わずかな糧と感謝の言葉と
「あくまだー。あくまだー」
熊がどうしたのでしょう。ねぼけてそう思っていた私をユカは心底莫迦にした顔で見上げてくれたので少し腹が立ちました。
おはようございます。ユーナです。
目が覚めると村は大騒ぎ。どうしたことでしょう。
朝方から悪魔憑きになった男の人たちが騒いでいるとかでウェル様が取り押さえたそうですが。
「よっぽど怖い目に遭ったんだろうね。話が分からない」とのこと。
確かに私も怖い目に遭いましたが、悪魔憑きになってほしいとは思っていません。
お母さんはこれで結婚騒動も無かったことに出来るとか言っていますがあまり感心出来る話ではないとおもいます。
そう告げるとおかあさんは「ユーナもいい年だしいっか」と肩を竦めて呟きました。胸が揺れます。どういう身体の構造なんでしょう。少し娘にも分けてください。
「一〇年以上そのイイ身体をもて余しているんだろう。今度から親娘共々可愛がってやるとか失礼極まりなかったからせいせいした」
温厚なお母さんでもそれは怒りますね。お母さんはいまだに村でも評判の美人さんです。
「まぁユーナより美人だね」むか。アルダス君。それならお母さんと再婚しなよ。
ちょっと年増ですけど。もうそろそろ私が勝つと思うのですけど?!
「無理。おばさんのほうが完全勝利」アルダス君は相変わらず一言多いです。
そういってお母さんに媚びを売って、うちの甘いかぼちゃをせしめてみせる気だな。アルダス君。知能犯め。
悪魔憑きになったソーコムさんとロムおじいちゃんですが、当面回復することもないとのことでウェル様が御家の馬車を貸してくださり、街で治療を受ける事になりました。
「これで一安心」「お母さん。不謹慎だよ」遠ざかっていく立派な馬車に安堵するお母さんに思わず一言。
ロム御爺ちゃんってちょっと目つきが嫌らしくて苦手でしたけど村の仲間であることには変わりありません。
私たち三人とアルダス君。トゥリお婆ちゃんとジャックさんは珍しく六人で一緒にご飯を食べることになりました。
「天に架かる『輪』よ。見守りたまえ」「月よ。昼夜共に我らを照らし導き給え」「太陽よ。星々よ。正義と慈愛の光を与えたまえ」
私たちは祈りの言葉を口々に唱え、わずかな糧を分け合い、楽しみます。こうしてうちの村の皆は生きてきたのです。
「今後、ユーナは呑むな」
うんうんと頷くジャックさんとトゥリお婆ちゃん。
偉そうに胸を張って怒ってみせるアルダス君に「こればっかりは仕方ないわね」といっているお母さん。何故か泣いているユナ。
私が何をしたというのですかっ?! お酒一口飲んだだけじゃないですかっ?!