カマトト
「もういい加減に泣きやみなよ」
家で泣いている私を心配してアルダス君がやってきたのですが。
「近寄らないでよッ 汚らわしいッ」
わたしは小柄なアルダス君に向けて枕を投げつけてしまいました。
シーツを頭から被って震える私の耳にお母さんの謝る声が聞こえます。
「ごめんなさいね。アルダス君。まだうちの子、脅えていて」
「ううん。仕方ないよ。こっちこそごめんね」
お母さん。謝らなくていいよ。
「あ~あ。アルダス君ならお兄ちゃんでも良かったのに。ちっこいけど」
「いちいちユカは一言多いね。誰に似たのかなぁ」
妹のユカに向かって膨れるアルダス君の顔が脳裏に浮かんで少しだけ笑うことが出来ました。
同時に膨れたアルダス君と一緒に笑い出したのであろう二人とお母さんの笑い声。
ユーナです。
お祭りの後は寝込んでいます。ごめんなさい。
あの後ソーコムさんのお父さんが怒鳴り込んできました。
お母さんが謝る姿を窓から見ていました。
悔しくて堪らなかったです。
どうしてうちが謝らないといけないのでしょう。
「ロムさん。お爺さんの癖に元気なんだから」
母さんはそう後で笑っていました。
お母さんはあちこちの男の人から贈られたものを近くの女の人たちに配っていきます。
うちに取り分残してもいいのにと昔いったことがありますが。
お母さん曰く「女は敵に回さないのが一番」だそうです。なるほど。なのです。
ばふ。
シーツの上に乗られました。
ゆか~?! 後でお仕置きしてやる。
……えっぐ。
「どうしてお姉ちゃんはアルダス君のお誘い断っちゃったのよ。せっかくお兄ちゃんをいっぱい可愛がることができると思ったのに」
膨れるユカはシーツを被って泣いてる私に追い打ちをかけてきます。
……。
……う。
「えっぐ。えっぐ。ううう。うえええん……。
だって誰も教えてくれなかったしぃ……うっ。うぅっ」
「こら」
そういってお母さんがユカを叱ってくれます。
「カマトトと思ったら天然でした」
「うん。お姉ちゃんが残念なのは妹の私が一番良く知ってる」
シーツを被っているのに頷き合う家族の顔が透けて見える気がしました。
「私、グィン兄ちゃんのお誘いならいいなぁ」
「ませているね。ユカ」
「へっへ~ん! お姉ちゃんみたいな失敗はしないもん!」
グィンって私の一つ下ですけど。
ユカ。そういう趣味だったのですか。
というか、ウェル様ウェル様って。その指摘を母がすると。
「理想と現実は違うのよ。お母さん。ウェル様は男の人が好きなのよ」
「詳しく」
どうして意気投合するのですか。二人とも。
たしかにウェル様は清廉潔白すぎて女性の影がありませんが。村の女の子は皆玉砕していますし。
「ああ。でも時々お姉ちゃんと一緒にいるお兄ちゃんも良いけど。グィン兄ちゃんより男前だし。見た目変だけど」
「またその話?」
??
思わずシーツから顔を出してしまいました。なにそれ。
胸を張って頭上の母に「ウソじゃないってッ」と叫ぶ妹とハイハイと宥める母に違和感を感じながら急激な眠気に襲われた私は眠りについてしまいました。
「だから、お姉ちゃんが時々家を抜け出すと、カッコいいお兄ちゃんが村に姿を現すんだって!」
「で、その人が水門を閉じてくれたり空を飛んでユカと遊んでくれたりするんでしょ? 何度も聞いたわよ。本当にユカは想像力豊かよね。その癖絵も歌も下手なんだから。誰に似たのかしら」
「私は普通! お姉ちゃんとお母さんは歌くらいしかとり得ないじゃ……いだだっ?!」
あの子、一言多いんだよねぇ。
ふあああ。失礼。眠いです。眠い……ねむ……。