表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したけど受精卵に負けてしまいました  作者: 鴉野 兄貴
チート勇者ですがヒロインが天然すぎて困っています
15/39

幼女と俺のでーと

「おにいちゃ~ん」


 げげっ?!!!!!


 ユーナたんに良い夢を見せてやろうと彼女を寝かしつけた俺は外に出ようとして妹のユカにつかまってしまった。この子、聡いから苦手なんだよなぁ。



「今日こそお兄ちゃんの正体を掴んでやる」


 そういって俺の服の裾を引っ張るユカ。

 その割には目がキラキラしているぞ。貴様。



「ええと、今度は何の話だよ」

「あれあれ。ちょっと変わった黒魔術で友達がこまる話の続き」

 いい趣味してやがる。



 てくてくと連れだって歩く俺たち。


 夜風が心地よく、足元のあぜ道に時々よたつくユカの手を取ってやる。


「ニシシ」


 ユカは腹黒い笑みを崩さない。

 季節の変わり目は村の匂いも変わる。

 ユカが下手くそな歌を歌いだす。


「相変わらず上達しないな」

「お兄ちゃんの歌も酷いよ」


 むうう。



 村の夜道は意外と明るい。

 天空に輝く『輪』と月と星の明かりが結構なものだからだ。


 要するに普通はコケない。

 いや、女の子だからコケるときはコケルだろうがユカに関してはユーナたんほど粗忽じゃない。



「お兄ちゃんってどっからくるの? お姉ちゃんの友達? お姉ちゃんの恋人?」

「知らん。知らん。知らん。ユーナなんて他人だ」


「お兄ちゃんがいるときお姉ちゃんが消えちゃうけど何処にいるの?

 お姉ちゃんがお兄ちゃんがいる間の事を覚えていないのはお兄ちゃんのせい?」

「トイレじゃね? あと寝ぼけているとか」


 幼女の頬がふくれて探偵気取りで俺を指さす。


「ぜったいちがうもん! 使った様子ないし! ひょっとしてお兄ちゃん誘拐犯?

 あとお姉ちゃんを眠らせてこどもにいえないことしていたらアルダス君が酷いよ」



 ふとした不用心から妹に発見されて以来、俺は時々この子の悪戯に付き合わされたりしている。

 多くは夜中なのでさっさとお引き取り願っているのだが。



「今日も水門の整備?」



 星明りの元、俺の手つきを見ながら幼女は楽しそうにしている。


「ユカ。そこの工具とれ」

「あいよっ!」


 助手気取りなんだよなぁ。まったく。


「この水門、良くできているよね」

「増水するとこっちの補助の水車が回って自動的に閉まるし、元の水の高さになったら各村に水が行くように出来ているな」



 ファンタジーには似合わないほど精密にできているが、それ故に整備が難しくまた技術的にみるべきものがあると都の役人がたまーに視察に来るくらいだ。



「これはね。神様たちが作ってくれたんだよ」

「へぇ」


 あの神様たちって伝説では300年以上前の人たちらしいけどな。


「面識あるの? 神様と知り合い? 流石妖精さんだね。妖精さんの割にはぶさいくだけど」

「どうやらお尻をぺんぺんされたいようですね。ユカちゃんは」


「せくはらー。せくはらだ~。このお兄さんへんたいです~」


 ああ。面倒な子だ。


 なんでこんな施設の整備が出来るのかは疑問だがあの神様たち、俺を小間使いか何かにするつもりだったんだろうか? 余計な転生チート特典である。



「あ、今度こっそり『シンバット爺さん』の怪我を治しておいてよ」

 あの馬さん歳だしなぁ。でももうちょっと働いてもらわないと。

「しかし、あいつ『働きたくない』って言ってるぞ」


「お兄ちゃんお馬さんの言葉解るんだ?! あの御爺ちゃん馬、いつもそんな感じだよね」

「昔は英雄を背に載せて活躍したらしいぞ。延々と自慢話を聞かされた」


「人に歴史ありって言うけど馬もそうなんだね。二束三文でうちの村に来たのに」

「あの爺さん馬、若い時は気が荒かったらしいからな。自分に合わない乗り手は皆蹴飛ばし、厩に閉じ込められたら厩を破壊しと暴れに暴れたそうだ」


「今は穏やかで子供の人気者だけどねぇ」



 水門の整備は終わりッと。じゃ、シンバット爺さん処に行くか。


「あんまサボって子供と遊んでいると馬肉にすっぞと伝えておかないと」

「あはは」


 あれでも村の荷物を運んで街まで往復してくれる貴重な脚なのだ。彼は。



 ユカはちょこちょこと短い脚を動かして俺の服の裾を掴む。

 キラキラと輝く目で俺を見つめて。



「おんぶ」


 またか。またなのか。

「わーい。たかいたかい。たかいたかい~」

 うううう。

「はしれはしれはしれ~」

 夜中に騒ぐな。まったく。


「俺はシンバット爺さんじゃないぞ」

「じゃ、おっちゃん」


 こらあ?!


「お兄ちゃん、お姉ちゃんの恋人とかじゃないなら、お父さんの生まれ変わり?」

「どうしてそうなる」


「だって優しいし」


 うーん。でも違う。


「どうして村の人たちの事全部知っていて、村のみんなの為に働いてくれるの? 妖精さんだから? あたしのほかのひとはお兄ちゃんの事知らないよ? お母さんだけじゃなくてお姉ちゃんだって信じていないもん」

「どうだろうなぁ」



 まぁ見られても記憶を消してしまうからだが、何故かこの子の記憶は消せないらしい。妹を想うユーナの意識が働くのだろうか。



 思案しながら空を見つめていたら。お。流れ星が三つ。



「おねーちゃんが泣き止みますように。

 おねーちゃんのばかが治りますように。

 おねーちゃんのまぬけが治りますように」



 一応お前は知らないようだが、ユカ。


 ユーナは此の事自体は記憶にないとはいえ潜在意識には残っているから後で折檻されっぞ。

 そんなことを思いながらこの姉想いの小さな娘の幸せを祈る俺であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ