出会い
なにこれ。
少女、ユーナは自らの掌を眺めていた。
確か友達と一緒にオトナに禁じられた村はずれの丘に遊びに言った筈だ。
村からも見える丘は春の花が咲き乱れ、大人たちが言うように危険とは思えない。
『ソーカ マサト』
???
少女は周囲を見渡す。花の柔らかい香りは何処へやら。薄汚い血と飛び散った肉。
そして脅える友人たち。誰に脅えているの?
「ばけもの」
震える小さな友人たちの身体はひくつくように痙攣し、土気色の顔から唾を飛ばして彼女を非難する。
『折角寝ていたのに。お前らの所為でもあるんだぞ? オトナたちの言うこと聞かないからだ』
その声は彼女の幼い心を押し潰すほど強く、広大な知識があり、そして邪悪さと善意の双方がこもった記憶は彼女の心を圧倒し、消し去ろうとする。
『おっと。すまない。俺は消える。だがな。ユーナ。この子たちの記憶は消しておくが、二度と大人たちのいいつけを破って丘に出てはいけない。餓鬼族に襲われるからな』
圧倒する大きな声に吹き飛ばされそうな彼女は涙を流し、呆然とそれを聞く。いや、聞く心すら壊れそうだった。
「解ったら返事!」
思わず叫んでしまい、ユーナは唇を押さえた。
友達のアンゼやセラフィが不思議そうな顔をしている。
見回すと一面の花畑。頭にかかる花冠とぽかんとした妹のユカの顔立ち。
「お姉ちゃん。寝てた?」
「うん」
首肯するユーナに噴きだすユカ。
「アンゼ姉ちゃん。セラフィ姉ちゃん。うちの姉ちゃんまた寝てたよ」
「夢見がちだからね。ユーナは」
「確か言ってたね。いつか王子様が迎えに来るんだって」
ユーナは癪に障るからかいを聞き流したが。
『もういるぞ』
どき。
振り返ると、ナンデモナイただの一本の樹だった。
「きの、せいよね」
「木の妖精さんをみたのね。お姉ちゃん」
「いつものユーナだね」
この後、ユーナたちは大人たちにつかまり、尻叩き一〇〇と共に一晩木に吊るされる罰を受けた。