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お久しぶりです。
今回はミスリード抜きの、私が一番いいな、と思う百合を書かせて頂きました。
ですので皆様にとって面白いかどうかはわかりませんが、楽しんでいただければ幸いです。
「……うっぷっ!!」
突然の吐き気に思わず意識が覚醒する。何か幸せな夢を見ていた気もしたけど、夢の内容なんて一瞬で消え失せた。
横になっているのも気持ち悪く、勢いよく起き上がる。上体をあげると随分と楽になった。
「この感覚……どう考えても二日酔いよね……」
この感覚が何に起因するかは簡単に分かった。社会人になってから何度も経験しているあの感覚。私は酒が好きだが、それほど強いわけじゃない。酒を飲み続けて、後日この感覚に襲われたことは何度でもある。
だが、記憶が全くない。甘えてろくに仕事もしない部下に、セクハラまがいの行動を続ける上司。そんな板挟みの日常に苛立って、昨日も行きつけの店に飲みに行ったところまでは覚えている。だがその後の記憶は一切ない。どれだけ飲んだのか。いつまで店にいたのか。どうやって家に帰ったのか。全て、全く。
さすがにこんなになるまで飲んだのは久々だった。
「まさかお持ち帰りされたとか……」
ひどい寒気がする。が、私がいるのは自分の部屋。いつもと変わった様子もなく、二日酔いを除いて私の体にも違和感はない。
「さすがにそれはないか……」
とりあえず安堵し、ふっ、と鼻で笑う。
「先輩、一人で何言ってるんですか?」
「きゃあっ!!」
突然自分以外の声が聞こえたことに驚き、素っ頓狂な声をあげてしまう。きゃあ、とか言ったの何年ぶりだろう。一瞬、意外にもまだ残っていた自分の女の子らしさに驚く。が、意識はすぐに最初の驚きに向く。
なんでさっきまで私が寝ていた毛布にもう一つのふくらみがあるのだろう。そもそもよく考えたらなんで私はこの狭いベッドで右側によって更に縮こまって寝ていたのだろう。しかも声が聞こえたんだから確定じゃないか。
というか、今先輩っていったような……。私後輩にお持ち帰りされたの? 誰? 佐藤? 田中? 鈴木? ん? ちょっと待てよ? 今の声って……。
「そんなに驚いてどうしたんですか……?」
私の疑問に答えるかのようにその人物は起き上がる。私の予想通りその人物はかわいらしい声に見合う……かわいい女の子だった。
ぱっちりとした目に、すらっとした鼻。透明感のある肌。綺麗な茶髪のミディアムヘアは彼女の小顔にとてもマッチしている。女の私が見ても惚れ惚れするようなかわいい女の子だった。
そもそも彼女が誰なのかもわからない。見たことがあるような気はするが、その程度にしか思い出せない時点で、こんな状態になってることは本来あってはならないことだ。
「……ほんとにどうしたんですか?
もしかして二日酔いで気持ち悪いとか? 昨日相当飲んでましたもんね」
ぽかんとしている私に彼女は心配そうに話しかけてくる。
「いや……それはもう大丈夫なんだけどさ……」
「だけどさ?」
二日酔いの吐き気なんて一瞬で吹き飛んだ。何せこの状態は異常なまでに理解不能だから。
そんな私の言葉の続きを促すように、彼女は私の瞳を見つめてくる。
「……あのさ……あなたはなんでここにいるの?」
「なんでって先輩もしかして昨日のこと忘れてます?
……まああれだけ酔ってたら仕方ないとは思いますけど。
あんなことまでしたのに……」
彼女の発言を聞いて、辛うじて低速ながらも作動していた思考回路が完全にショートする。
そして二日酔いよりも強い頭痛に襲われる。
「ごめん、やっぱトイレ行ってくるわ」
「は~い」
笑顔で見送る彼女を余所に、逃げるようにトイレに駆け込むのであった。