どうやら司教様はバイオレンスなようです。
指先がもう乾いているであろう傷口を撫でる。
「なあ、知ってるか? 邪眼を持つ奴の地は、他人が一定量体内に得ることで――」
「延命できるんですよね」
ゲームでクレアさんがそうだったから知っている。
「正解。じゃあ理由を説明する必要もねえな。」
アルフレッドさんの唇が吊り上がる。
その隙間から鋭利な犬歯が覗いた。
――――体が、動かない。
再び、彼が近づいてくる。
ああ、やばい。血ぃ吸われる!
「いい加減にしなさい、アル」
だが、彼の行動は光の壁に阻まれて失敗に終わった。
そうして声の飛んできたほうから一直線、彼の体を銀色の光が突き抜ける。
えー…… ええー……
「痛ってえな。またお前かよ、エトワール」
彼の背後にいたのは、笑顔でアルフレッドさんの体から伸びた大きな十字架を握る司教さんでした。
ええ、ええ、攻略キャラですとも。
「大丈夫ですか? 怖かったでしょう。今、始末しますからね」
そしてエトワールさんは彼の体に突き刺した十字架を――――
ひねった。
「あでででででで!」
「静まりなさい、吸血鬼」
な、なんとバイオレンスな!
ゲームでこんな描写はなかったぞ!
クレアさんが『魔を退ける』の邪眼でゲームにこのシーンが映らないからってこれはひどい!
「さて」
終わったのか、はたまた気が済んだのか。エトワールさんは十字架を引き抜く。
不思議と血は出ていない。そういう武器じゃないんだろうか、この剣みたいな大きさの十字架は。
だが、引き抜いた途端、アルフレッドさんは気を失ったように体勢を崩す。
「危ッ、」
「大丈夫ですよ」
エトワールさんは微笑むと――――
彼の頭めがけて蹴りを繰り出した。
ドガアッ、と音を立てて壁へめり込むアルフレッドさん。
「え、ちょい、なにやってんだエトワールさん! アルフレッドさん! アルフレッドさーん!! 生きてますかー!!」
「ん……エトワール? ま、まさか俺、またやったのか!?」
「ええ。これで37回目です。私の手を毎回煩わせるのはやめてください。」
さんじゅっ!? なんですか、メイドさんの血、吸いつくす気ですか。恐るべし……
「わ、悪い。ほんっとスマン! わざとじゃないんだ!」
「あー、えっと、大丈夫ッス。ほら、怪我もしてないし。貴方が心配することないですよ」
ま、確かに怖かったけど。というかクレアさんは毎日こんな恐怖と隣り合わせているのか……すごいなあ。
「……ありがとう。お前、いいやつだな! 俺はシャルロッテ・アルフレッド。アルって呼んでくれ! 敬語もなしだぜ!」
知ってます、はい。
「あ、っと……立花華音です。」
「敬語はいいって。はい、仲直りの握手!」
右手が差し出される。
何のためらいもなくその手を掴んでから思った。
この人、こんなに爽やかさんだったっけ?
刹那。
そのまま手を引かれて彼の腕の中に飛び込む羽目に。
え、え?
「痛ッ」
首元に感じた強烈な痛みに思わず目を閉じる。
ああ、もう! なんなんだよ!
なんか涙出てきた!
その涙が雫となって頬を伝う前に。
「いい加減になさいと言ったでしょう」
え、なにこれコントみたい。
アルさんが殴られました。
アルさん気の毒……