出来る村長はなんでもこなす
出来る村長はなんでも知っている。
やぁ。俺だ。お久しぶり。かもしれない。
なんせこの村には昔から領主なんていなかったからな。
領主不在の村なんて中央から駐在さんとして派遣されてくる兵士さん一人で大抵ことが足りる。
逆を言うと非常時は兵士さん一人では手に負えない。山賊とか魔物とか。
そういう非常事態を指揮したり、税を収めさせたりするのは村長の仕事である。
今でこそ領主のウェル様がいるとはいえ、ウェル様とて若輩。
ウェル様と元村長が連れだって歩き、ウェル様が彼に農業政策の指針を問うたり、助言を受けたりすることは少なからず。
ブランド化したカボチャは都で高く売れたらしい。ウェル様の美貌の助けもある。
この時期に領主のいない村に老獪な村長の機嫌を取りながら言うことを聞かせるウェル様も凄いが、やはり実務を担うのは村長である。
水門の管理による各村への利権や酒場経営の利権も持っている。彼がいなければこの村は収まらない。古くからいる村人の多くも従ってくれない。
ウェル様についている兵士も五人ほどしかいない。村人の総数からすれば反乱を起こされたらタダでは済まない。いや、ウェル様は強いからその気になったらこの村の人間皆を倒せるかもしれないがあの温和な領主様だしなぁ。
「では、そのように畑を耕します」「うむ。来年うまく育ったら他の村人たちも参加するだろう」
貴族に敬語使わせる村長スゲーーーーーーーー!!!?
貴族って魔導士なんだよな。ウェル様の魔法見たことないけど。
最近の貴族は魔法が使えない存在が増えたらしいがウェル様は使える筈だ。
処で『ウェル』って言うのは井戸だの言う意味だ。ちょっと情けなくて可愛い。
裁判とかそういったことは村の中でほとんどやっていたが、今はウェル様が担当しているので村長の激務が軽減されている。
村長は貴族に持ち上げられて最近増長が酷いが、概ね村人のみんなの為になることをやっている無欲の人で俺もちょっとリスペクトしている。
この二人がしっかりしている限りこの村は安泰であろう。
なにより村長がいないと村のお祭りは始まらない。季節の変わり目は彼の芸を楽しみにしている村人は少なからずなのだ。
その芸を魔王芸と呼ぶ。
魔王に扮した村長が各家庭の子供を回り、
悪い事をしていれば脅し、良いことをしたら褒める。
子供たちに本気の蹴りを入れられつつも(最初ドン引き)、
いつもしかめつらの村長が笑顔を見せる姿は皆に慕われている。




