平凡な村娘
気が付くと私は村外れに立っていました。
こんにちは。ユーナです。どうも最近ボケが激しいようです。歳かしら。
って、アルダス君じゃないですよねぇ。
先ほどまでアルダス君とユカと一緒に遊んでいた気がしますが気のせいですよね。
外を見ると見事な夕焼けで爽やかな気分になります。
村から街に伸びる道はまっすぐで。……まっすぐで。あれ?
遠くに人が見えますね。これは良くありません。村の位置に気付かずに通り過ぎようとしているようです。
この辺は何かと物騒で、村に泊まれない場合は酷い目に遭うことが多いのです。
私はお父さんのポンチョを軽く後ろに流し、地面を蹴ってその人の居る所に向かいました。
「こんにちは」「????????!!! 」驚いた顔をしていますけどどうしたのでしょう。
「どどどど、何処から来た?! 」「何処って、この近くの村の者ですが」
この辺は危険ですので野宿には向きませんよと告げ、村まで案内してあげることにしました。
「何処から来たのでしょうか」「街のほうからだ」「どういう街ですか」
心なしかこの方、息が臭い……もとい息が荒くて嫌だなぁ。
「一応、村長さんの家が酒場兼宿屋になっていますのでそちらに案内したいのですが、ちょっと歩く必要がありますよ。暗くなっちゃいますので取り敢えず私の家まで」
記憶が飛び飛びになっているのですが、桶を私が持っていないということはアルダス君が持っているということでしょうし、籠を持っていないということはユカが果物を取りに行ったのでしょう。どうして記憶にないのかよくわかりませんが昔からですし。
「あんた、美人だな」「あら。御上手ですね」
こういうことってあんまり他所の人に言われませんからちょっと嬉しいですね。
そういって振り返ると物凄い力で畑に抑え込まれました。
「大人しくしてろ。殺すぞ」暴れる私の服に手をかける男。
「いやっ?! お父さん お母さん! アルダス君! 誰かっ 」
「こんな田舎だ。ましてや麦畑の中じゃわからねえょ」そう言って彼は私の服を引き裂こうとして。
動きがとまりました。
「お前、何者だ。なんだその」
男の腕が、指先が私のはだけた胸元を指します。
「その化け物みたいな翼は」……ばけもの??
確かに私には村のみんなと違う、
小さくて蝙蝠のような翼がありますが。
「この化け物ッ 殺してやるッ 」
男の瞳が欲情した獣のようなものから脅えと殺意を含めた瞳に。
ばけもの? ばけもの?!
あの日、私はみんなでお花畑にいって。
皆が口々に『ばけもの』って。
「いやあああああああああっ?! 」
私は残った力で『翼を広げて』空に逃れ。『力』を集中させて。
頭の中で男の子の声が響きます。
『ユーナ!!!!!!!! 殺すな!!!!!!!! 』え??
私の頭の中で響く、男の子の声。
何処かで聞いた優しくて力強い声。
前に一度聞いたことがあった筈の声。
どうして忘れていたのか。この声を。
私は翼をはためかせながら、足元で腰を抜かした男がほうほうの体で逃げていく様を呆然と眺めていました。
「悪魔だ。化け物だ」男の声がいつまでも私の頭の中を反響しつづけていました。
『ユーナ。しっかりしろ。大丈夫だ。俺がついている』
何時も私を見守ってくれている聴こえざる不思議な声すら、今の私の頭には五月蠅いだけでした。




