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「もう少し運動しよ……」
まだ5分の1ほど残っているが、私は膝に手を付き、肩で大きく息をする。踊り場に設置されたベンチに腰を下ろし、呼吸を整えようとする。
高校や大学時代の私なら、この程度のことは何の苦でも無かっただろうに……。社会人になって一気に歳を取ったように感じた。
「それに比べて……」
「ふぅー。さすがに疲れますね。先輩は疲れすぎですけど」
目の前の彼女は多少呼吸を乱しながらも、私を指差してけらけらと笑っている。やはり歳なのだろうか、と少し悲しい気分になりつつも、言葉を返す気力もなく、彼女の顔を見つめ返す。
「あらら……。少し休憩がいりますかね。
私は先に展望台まで行ってますから、早く追いついてくださいね!!」
そう言うと彼女は次の階段をまたリズムよく登って行った。
今、私たちが登っているのは、私の住む地域の中で一番高い山だ。今の言葉からして、彼女はこの山に作られた展望台に行くつもりらしい。確かにそこから望める景色は綺麗で、いつもいくらかの人はいる。が、その程度だ。別に何があるわけでもない。少し遠出すればさらに眺めのいい展望だってあるし、そもそもこんな労力に見合うほどの景色だとは私は思わない。
だから、彼女が何故ここに来たのかはわからない。それでもついていかないわけには行かないし、正直なところ彼女がどういうつもりなのか少し興味も湧いてきた。なんだかんだでこの状態を楽しんでいる自分を鼻で笑って、私は再び階段を上り始めた。