妖精さんへのお手紙
『妖精さんへのお手紙』
これはユーナたんの手記である。
驚くことにユーナたんには文才があると思う。恐らく未来の文豪間違いなしであろう。
内容は一〇歳ごろからボチボチと書いた手紙を一冊のノートにまとめたもので、俺様の活躍を余すことなく記した一大スペクタクル巨編なのである! ……嘘だ。すまん。ウソついた。ごめんなさい。ごめんね。
中には冤罪ならぬ俺の関わるところでない事もあるが、
内容としては俺にその日あった日常の話、俺の助けと思しき不可解な事象で村のみんなが助かったという感謝状などが占める。
文章的には架空の誰か(俺)に向けて喋っているような感じを受けるが、小説の類をほとんど読んでいない彼女にしては相当凄いほうではないか。
語り口はジャックさんとこのトゥリお婆ちゃんに似ているんだな。あの人も『神様にお聞かせするお話』として二人の姉妹に話すし。
とはいえ成長したユーナたんは純粋に『妖精さん』の存在を信じていた頃と違っていて、日記になりつつあるのだが。
……さ、さみしくないからね!! 多分?! きっと??!
一五歳を超えた彼女は選択肢がある。
ひとつ。祭りで『お誘いを受けた』のだから素直に嫁に行く。これは本人が嫌がっていてお母さんがスルリスルリと逃げている案件。小さな村では難しいが一年後にアルダス君のお誘いを受ければ解放されるが。
ふたつ。一五歳を超えた優秀な子弟は国の資金で各村から選出され、無料で都や街の学府に通うことができる。
これは名誉であり、村の名前を姓として与えられそれを名乗ることが許される。
日記を見るに『アルダス君と結婚するなんて』だった。
この文体だと、俺たちの世界だったら「(笑)」とか、「wwwwwwwwwwwwwww」とかついているな。何て哀れなアルダス君。
この間の『ユーナ=ばか事件』ではボコボコと結構本気でユーナが殴っていた。温厚なユーナたんにしては珍しい。
ユーナたんが本気でユカを殴るとは確実に死ぬ。間違いなく死ぬ。故にアルダス君は妹分余計に殴られていた。
「ユーナは尻に敷くタイプね」とお母さんは笑ってみていたが止めないのですかと思ったら。
「アルダス君くらい働く子ならバリバリ尻に敷いたほうが安泰」とか言ってる始末。ユーナの矛先は母親に向いたがあっさり受け流すところはベテランの風格が漂う。
というか、お母さんって元冒険者のジャックさんその他が迫っても言葉と簡単なあしらいで回避してしまうんだよな。たまーに本気で危ないシーンもあったりするのに俺が出る局面になったことがない。
そういう輩は大抵女房やその他に発覚してどえらい目に遭う。しかし許す。寛大に許して恩を売る。恐ろしい女だ。何者だろうかこのお母さん。
そんなお母さんの追記も時々ある。多くは神様への感謝や恐らく早くして亡くしたダンナさんへの手紙。
よくよく見たら拙いながらもユカの字も。もう一〇歳なんだしそろそろ覚えて欲しいのだがユカは文字を覚えるのは苦手らしい。
よって、ユーナの丁寧な文字のそばにはユカの書いた下手くそなイラストがくっついて実に面白いことになっている。
「今日は妖精さんがシンバットお爺さんの怪我を治して水門の水車を治してくれました。村の男の人たちがびっくりしていました。うちの村の悪戯妖精さんはとっても親切なヒトです……ってユカが言います。ついでに美形だそうです。一度会ってみたいなぁ」
残念だなぁ。身体を共有しているからね。ユーナたん。
その願いはかなわないんだよ。
学校に行くにせよ、一年間この村で過ごすにせよ俺はキミを護ってみせるから。
俺は鼻につく臭いに『目を覚まし』ゆっくりと立ち上がり闖入者を迎え撃つ準備をする。
人間の目では何も見えない暗闇もこの『眼』は特別だ。透視能力を持っている。
下卑た男の荒い息。あーあ。童貞こじらして強硬手段とか童貞の風上にも置けねぇな。
というか風上に立つな。臭い。舌に絡むようだ。おえっ(笑)。この(笑)が重要なポイントだな。俺はユーナたんほど優しくねえぞ。
ゆっくり眠りなユーナたん。その胸に未だ見ぬ夢を抱えて。
キミに悪夢を見せるお馬鹿さんは俺が退治してあげるから。