俺とアルダス君
やぁ。俺だ。
俺は今困っている。アルダス君が目の前にいる。
「こんにちは~。ユーナ」いや、ユーナじゃないんだが。
と言うか、俺男の格好だよな。ユーナの姿していないんだが。
明々と『輪』が夜道を照らすあぜ道で、俺はアルダス君と正面から相対している。
地球に残してきた母さん。事件です。
輪の暦333年本日。遂に正体がユーナたんの婚約者にばれました。どうしよう。
「じゃ、君の名前はソウカマサトさんって言うんだね」「うん」
「ユーナの生まれ変わる前の姿と」「そういうことです。黙っていてすみませんでした」
「本来ならユーナの人格を食いつぶしてキミの人格が前に出る。
それは可愛そうだったから引っ込んでいたと」「今だユーナたんでは眠っている俺すら食いつぶせないのでたまに出てきます。申し訳ないです」
巧みな誘導尋問に引っかかり、ありとあらゆることまで聞きだされた。
後半はこの通り言われるままに洗いざらい吐く羽目になった。このチビ、マジでやりやがる。
「口止め料にユーナたんの性感帯と萌えポイントを教えよう」「キミには節操って言うのはないの? 」
叱られた。子供みたいな姿なのに村一番の大人びた奴である。
実際子供たちはアルダス君にべったりで、トゥリお婆ちゃんや村長たちにも絶大な信頼を受けているからな。こいつ。
「じゃ、いつかは消える存在なのに村を守ってくれていたんだね。感謝します」「どういたしまして。あのクソッタレの神様たちに宜しく」
アルダス君が手を指し延ばす。握手かと思ったら「暗いから手を引いてよ」と言われた。こんなところで子供ぶられても。
「と言うか、生まれ変わりなんて信じてくれるの? 」「信じざるを得ないでしょう。その為にぼくは待っていたんだし。そりゃキミの存在は想定外だったけどね」ん?
アルダス君は勝手に俺の背中によじ登って「お馬さん走れ」とか言っている。少なくともユーナより年上なんだからそういうことは辞めてくれ。
「なんか妙だな妙だなと思っていたのに十五年もはぐらかされた。キミは凄いよ」「なんか褒められている気がしない」
俺に肩車をしてもらって彼は饒舌になっていく。
「惚れているんだ? 」「当然じゃん。ちっちゃいころから見ているし。というかボクより詳しい奴がいるってのが腹たつし」
俺たちは星明かりの元笑い合う。
「娘はやらん」「お父さん。娘さんをください」「お前らにはまだ早い! 」
俺たちは笑い合いながら帰路についた。当面餓鬼族が村を襲うことはないだろう。それだけは確信できる。
一言で言うとアルダス君は見た目に反してけっこーつおい(つよい)。




