まほうつかいになりたい
「お姉ちゃん。お姉ちゃん」
目が覚めると何故かすっきりしていて長い間泣いていたのが嘘みたい。
こんにちは。ユーナです。私って寝坊助さんですよね。恥ずかしいです。
「休んでいなくて大丈夫なの? 」うっさい。ちびすけ。アルダス君も元気みたいです。
男の子の中では一際小柄な彼ですが、凄い勢いでうちの畑を綺麗にしていってくれます。お手伝いの時だけいていいのに。
「なんか、都合よくない? 」そういってアルダス君は何処からか拾ってきた果物を差し出します。「あげない」「ヒドイ」ぶうと頬を膨らませると彼はにぱぁと笑います。
「元気になってよかった」「うっさい。ちびすけ」「うーん? そんなこと行ってイイのかなぁ? ユーナちゃんは? 果物あげないよぉ? 」
この子、普通の子なら絶対見つけられない山の珍味を見つけて来るんです。甘みって貴重ですよね。妹のユナは大喜びで果物にしゃぶりついています。『食い物で買収されるとは未熟の証よ!! 』”誰かの声”が胸の内で聞こえた気がしますが無視です。無視。
「蒸した黒砂糖入りのパンがある」「いただきます」
ええ。これは買収されたわけではないのです。断じて。
蒸したパンは程よく甘く、本当に美味しいのです。アルダス君は街でパン屋になれると思います。
「まぁ、昔パン屋やクッキー焼いていた知り合いがいてねぇ」「ふぅん」
「神族の食事もどきも作ってたっけ。あの子。機能性はあったけどパサパサで不味かったんだ」「出鱈目ばかり」「アルダス君すごーい! 」
神様のごはんなんて人間に作れるわけがないのですから。まったく。
私たち二人はアルダス君が作ったお菓子をパクパク。お母さんはお出かけなのです。
「酷い目に遭ったのよ」「じゃ、来年こそ誘う」「怖いからしばらくいい」
思わず肩を震わせる私に手も触れない彼の心遣いに感謝します。
この子、子供に見えて老成しているんですよね。よく忘れますけど私より年上ですし。
「アルダス君。遊んで」こら。私のだ。
アルダス君の持ってきた果物の匂いだらけの妹は果汁のついた手で彼をペタペタ。
「アルダス君、魔法教えて」出来るワケ無いでしょう。まったく。
魔法使いってたまーに農作物に魔法をかけに来てくれるのです。神殿の神官さんたちは良い顔しませんけど。
神官さんたち曰くインチキだそうですけど、実際虫がつかなくなったり元気に育ってくれます。
「ウェル様なら知ってるかな? 街で育っているんでしょ。ウェル様」どうかなぁ。魔法とか魔王とか見たことないですし。
妹がキラキラした目で私たちを眺めながら足元で色々話しています。
また夜中にお花を詰みにいって魔法使いに会ったとかなんとか。この歳ごろには多いですよね。
そうそう。お母さんも魔王を昔見たって言ってたっけ。お母さんが真剣な顔で嘘をつくのが珍しくて思わずユカと二人で笑ってしまいましたけど。
あのときのお母さん、ウソがばれて悔しかったのか本当だ本当だって珍しくムキになってたっけ。
「でね。でね。魔法使いさんと一緒に水門を治してね。シンバット爺さんの怪我を治してあげたの」ふふ。
妹の嘘はさておき、シンバット爺さんは村の貴重な足ですので回復してよかったです。
「魔法使いになりたいけど、お姉ちゃんが街で勉強出来るくらい賢いなら私にもなれるよね! 」どうかしら? 案外無理かも。
「もっと勉強しないとね」「だねぇ。ユカ。この字読める? 」「『ばか』って読むの」
違うわよ。ふふ。正解も見ずに私は身なりを整え、畑に向かおうとしますが。
「正解」ええっ?!
アルダス君が足元に描いた文字。
足元には『ユーナ』と書いていました。