波と蔭に
魔王ドリツェン候が死んだ。その報せを、杖をついた爺さんが持ってきた。
本格派文体・文章を目指しております。今作では、設定まで複雑にすると読者だけではなく私まで倦んでしまう、そればかりか作品が遅々として進まむ事態になる恐れがありますので、ストーリーはシンプルにしました。
是非御一読ください。
青年が1人、大樹の幹に手をかけていた。
農業従事者特有の厚く硬い掌が彼と大樹を繋いでいた。
大樹を中心として村が栄えた。
豊富な栄養を大樹が周りに分け与え、草木の生い繁る場所に村ができたのだ。
そして十数年前、当時赤児だった青年は、その大樹の根元に捨てられていた。
彼は孤児だった。
彼もまた、この大樹に育まれたのだ。
「メムロナン。やっぱりここにいたのね。そろそろ村長さんに会いにいく時間よ」
彼を育てた義母の声がメムロナンを呼んだ。
「ああ、わかってる」
「本当に?」
「嘘じゃないよ、かあさん」
「……わかったわ、遅れないようにね」
メムロナンは義母との会話の最中も、大樹と手をつなぎ、無数に枝分かれして擦れあう葉々を見上げていた。
足音が遠ざかっていく。
次第次第に小さくなっていくその音を聞きながらも、メムロナンは一心に大樹と心を通わせていた。
……今日、俺は村をでるよ。母さん。