重構造にしてそれを一つに合わせる事で全体的に勢いがあるように見せているのか!」

「その通りです。ついでに言えば、水飛沫を発生させる事でそこに視線を向けさせ、勢いの無い水を無意識に隠すという技法も取り入れています」

「…………成る程、アル、お主、軍師になれるぞ、私の配下にならぬか?」

「ほへ」


 スボッ!


 本日四本目、そろそろレッドゾーンが振り切れそう。因みに限界超えたら、何かが出ちゃう。


「強い兵に新兵を混ぜて大軍に見せ、それをおとりに使い伏兵を進軍させるやり方と同じではないか、実に素晴らしい」


 成る程、そういう見方もあるのか……だけど、ちょっと待て、俺まだ9歳、人殺しはまだ早いと思う。それにさ、軍師以前に文字を知らないから伝令だって読めないし。


「アルを戦いの場には行かせないのじゃ」


 戦争と聞いて姫様が慌ててアーサー王子を止めに入る。


「僕なんかより、もっと良い軍師が居ると思います」


 ついでに俺もフォロー、庭師に戦争なんてやらすんじゃねえよ!断固拒否だ!


「ほう、誰じゃ」

「自然です」

「自然?」


 俺の返答にアーサー王子が首を傾げた。


「自然を愛し、自然と共に生きればその全てが戦法に繋がります」


 我ながら何を言っているのだろう、意味がわからない。


「……成る程、その考え実に見事だな。

 そして、先ほど尋ねたお前の技術力の謎も今のが答えなのだな」


 あれ?異星人を信じたんじゃないの?


「あっはっはっはっ、先ほどのあれは流石に私でも信じぬ」


 俺が驚いているとアーサー王子が一本取ったという顔をして笑った。

 ああ、騙したつもりが騙されてたのか、まあ、如何でもいいけどね。




 その後、渓流は小川へと流れ、西の排水溝へと無事に水が流れた。


 水の流れる納涼床の上で姫様がアーサー王子に泉作りの楽しさを一方的に語った。

 自分の功績のように語っているが殆どの内容が俺の作業だった。


 日が傾き始めた頃、そろそろ帰るという事で二人を玄関まで見送る。


「今日はありがとう、実に楽しかった」


 アーサー王子が俺に向かって礼を言う、身分の高いものから低いものへと礼を言うのが珍しいのか、周りの人たちが驚いていた。


「お褒め頂き、有難う御座います」

「はっはっはっ、やっと使う処でそのセリフが言えたな」

「お褒め頂き、有難う御座います」

「そこは違うのじゃ」

「冗談で御座います」


 それを聞いて二人が動きを止める、そして、


「「………あっはっはっはっ」」

「今のは面白かったのじゃ」

「ふむ、最後に笑わせてもらった、では、また会おう」

「じゃあの、また来るのじゃ」


「「……え?また?」」


 去り際のセリフに俺とビルさんがピタッと動きが止まっているのを無視して、二人の兄妹は馬車に乗って去って行った。


「ビルさん、退職届け出したいんだけど、受理してくれる?」

「……アル君、文字も書けないのにどうやって出すのですか?」

「うっ!」

「それに受け取ってもその場で破り捨てます、今、君が居なくなったらアットランド家は確実に潰れます」


 こうして、枯山水を作ったと思ったら、川の流れる森が出来た怒涛の日々が終った。


アル「ねえ、最近さぁガーデニングのジャンルはみ出してない?」


作者「ギク!」


アル「芝生はいいよ、ガーデニングの基本だしさ。だけどその次が枯山水とかいきなり難易度上げてね?」


作者「うっ!」


アル「枯山水も日本庭園の素晴らしさを伝える目的として百歩譲って許すとしてもさ、次に納涼床とか一般家庭で作れる訳ねぇじゃん」


作者「ドキッ!」


アル「それで今度は泉の作成?本当に読者が求めているのを書いてるつもりなら、頭に蛆湧いてるぜ。

 フラワーガーデニングとかもっと読者に馴染みのありそうなのを紹介しろよ」


作者「ストーリー内の季節の都合上、種を撒く季節じゃないから中々書けなくて……でもいつかは紹介する予定だよ、一応」


アル「当然だろ、問題はその順番だよ!」


作者「ごめんなさい」

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