近いけど遠いヒト
「ね。ね。アルダス君。アルダス君はどう思う? 」「ユーナの望むようにすればいいと思うよ」
神殿から帰るあぜ道を私と幼馴染は歩きます。
珍しく他の友達は畑で仕事していたりもう帰ったり神殿で勉強しなくなってしまいました。
こんにちは。ユーナです。
「二人で帰ると良いよ」「ひゅーひゅー」
そういってはやしたてるちびすけ共を追い立ててから私たちは一緒にあぜ道を歩きます。
「これ以上、村で勉強できることはないって」「ユーナなら神殿で勉強を教えるとか、トゥリ婆ちゃんみたいに語り部にでもなればいいんじゃないかな」「語り部になっても畑仕事はしなければいけないじゃない」「そもそもお金にもご飯にもならないね。でも街だとお金がもらえるらしいよ」
そういって歩く私たちの頬に当たる風が心地よいです。
「この、イネって作物、何故か懐かしい気分がするの」「そう言ってたね」
?? 私、こんな話したのはじめてなんだけどなぁ。
「あのね。私」
冬でも春でも大切に着ているお父さんのポンチョを握りしめて彼に問います。
「やっぱり街に行くべき? 」「それを答えたらキミの選択にならない」
いじわる。そう思います。
「というか、街に行かなかった理由だとか言って一生恨まれそうだし」うっ。
あぜ道って歩きにくいですよね。『たんぼ』と言うもので子供のように可愛いって意味があるそうですが。……って誰に聞いたんだったっけ。こんなお話。
うーん。うーん。ダメです。歳ですね。ええ。年寄りになっちゃいました。
「キミがお婆ちゃんなら僕はどうなるんだ」アルダス君が悪態をつきます。
彼に引かれていた手はいつしか彼を引いていました。
彼の背丈に追いつこうとしていたのに気が付けば彼よりずっと背が高くなっていました。
彼にわがまま放題をしていた幼い娘はもうここにはいないのです。
「寂しいね」「ん? 」「どうしてアルダス君だけ大人にならないの? 」
私たちはイネを瞳に写して小さな小さなあぜ道にずっと立っていました。
「コドモの君に言われたくない」いきなりお尻をさわられて変な声をあげてしまいます。
「なっ なっ なにするのよ?! 」「そういうところがまだ子供」
うっさい。ちびすけ。そういうと彼は微笑みます。
「大人になれば解るって言うけど、大人になるって歳だけじゃないし、見た目だけでもないんだよ」
ほら。お嬢たん。泣かないで。手を取ってあげよう。
そういって生意気に胸を張る彼。彼の小さな掌では私の手は握れません。
私の指を握って彼は歩き出します。
ねぇ。私が村を出たら、私は姓を得て村にはほとんど帰れないんだよ。たぶん村の人と結婚することはないだろうし。
私が街でだれか知らない人と結婚していいのかな。
アルダス君は私がいなくなってもいいのかな。
私が知らない男の人を愛して、子供を産んで、お婆ちゃんになってもアルダス君は村で子供たちと遊んでいるのかな。
オトナになれないって。どういうことなのかな。




