異邦の少年と糞の町
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俺の名前はアルフォード、通称はアル。苗字が無いからイワンの息子アルフォードと呼ばれている。
そして俺には何故か前世の記憶があった。
前世は植木職人で54歳まで生きていた。妻と娘も居て、娘は死ぬ三年前に結婚して孫も生まれた。妻とはやや冷めた夫婦生活だったけど倦怠期なんて何処の家庭でも同じだろう。
死因については実はよく覚えていない、弟子が置きっぱなしにしたカーボン素材の竿を振り上げて弟子を怒鳴りつけたら、凄い音が鳴ると同時にフギャーっと記憶が無くなり、気が付いたら赤子に生まれ変わっていた。
死亡の原因は落雷によるショック死だと思うけど、雷に撃たれると赤子になるとは聞いたことが無い、これで老人問題も解決だと思う。
だけど50過ぎのおやじが突然赤ん坊になったら誰でも驚く、逆に驚かない奴が居たら教えてくれ、そして興奮する奴が居たら全力で避けろ。
俺も特殊フェチは持っていないため止めろと叫ぶが、出てくる言葉は泣き声しか成らずに俺を生んだ母親はお漏らしと勘違いされて大また開きのドMプレイを何度も味わった。
何となく成長するに連れて赤ん坊の記憶が消えていくのはこの屈辱を無意識に忘れたいという本能なのからだと思う。
そして幼児プレイをするやつはこの時の興奮を思い出そうとしているのだろう。
前世の知能を持つ俺は近所の赤子よりも早く言語を理解し、段々と環境も世界についても分かってきた。
俺が居る場所はスウェンランドという封建主義の王国でそこの王都でもあるオスガに居るらしい。
自国もそうだが他国も殆どが封建主義らしく中世ヨーロッパの背景を舞台にした時代と思われる。
前世と違うのは魔法が存在して、街の外に出ればモンスターも出現するらしい。
だけど魔法やモンスターと聞いても、誰も魔法を使って無いし街の外も危険だから出たことが無いからよく知らない。
俺自身も魔法が使えるかなんて知らないし、使い方も知らないから今のところ人生には関わりは無かった。
今生の親父は城仕えの守衛警備士をしていた。名前は冒頭でも少し出たが、イワンと言って赤い髪と髭を生やした顔面偏差値も平凡な何処にでも居る父親だ。
城仕えと聞けば収入もありそうだが実はあまり無いらしい。生活に足りない分は母さんが内職をして何とか生計を立てていた。
その母の名前はマリア、こちらも取り立てて美人でもなく、少しだけ気性が激しいところもあったが普通の母親だ。
そんな平均値から生まれた子供の俺も当然ながら平凡な顔、身長体重も標準値の少年だ。
そう、何処にでもある三人家族の中流家庭、第二の人生はごく平凡な始まりだった。
年少期、俺は変わり者の少年だった。
周りからの印象は友達付き合いが苦手だが知恵のある少年。
実際は精神年齢が高かったせいで無邪気に遊べなかっただけ。知恵があるのは当然のだけど一度さらけ出して変な目で見られてからはなるべく隠すようにした。
一度だけ前世の記憶があると両親に話した事もあったが、子供の夢物語と相手にされなかったからそれ以来は口にしていない。
それと俺はかなりの潔癖症と思われているがそれには理由がある。
前世でヨーロッパの写真を見たとき美しい町並みに惹かれたことがあるが、実際に生活すると下水処理が不十分で臭いし汚いし不衛生だった。
家のトイレもただの壺、溜まったら窓から外へポイ捨て、後の処理は雨水が洗い流すのを待つだけと、不衛生の極みでこの町の住人は全員スカ○ロマニアかと疑うほどだ。
当然、子供の死亡率も高い、周りの子供達も不衛生が原因で病気になるとコロコロ死んで天国へGOだった。
俺も四歳の時、不衛生が原因で赤痢になった事がある。
その時は九死に一生を得たが、起きても寝ても糞まみれ。食事はのどに通らないし、水を飲んだら一気にブシャー。口と肛門は一つの管で繋がっていることを実感させられた。
治ってからは周りから潔癖症と言われても衛生管理に気をつけたおかげで風邪一つ引いてない。
この環境はまずい、何時死んでもおかしくは無い。だけど子供の俺が訴えたところで大人が話を聞くとは思えない。
だから七歳のとき母ちゃんが妊娠したと聞いて生まれてくる子供のために自分で行動することにした。
まず家の物置にしまってあったスコップとバケツを取り出して家の近所の通路に垂れ流しにされている人糞をスコップでバケツに入れる。ある程度溜まったらそれをもって下水道に捨てる。
次に通路を洗い流す、本当は井戸水を使いたかったけど貴重だったので下水道の水を汲んで流した。
作業が終わると体を綺麗に洗って自分が病気にならないように気をつけた。
妊娠した母ちゃんの代わりに家事の手伝いも増えたが、それでも清掃作業をする俺を見て老若男女周りからは変な目で見られていた。
「あら、嫌だ。またあの子、うんちで遊んでいるわ」
「やあね、汚らしい」
そんな汚物を見るような目で見られたが、俺から言わせれば糞まみれな生活をしているお前らの方がよっぽどマニアックだと思う。
最初の一週間は悲惨だった。
一人糞をバケツに入れる俺を見て近所の子供が俺を糞虫と呼んで馬鹿にした。一度だけ石を投げてきたから糞を投げ返したら逃げられた。そして子供には当たらず、壁に当たってその家の住人に殴られた、ぐぬぬ、解せぬ。
そして、それを見て大人たちは気が狂ったと哀れむように俺を見ていた。
だけど両親は俺の行動を止めずに好きにすればよいと言ってくれた。
行動は理解できないけど一緒に生活して俺が利口な少年だと知っているからあえて何も言わなかったのだと思う。時々アホだけど良い両親だと思った。
一週間が過ぎても近所の目は相変わらず冷めていた。
だけど一度だけ「ご苦労様」とよく知らない人から声を掛けられて少しだけ嬉しかった。だけどその人は俺には近寄らず遠くから声を掛けていた。
それと空いた時間を使ってブラシを作った。ブラシと言っても前世にあったデッキブラシなんて存在して無かったから縄の切れ端を集めてから纏めて木の棒に付けただけの品を作る。だけど石畳の通路を擦れば糞が取れて奇麗になった。その糞が付いたブラシを家に持って帰ったら母ちゃんから拳骨を喰らった。
毎日清掃をして綺麗にするが、努力の甲斐なく一晩経てば通路は再び糞まみれで汚れていた。
三週間目に入ると久々に朝から大雨が降った。
母ちゃんは止めたが水がある今がチャンスと外に出てブラシで通路を擦って綺麗にする。
近所の人たちは大雨の中を一人黙々と掃除をする俺を見てますます変な目で見ていたけど、それを無視して一人清掃作業を続けた。
二日目の夕方、長い雨が上がると夕焼けの赤い空に大きな虹が広がっていた。
そして、雨水で洗い流された通路は汚れ一つ無くなり、美しい町並みに変貌を遂げていた。
綺麗な街に掛かる美しい虹
前世の俺が写真を見てあこがれ夢見た理想郷が目の前に広がっている。
雨が上がって近所の人たちも外に出るが綺麗になった町並みの景色を見た途端、足を止めてその美しい情景を見て感動していた。
そして近所の人たちがただ呆然と立ち尽くす中、一人満足して家に帰った。
その日の晩から熱が出て、久々に風邪を引き三日間寝込んだ。
風邪が治った翌日、どうせ汚くなっているだろうと何時ものように清掃道具を持ち出し外に出ると今度は俺が驚きの声を上げる。
何故なら、街は綺麗な状態で維持されていたからだった。
俺が驚いていると、近くに住んでいる爺さんが俺に向かって笑いかけた。
街が綺麗な理由を聞くと、俺が一人掃除をしている姿を見て何か心が動かされる物があったのか、子供一人にやらせるのではなく自分達も街を綺麗にしようと話し合って決めたらしい。もっと早くやれと思ったけど口には出さない、それが利口と呼ばれるコツ。
そして、街を綺麗にしてくれてありがとうとお礼を言われた。
心の中でガッツポーズ。だけどそれも表面に出さず頭を下げてこちらもありがとうと礼を言い返した。
その後、俺が住む地区は窓から糞を捨てるのは中止、俺も糞を投げるのは中止。ごみは指定の場所に捨てる、週末は当番制で清掃をするなどのルールが出来た。
その結果、街は綺麗に衛生面でも清潔が維持され病気になる人が減少した。
半年後、俺が住む地区の会長が市長から感謝状と模範地区として表彰された。
あれ?俺じゃないの?
何となく手柄を奪われた気がするけど、一人で掃除していても降り注ぐ糞には勝てなかったし、街の住人を先導して清掃管理するルールを決めた会長が表彰されるのは当然だと思うことにした。
因みに会長は風邪が回復した翌朝、外に出たときに声を掛けた爺さんだった。表彰台に上り、記念品を貰うとき物凄い笑顔だった。
それを見てやっぱり許すことは出来なそうだった。
作者「最初から糞とかスイマセン、スイマセン、スイマセン。
だけど綺麗な物を綺麗な場所に置いたらそれは普通になると思いませんか?
汚い場所に置いてこそ綺麗な物は美しく光る、私はそう思います」
アル「つまり宝石を付けてるババアは汚いって事だな」
作者「ノーコメント」