右の似るものぞなき5
おじいさまは、わたしには興味がないの。
嵐の次の日に怪我をして帰った時だって、薄汚れた野良猫を見るような冷たい眼差しで迎えられたわ。
俺が家族のことを尋ねると、物悲しそうな声で教えてくれた。
だからわたしは愛を、その他のたくさんの感情と一緒に、外で知ったのよ。
……友達というものを教えてくれたのは、あの子だったかしら。
もう覚えていないわね。
そう言った彼女の瞳は、何か複雑に感情の入り混じっているように、赤々と燃えたぎり、青々と静かに波打っていた。
「さしあたり問題のひとつは解決されたが、それはお前にとっての問題で、俺にとってはなんら関係がない。何も変わっていないのだ!」
彼女と少し話し合っただけでも、彼女が酷く直情的だということが容易に理解できた。
そのために断ることもせず、ただ漫然と少女が横にいることを容認した。
「あら、変わったじゃない? しゅくじょが1人、となりにいるのよ」
「淑女? 変に舌足らずだな。使えないのなら使うな」
はぁ〜、と少女の口から溜息が溢れた。
「まさか、その古びた重いだけの剣でたたかうつもり? そんなのは物語の話だわ。それに、使いこなせるのか不安ね」
「振るぐらいならできる」
「それだけ? 実戦で何の役にたつの?」
俺は苦く笑った。
「う、む」
所々に乱立している木枝の葉の一枚一枚が鋭い視線を持って俺を睨み、肥沃な土を運ぶ大自然の柔らかな風までもが、冷たい刃でもって俺の皮膚を切り裂くように2人の間を通り抜けていった。
「なにも言えないんだ?」
くすっ。ふふん。
「あは、はっ。そういうのをね、愚かっていうそうよ」
深皺男が言ってたわ。
そう少女は短く付けたした。
笑い声は次第に小さくなり、少女の笑みが消えかかって、その場を支配する一種の仄暗く肩に重くのしかかるような静寂が訪れようとした瞬間、メムロナンは閉じていた口を開いた。
「死ぬよ。……お前は、死ぬ」
「ふ〜ん? どうして?」
「魔獣がでるというのは単なる噂ではなくて、きっと事実だろう。その山に向かうなんて自殺行為だ」
「……とめるの?」
「いや。お前の好きにすればいい」
メムロナンの口からもう一度その言葉が吐いてでた。
彼は少女に背を向けると、頭を垂れるように肩を丸めて歩きだした。
少女はメムロナンが地面を見ながら歩いていることに気づいて、溜息をつくように弱々しい声をかけようとしたが、彼の背中から侘しさが溢れでるのを見るに堪えず喉を鳴らすに終わった。