あるだす。待て~~~~~~!
「待ちなさい。アルダス君」「い、いや。ユーナ。殺気立ってるんだけどどうしたの」
どうしたもこうしたも。
こんにちは。ユーナです。現在修羅場です。
「逃げようったってそうはいかないわよ」「えっと」
すっと扉に伸びた彼の手を私は見逃しません。
「昔から女の子に人気ってトゥリ婆ちゃんから聞いたけど」「うん」
うんって。うんって?! 歳下だからって人を莫迦にしているでしょう。
「既婚だなんて聞いてないんだけど」「ずいぶん昔の話だね」
ひぃふぅみぃ。そう数える彼ですがその指の数は足りないと思いますよ。
「多分、最後の女房を看取ったのは四十年ちょっと前……」「莫迦にしている? 」「していません」
どう見ても子供。いえ幼児といっても差しさわりの無いこの幼馴染。
不思議なことに昔から容貌が変化せず、そのくせ大人顔負けに仕事が出来るという子です。
でも、出来て良いことと悪い事がありますよ? ええ。
「ちびすけの分際で浮気かああああ」
修羅場な私たちに半泣きのユカとニコニコ笑いながら拳を握ってポーズしているお母さん。
「頑張ってね♪ 」ふぁいとぉ。
そういうお母さんを恨めしそうにアルダス君が見上げます。
「あのね。ユリカ。誰が君を」「あら? 昔の事なんて忘れたわ~ 歳ね~」
ピチッピチのプリップリなんですけど。お母さん。その美貌を娘にも少し分けてください。
もうそろそろ美貌では母親に勝ちたいところです。浮気防止になります。
「あのね。お母さんとお姉ちゃんでアルダス君は『おやこどん』を狙っているってカズヒトのおっちゃんが言ってた」……へぇ。ユカ。
……それはとてもとても興味深いですねぇ。
「あのさ。ユーナちゃん。瘴気出ているんですけど」
季節に反して汗だくの彼に呟きます。
「ぜえっええっっったいにっ?! 許さなああああぁぁい!! 」
パチパチと手を叩くお母さん。ホカホカと湯気を立てていい香りのシチューを手に「喧嘩が終わったらご飯にしますからね」と言っていますがどうみても煽っています。魔女ですよね。ええ。
隙を見て窓から飛び出した彼はシンバット爺さんもビックリの速度で走り出します。
その様子を私は窓からずっと見ています。一歩も動かず。私は『走るのは』苦手ですからね。ええ。
「温め直す前にアルダスちゃんを捕まえるのよ」「は~い。お母さん」
遠くを『見て』村の結界を示す柵をアルダス君が超えたのを確認すると私はニコリと笑ってユカに手を振ります。
「いいなぁ。お姉ちゃんは」そんな妹に大事なお父さんのポンチョを一時預けます。
ぜえええっったいにっ?! 逃がさないわよっ?!
……。
……。
「美味しいね」ユカが無邪気に笑い、シチューを沢山たいらげます。
「ですね」妙に他人行儀なアルダス君を思いっきりつねります。まだ怒っていますからね。まだ結婚していないんですから家族面しないでね。
「……おすそ分けに来たのに、お前らまたやってたの? お熱いね」
ジャックさんがニヤニヤ。なんですか。そんなんじゃありません。
「実際熱かったんですけど。死にそうなくらいに」
愚痴る彼を小突き、私はシチューを啜ります。
暖かなシチューはアルダス君を追いかけて冷たくなった体にとても美味しかったです。




