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森の泉

 翌日、姫様が朝早くから土木屋連中と資材をぞろぞろと後ろに連れて館に来た。

 早えよ、こっちは早朝の水撒きがまだ終ってねえし。


「芝生の水撒きはこやつにやらせてお前は森の作業じゃ」


 姫様が適当に一人の作業員を捕まえて、俺の前に差し出した。

 作業員も建築作業をしに来たのに芝生に水を撒けと言われて訳が分からないだろう、俺も訳が分からんし。


 まあ、命令には逆らえない土木屋の少年に芝生にタップリ水を撒いてね、とお願いして俺も森に向かった。

 ジョウロを渡された少年は現状を理解出来ずにその場で呆然と俺を見送っていた。


「それで何から始めるのじゃ」


 ところで何で作業に姫様が来てるのかな?作業が終ったら見に来れば良いのに変な姫様だな。


 まず南西の庭の奥に向かい、深さ50cmほどの穴を掘ってもらった。次に板を使って周辺を囲む。板の高さは60cmにした。

 板は二重にして板の間は15センチほどの隙間を開ける。


 次に土木屋が持ってきた材料を見て、頼んだセメントの材料があるのを確認してから倉庫へ向かいタライを持ってきてどばどばと入れる。雑に見えるけどちゃんと分量は量ってるよ。

 それをコネコネこねくり回してセメントを作成した。


「なんじゃそれは?」

「セメントだよ」


 因みにビルさんは館の中、俺、ケツ、安全。


「セメント?何じゃそりゃ」

「これが固まると頑丈になるんだ」

「ほうほう、便利なもんじゃな」


 姫様は感心しているように頷いていたけど、一緒に居た土木屋の親方は物凄く興味がありそうだった。

 まあ、セメントなんて技術の無い世界、建築に関わる人間にとっては宝にも等しいと思う。

 だけどこの世界、セメント技術無いのかな?前世では確かローマの時代からあったけど多分魔法で「えいやっ」とやっているんだろう、知らんけど。


 こねくり回して完成したセメントを板の間にどばどばと入れる。

 セメントを入れ終わった後は、開けた穴の中に入って土がむき出しの地面をセメントで塗って補強した。

 土木屋の親方が俺の作業を見て呆然としていた。


 俺がセメント作業をしている間、土木屋の作業員はまず昨晩のうちに排水が済んだ砂利を撤去した。


 次に砂利を取っ払った川になる部分を今の状態から深さ20cm程深く掘って、東の川上から西の川下まで全体的に15度の傾斜になるように地形を変える。


 東側は俺の指導の下、小さな小川から岩の間に流れ落ちる渓流にしようとしたけど自然な形の岩が足りなくて途中で工事が止まった。


 俺達が作業をしている間、姫様は俺の傍に居て次々と質問して来るから、ちょっとうざかった。




 翌日、また姫様と作業員が来たから作業の続きをする。


 因みに、昨日芝の水を撒いていた土木屋の少年には芝刈りのやり方を教えた。

 彼は何となく泣きそうだったけど無視して、刈り過ぎないように厳重に注意をしてから後は放置した。


 セメントはまだ固まってないから放置。昨日途中で止めた渓流作りを再開。

 まず、水の流れより広めに余裕を持たせて大きな岩をゴロンゴロンと積み重ねる。


「ちょっと待つのじゃ、そんなことをしたら水が真っ直ぐ流れないのじゃ」

「この世に真っ直ぐ流れる自然の川など存在しません。在るがまま、有るがままです」


 今日は暇なのか、不安なのかは知らないけどビルさんが見学中。


「そ、そうなのか?」

「山の渓流は激しく上から下へと流れるけど、この森だとそこまで再現するのは難しいです。

 それでも渓流を作るなら、自然が生み出す水飛沫を再現するのです」

「ふむふむ、如何するのじゃ?」

「予定では泉から湧き出た水は岩に当たって水飛沫を出しながら、高さ中程の水溜まりに向かいます。

 次に水溜りから溢れた水が同じように岩飛沫を受けながら下に流れて小川になるように設計します」

「何故そんな事をわざわざするのじゃ?」

「ここの泉と地面の高さを考えると、上から直接落とすのは迫力が足りません。だから高さに加えて横幅も使って全体的に見て渓流になるように作成する予定です」

「…………凄い発想なのじゃ、ますます完成が楽しみになってきたのじゃ」


 説明した後は作業を再開、先ずセメントの分量を変えてモルタルを作る。次にモルタルを塗りつつ岩を積み重ねて隙間は砂利を入れた。泉の近くに岩で出来た水溜りを作り底に砂利を入れる。


 この段階で排水溝を作り忘れた事に気が付いたが、その記憶を忘れることにした。もはや手遅れである。


 作業に集中していたら何時の間にか姫様が消えていた。探したら南の庭で俺の立芝刈り鋏を使って芝生を楽しそうに刈っていたから放置して作業を続ける事にした。

 近くに居た芝生を任された少年は物凄く青ざめていた。


 水溜りの下にも岩と砂利を組み合わせて渓流を作り、小川に水が流れるように構築する。

 最後に水漏れが無いように渓流の脇を土で固めて、岩にも苔を置いて自然な形にした。


 完成させた渓流は泉から北、北西、西に水が落ち、北西と西は途中で合流する。そして北の渓流はそのまま森の外周近くを回って排水溝に流れるが、雨の日以外は枯山水として砂利の川になる。

 これで二重ダム構造の渓流が完成。後は実際に水を流して確認するだけだけど、それは泉が完成してからだから今はお預け。




 作業開始から今日で三日目、芝生担当の少年は芝生が気に入ったのか、俺が起きた頃には既に芝生に水を上げていた。ここの警備はどうなっている?

 今日は雑草取りと、害虫駆除のやり方を教えた。終始笑顔だったから理由を聞いたら刈った後の芝生を触って気に入ったと……新たな芝生フェチが誕生した瞬間だった。


 姫様達が来るまでにセメントの状況を確認すると、強度に不安はあるけど十分硬くなっていたから板を取り外した。

 板を取り外している最中に姫様と土木屋が森に来た。


「おおお、これは凄いのじゃ、石のようで石じゃ無く、岩のようで岩ではないのじゃ」


 姫様が面白そうにセメントを触って確かめている。土木屋の親方もセメントを触ったり叩いたりして驚いていた。


「小僧、いやアルと言ったな」

「ほへ?」


 セメントを色々確かめた後、親方が俺に話しかける。


「この技術を売ってくれ、金なら幾らでも出す!」

「それはならぬのじゃ」


 俺が口を開く前に後ろからひょいと姫様が現れて代わりに口を出す。


「仕事を依頼するときに言ったのじゃ。この森に関する技術は門外不出であると、その約束を守らぬ場合はそれなりの罰を与えるのじゃ」


 何、俺の居ないところで何。勝手に決めてるの?そんな事全然聞いてないよ。


「しかし、この技術は革命的な技巧だ。この技術があれば高い城壁や建築物も構築可能になるぞ」

「あ、それは無理、ある程度の強度にしかならないから」


 鉄筋入れれば別だけど、


「ぐぬ、そうか……それでもこの技術をここだけにするのは非常に惜しい」

「その気持ちは分かるぞ、しかしこれがもし敵国にも流れたら如何するのじゃ。敵国がこの技術を使い身の守りを固めたら、後は攻めることしか考えなくなる。

 そして、それはわが国も同じじゃ。妾の父上は戦争など起こさぬが、何世代か先の王が戦争好きならこの技術を使って戦争をするぞ、そんなの妾は嫌じゃ」


 なんとまあ、確か俺と同い年だから9歳なのに、政治的な考えをするなぁ。

 前世で俺が9歳のときって何をしてたっけ?親父の平凡パ○チとエ○トピアをこっそり盗み読みしていた事しか覚えてないな。見つかって隠されたけど。


 姫様の命令もあり、土木屋の親方にセメントの技術を教えるのは駄目になった。俺は別に教えるのは構わなかったし、小遣いも欲しかったから本当は残念だった。


 泉の中央に平らな岩を置いて、その上に魔石の良く分からないけど水が出る装置を設置する。それ以外の場所は砂利を下に敷き詰めた。

 泉の外壁と周辺もコンクリートむき出しは見苦しいから、やはりモルタルと岩で見た目が自然になるように積み重ねる。

 親方が羨ましそうに見ていたが、その目は技術を盗もうとする太った鷹の目つきだった。


「アル君、こんにちは」


 泉の周辺を土で覆っていたら、エリスさんとギルバードさんがやって来た。

 突然来た理由は、この作業が始まった初日に俺が苔と渓流の周辺に生えている草花を採取するように依頼をして、今日その品を持って来てくれたのだろう。


「おお、これはまた凄いものを作ってるな」


 ギルバードさんとエリスさんが興奮して何を作っているのか聞かれたから経緯と状況を説明した。

 姫様の件と魔石の話をしたら気絶しそうだった。実際に姫様がひょっこり現れて挨拶したとき、二人揃って慌てて頭を下げていた。


 その後二人は依頼した品を置いて直ぐに仕事があるからと帰っていった……訂正しよう、


 逃げやがった。


 二人を見送った後、草花を渓流の脇や泉に植える。水に流されないように深めに植えていった。草花を植えるのは姫様も手伝った。

 従者の女騎士の人からお止め下さいと言われていたけど、利く耳を持たず、「これは何処に植えるのじゃ?」、「こうした方がいい感じなのじゃ」と楽しそうに草花を植えていた。

 そして、何故か俺が睨まれていた、中間管理職の気持ちが分かった気がする。


 その頃になると、大勢の土木屋が作業していた小川の傾斜と三本目の渓流作りが終ったので、再び砂利を小川に敷き詰めて、石や岩を新たに上に置いた。


 最後に苔を川の底とその周辺に土が隠れるほど敷き詰める。余計な苔は川の水で削れて自然と土が出る計算をした。


「出来た」

「完成したのじゃ」


 この日の夕方、俺と姫様が同時に完成の声を上げ、その周りでは土木屋作業員達がお互いにお疲れと手を合わせていた。


「早速水を流すのじゃ」

「今日は遅いから明日の方が良いかな」


 うきうきしながら泉に向かう姫様を呼び止める。


「む?何故じゃ?」


 姫様が振り返って、顎を引っ込めて上目遣いで俺を睨む。


「今から魔石を動かしても泉に水が溜まるのが夜になるし、そうなると問題のある箇所を探すには暗くて無理だから、

 明日の午前中に水を流して水が溜まった昼間に確認作業をした方が良いと思う」

「ふむ、確かにお主の言う通りじゃ、今日は帰るのじゃ、皆の者ご苦労じゃった」


 姫様は俺の説明に納得して、土木屋を労ってから帰った。

 因みに全員が帰った後で芝生を見たら、手入れを任せていた少年が放置されて泣いていた。


アル「ここに来て魔法とか魔石とか色々とファンタジー要素が出てきたね」


作者「東の庭に井戸を掘るだけ何日もなるからね。ストーリー上、仕方が無くって奴だな」


アル「今回は水の魔石だったけど、他はどんなのがあるの?」


作者「んー火の魔石は火を作って、風の魔石は風を発生さる、土は大地を操るって感じかな。

 しかも4つ揃うと凄いぞ」


アル「何が?」


作者「大地を動かして空に浮かべることが出来るんだ」


アル「マジ?ラ○ュタだ、ラピ○タじゃん!」


作者「制御利かないからそのまま宇宙に行くけどな」


アル「直ぐにエンディングじゃん」

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