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転生したけど受精卵に負けてしまいました  作者: 鴉野 兄貴
チート主人公ですが彼女に翼をくださいなんて誰が望みやがりましたか

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マサト

 長い永い夢を見ていた気がします。

小さな女の子の夢です。お母さんに抱かれてお父さんが優しい目で私を見ています。

だれだったっけ。遠い記憶。まるで私じゃないみたい。

「ユーナ。戻って来なさい」あるだす君。って誰だったっけ。

「ユーナ。ユーナ」ええっと。ずっと一緒に居てくれたような。でもこの二人ではないですよね。

お父さんは『久しぶりだね。私の大事な夕菜』とか言って高い高い。

スッゴク怖いんですけど。乱暴ですよね。でも笑ってしまいます。幼児って怖いときに笑ったりするんですね。不思議なものです。

「お父さん。ユーナが怖がりますよ」「怖いもんか。お父さんだよ! 」

髭面のゴツイ優しいオジサンに抱かれています。誰でしょう。不思議ですね。暖かいです。

隣の女の子はお母さんでしょうか。だとすると私はどなたの子供?


「草加正人。滅びろ」


 乱暴な喋り方ですね。田舎育ちの私から見てもお里が知れるというものです。

「お父さん。お母さん。行ってきます」「気を付けてね。夕菜」ほら、うちのお父さんは細身で穏やかなヒトでってさっきの髭面のムキムキのヒトって。

すごい美人さんの女の子が私を抱いています。この人が私のお母さんで。

あれ? さっき私を見送ってくれたお姉さんは誰だったんでしょう。


「くそったれ。腐れ神様共ッ この借りは倍返しだ! 」


 『草加正人』でしたっけ。知らない人。

あれ? すごく近しい人だった気が。すごく優しくて暖かくて。

というか、どうして私はこの方と殺し合っているのでしょう。

「助けられないの」「もう人の心が無いんだ」「おい夕菜。いい加減にしろ」

私と剣を合わせるヒト。この人マサトさんじゃないですよね。

短剣を手に私の腕を切り裂くのは小さな男の子。すっごく痛いです。

「ごめんね」って泣くなら切り刻むのは辞めてください。本当に。

黒い髪の耳の少し尖った女の子が何事か叫んでいます。なんか大切なヒトだった気もしますけど。ダメですね。歳ですね。思い出せません。

すっごく美男子のお兄さんが叫ぶと、幾重の光の槍が私の身体に突き刺さりました。

こうなると痛みも感じません。あ。この人ウェル様に似ているな。

長身でムキムキなお兄さんが私の振りかざす超音波攻撃を気合でぶっとばす離れ業を見せました。人間ですか。この方?

銀色の髪の美しいお姉さんの言葉が空に響き、天空から白い雷が迸りだします。

あ。あれを受けると危ないですね。だけど三人の剣で私は動けません。ああ口惜しや。人間は皆殺しに。


 傷だらけの青年が私の前に立っています。

多くは私が傷つけたのですが、しつこくたっています。

かつての私のように『草加正人』は立っています。

「しつこいなぁ」私の口から呪いの言葉が漏れます。

「そりゃ、そうだな。死んでも死にきれないわな。一番楽しい時期に赤の他人を庇って死んだオマエだ。俺とは比べ物にならねえ」ああ。うっとおしい奴。死んでよね。


「でもさ。死んでもう一回生まれ変わって、自ら生まれ変わりの術までかけて。……お前は何をしたかったんだよッ 」


 もちろん、人間を皆殺しに。

マサトの剣は何度も私を撃ちますが私の『防壁』を突破するに至りません。

「俺だったら、生まれ変わったら別の人生を生きてみたい。いや」

私の防壁術に無数のヒビが入っていくのが解ります。

『拒絶』という魂が織りなす無敵の防壁を彼が破っていくのが。

「可能なら、生まれ変わる前にやりてぇよ! 今のオレは」

ばかな。貴様のような意志薄弱で他者から与えられる生まれ変わりとチート能力を望んでいたようなくだらない者に。

「今、今この瞬間。過去から戻ってきたんだ! くっだらねぇ自分に愛想をつかして、くだらねえ自分の足で今、この場に立つために! 」


 びきびきと砕けていく防壁に戸惑うわたし。

「何故だ。この防壁が貴様に破られるわけが」

その言葉に彼は傷だらけの顔で笑いました。殺し合いをしているのが不思議なほど暖かい微笑み。

髭面のオジサンと細身の暖かい顔立ちのお兄さんの顔が重なります。

綺麗な顔立ちの少女と快活なお姉さんの笑みが広がります。

そのすべてを内包した笑みを彼は浮かべています。

「どうしてだかわかるか。沢渡。

俺にはユーナの。オマエの声が聞こえるんだ。

もう一度やりなおしたいって。誰かに愛されて必要にされて生きていたいって」


 真っ暗な空間が広がり、綺麗なお花畑が見えます。

麦の穂が実り、うちの家のほうからお料理を作る煙が見えて。

あ。あれはアルダス君ですね。うちに一直線に走っています。

遠くからトゥリお婆ちゃんとジャックさんがやってきてます。

村の鍛冶屋のカズヒトさんのお仕事の音。酒場で騒ぐ男の人たちと呆れかえる女の人たち。

酒場の店主として忙しい村長さんに愚痴を漏らす衛兵さんたちと水を口に含みながら遠くから楽しそうに微笑むウェル様。

「どうして赤の他人の村なんて守りたいなんて思うかよ! やっとわかったんだ」

砕けた防壁、私を支える暖かい腕。

「お前が、俺が護りたいって思うから、俺は変われたんだって」

なんだろう。瞳から暖かいモノが流れる。

「くっだらねえ。人の事なんてどうでもいいんだ。俺は。俺だけの快楽さえ満たせればそれでよかったのに……。聞こえるんだよ!! 」


 なにがだ。

私は奴を振り払い、砕けた防壁を捨てて幾重の攻撃術を放っても草加正人は食いついてくる。

まるで傷ついていないかのように。否。私から流れる力が、奴の傷を癒している?!

「『みんなが大好きだ』『村が好きだ』って声が! ユーナの声がなッ いつも何時でもどんな時でも、ユーナの。お前の声が届いていたんだ!! 」バカをいえ。そんなはずはない。人間は皆殺しだ。

私の指から伸びた爪は何故か重く、鋭さが鈍っていく。やがてヤツの剣がその爪を寸断した。あり得ない。

「沢渡。お前はユーナなんだ。沢渡夕菜とユーナは同じなんだ。

もう沢渡夕菜はいないんだ。悲しいけどそれでいいんだ」


なぁ。俺ともう一度、やり直してみようぜ。彼はそう言いました。

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