あのひとのもとに飛んでいきたい
私はあの不思議な体験のあと村に飛んで帰るとアルダス君に詰め寄っていました。
「アルダス君」
「はい」
ふふふ。
「草刈り宜しく」
「横暴だ」
彼はがっくりと肩を落としました。
女手三人だと畑仕事って大変ですから。
ユーナです。無事成人の儀式を終えました。
神様の祠へのお詣りは険しい山道を歩いて行かないといけませんでした。
案の定、村の掟に従い、アルダス君に置いてけぼりを喰らって飛んで戻ることとなりました。
事前に家族やジャックさんから色々助言だか脅しだかわからないことを。
「怖くない。お姉ちゃんなら大丈夫」
「魔物なんて出ないわよ? むしろ魔物さんが心配」
「大型の肉食獣はでない。ハズ」
無事終わったから良いですけど筈って何ですか。ジャックさん?!
村のみんなに手を振って送り出された私は慣れない足を使って山道を登って。
「ぼくより脚が長い癖に体力ないね」
アルダス君は相変わらず一言余計でした。
ちょっと走るのが得意だからって調子に乗っています。
ええ。競争では私に敵わないくせに。
「反則じゃん」
「何処が」
まっすぐ進んで何処が悪いのですか。
「コースアウト禁止」
「しーらないっ」
「また木の枝にぶつかったりして怪我しても知らないよ」
「ご心配有難うございます」
しばらく黙っていた私たちはお互いの目を見あって大笑い。
「じゃ、ここで」
手を振って別れて、戻ってきたら案の定『掟だから帰る。一人で帰るのも試練の内』という書置きが。
「覚えておきなさい」
などと言うより早くアルダス君を吊し上げた次第です。ええ。
性格が悪い? 知りません。怒っているんですから。ええ。
でも、幼馴染と結婚なんて実感が沸かないなぁ。
お母さんみたいに運命のヒトとの出会いとかあったらいいのに。