彼女はエジソン
「ふふふふふ。今日はダブルお兄ちゃんだ」
謎の発言をして俺たちについてくるのはユカである。
アルダス君。キミって子は。謀ったな。
「お兄ちゃんの事はアルダス君にも秘密にしていたのに知り合いだったんだね」「秘密?? 」
はて。そういってアルダス君は小首をひねる。
そう言えばユカはことあるごとに俺と話したことを村人にしようとしてバカにされ、結局親しい人にしかしなくなったのを思い出した。
積極的に今でも話すのはトゥリお婆ちゃん程度だ。
「秘密どころか今朝も聞いたじゃん。こんな幼女を連れ歩く変態の事を」誰が変態だ。しばくぞアルダス。
横一列になって歩く俺たちのあとを某国民的昭和ホームドラマアニメの幼児のような走りでついてくるユカ。
「ところで、お兄ちゃんって? 」俺が問うとユカは「今のうちにお姉ちゃんがいない処ではアルダス君をお兄ちゃんって言う練習しておかないとね」と言う。
前々から違和感あったけど、この子は実に聡い。
なのに勉学は全くダメで文字や数字を数えることすらできない。
「数字が解らないと難しいけど、魔導の才能あるかもしれないぞ。ユカ」「本当? 神官さんが魔導って悪い力だっていうよ? 」力なんて善悪はないぞ。魔導はイメージ力が大事だからユカに似合うんじゃね?
「数学というか、算数はユカは苦手だけど、数学レベルになってきたらユカは天才かもしれないね」とはアルダス君の台詞だ。
「そうなの? 」「芸術的なセンスが最も問われる分野になるからだよ」「わかんない。歌は苦手。お母さんとお姉ちゃんが巧すぎるの」
そういってまだ小さな足を嵌めた木靴を動かすユカ。
「勉強は友達と遊ぶのが好き」「それも立派な勉強」「アルダス君はそれだから大好き!! 」意気投合しているな。外堀を見事に固められている。どうしよう俺。
このままユーナたんとアルダス君が結婚。それは危険だ。
朝起きたらアルダス君に『アー!! 』されているのか。ちょっといただけない。
ユーナがラブラブとかだったら俺は尻がダブダブだ。やかましいわ。
「あれか。学習障害って奴か」そういえば聞いたことがある。そういう子供がいるって。エジソンやアインシュタインもそうだっていってたな。
「どういうこと? 」「ユカちゃんは天才ってこと」「わぁい!! 」
俺たち三人は夜道を連れ立って歩く。
「だから、学校で嫌な事あっても大丈夫だ」「へへん。私は勉強出来ないくらいで泣きませんよ~」そういって舌を出してみせるユカ。ちょっと泣いているぞ。
「魔法かぁ。『魔導士』ならざる人間には使えないって言うけど」「水晶を埋め込んだり、杖を持ったり、精霊の言葉を理解できる感性があったり、神々に愛されれば使えるぞ」
俺は根性で直接魔力を操れるが。
「今度、教えてね」「どうかなぁ。精霊の魔法は適正ありそうだけど」
ねだるユカに現時点では憶測に過ぎない言葉を伝える俺とアルダス君。
魔導は手術が必要として、精霊かなぁ。だってこの子。
「私のかみさまはバカンスに行ってるからね。永遠に」「うわ。不信心だ。シスターに告げ口だ」「ああっ?! アルダス君黙ってて?! 」騒がしいなぁ。
こういう村って隣の家まではとても遠い。
だから俺たち三人が如何に騒いでも解る筈がない。
それが現時点では幸せであり、これから始まる不幸の原因だったんだ。




