サボり馬はサボり魔だけど素敵なお爺さん騎士
「シンバット爺さん。馬肉にされたいか」
ああ。またやってる。
「そんちょうさーん!! 」私たちが手を振ると村長さんが手を振ってくれます。「おお。ユーナにユカか。お母さんに渡した花の種は咲いたかね」年寄りなのに元気ですよね。村長さんは。まったく。やれやれなのです。
こんにちは。ユーナです。今日は妹に無理やり村の外のお花畑に連れて行けと言われて付き添いの途中です。
「またシンバット爺さんが仕事しないの?」いつもの事ですけど。
「畑を耕せと言ってるのに聞かないんだ」元々シンバット爺さんは戦場で活躍した軍馬さんらしいので、そういうことは苦手なのかもしれませんが。
「ひゃはっ♪ 爺さん」ユカってお馬さんと相性いいですよね。私は苦手。
あと、いくら穏やかでも馬というものは私たちの一〇倍重いので些細なことで大怪我したり死んだりしてしまうので近寄らないでほしいのですけどね。どうもユカは馬とかロバとか牛や羊や山羊に好かれる気質みたい。
「二人して何処にいくんだい? 」「あのねあのね。村長さん。お姉ちゃん連れてきたからお花畑行きたい」
だから、それはダメって言ったのに。「ダメダメ。村の外には結界を張っていないんだから餓鬼族とか出ても保障出来ない。絶対ダメ」ほら、村長さんもお怒りです。
ユナったら頬を膨らませて「だって、カズヨたちと約束したもん」「ダメ」村長さんも一歩も譲りません。
険悪な二人をはらはらと見守っていた私ですが。
「あれ? シンバット爺さんは? 」「あら??! 」
どういうわけかシンバット爺さんにつけていた鍬が地面に。
そして私たちの耳にかっぽかっぽと言う音。これって。
「シンバット爺さんが連れて行ってくれるって!! いってきま~す! 」
爺さんの背に乗って手を振るユカと鍛冶屋さんの娘のカズヨちゃん。
二人ともいつの間に乗ったの?! 降りなさいっ?!
私と村長さんは走りますが、私は走るのは苦手です。それに村の中は飛行性の魔物を防ぐ結界があります。
「こらっ! ゆかっ?! 戻りなさいっ」「やだ」
「カズヨっ?! あとでお父さんと二人で折檻するぞっ?! 」「村長さん残念でした~! 」
二人はどこ吹く風。ああ。私も小さい頃そんな感じだった……あれ? わたしお花畑に勝手に出かけたことあったかしら?
気が付いたらシンバット爺さんは荷車を轢いています。何故?!
「わーいわーい! 」「ぼくもぼくも!! 」子供の数が増えているのですが。どういうことでしょうか。
ぜぇぜぇと息を吐く私と村長さん。がっくりとあぜ道に横たわり、お花のそばで呼吸を整えます。私はともかく村長さんは歳なので辛いですよね。
「まだ若いわっ?! 」「還暦過ぎているじゃないですか」普通、還暦まで生きる人って魔導士でなければほとんどいらっしゃりません。
「どうなってもワシは責任とれんぞっ 戻ってこい!! 」
完全に村長さんに同意です。あの辺は魔物が出ますから。
「あのね。あのね。シンバット爺さんが白詰草が食べたいって!! 」お馬さんの言葉が解るわけないじゃないですかっ。ゆかっ?!
そうこうしていく間にシンバット爺さんが牽く村の荷車は遠ざかっていきます。覚えておきなさいユカ。後で折檻です。
結論として。
やっぱり魔物は出たそうですが、脅える子供たちを尻目にシンバット爺さんが果敢に立ち向かい、誰も怪我しなかったそうです。
馬って臆病で優しい生き物なのですが、やっぱりシンバット爺さんは頼りになりますよね。
それとも爺さんだけ特別なんでしょうか。元軍馬とはいえ、伝説の神馬と同じ名前なだけのことはありますよね。




