どうやらピンチなようです。
ああ、クレアさん……引っぱたいたな。
ざまーみろサタナ、さん! 年上立ったら困るしね。年齢なんかゲームで出てこなかったし。って、そんな事じゃなくて。
呆然としたのか、サタナさんの腕が緩む。
してやったり、とばかりに私は逃げ出した。
そうして、こっそり部屋を出る。
バレるな、危険。
幸いなことにサタナさんたちは言い合いをしてくれているし、メイドさんたちの視線もすべてそちらだ。
ぱたん、と扉を閉めて柱に寄り掛かる。
冷たい。
これが俗にいう大理石だろうか。うむ、悪くないな……
「……おい」
「うひゃい!」
……。
「ぶっ……なんだその声。」
笑うな! びっくりしたじゃないか。
「プランツさんでしたか! 寿命縮みましたよ。返せ!」
「いやそりゃあ無理だ。……コレ。さっき魔王の剣でちょっと切れてたから。ほら、絆創膏」
え? あ、本当ですか。気づかんかった。
「ありがとうございます」
とりあえず愛想笑いだ。たとえ私の方が早く知っているとは言っても気は抜けない。
「別に心配したわけではないぞ。」
「はい、わかってますよ。」
そりゃあそうだ。私なんか心配してる暇があったらクレアさんとこ行けって言うね、私なら。『クレア×プランツ』の絡みが大好物の私としてはもっといちゃついてほしいんだけど。
実際、ツンデレなんていてもめんどくさいだけだし。
「……血」
「へ?」
血? 血がどうしたんだろう。
「プランツさん、もしかして血とか見るの苦手ですか?」
王子も可愛いとこあるじゃないか。血が苦手だなんて、新米看護師じゃあるまいし――いや、ちょっと待てよ。何か忘れている気がする。
プランツさんに関する特別なことを。
「……お前、馬鹿か」
反応ができなかった。急に埋まる彼との隙間。
――思い出した。
プランツさんにそっくりな弟がいることを。
そして、しばしばその弟君と入れ替わっていることも。
「逆だ」
そう耳元で呟かれて、肩が跳ねた。
後に、血が苦手だということについての返答か、なんて流暢に考える。
エルフセリア王国、聖十字騎士団団長である彼の名は。
「シャルロッテ・アルフレッド……」
「俺の名前も知ってるんだ? さっすが邪眼、とでもいうべきかな?」
ぬるりと首筋に生ぬるいものが這う。舐められたのだと気づくまでに時間を要した。
「さぞかしおいしいだろうなあ」
首元で響く低音ボイスに足が震えそうになるのを必死で隠す。
そうして彼は、舌なめずり。
なんでさっきまで思い出せなかったんだろう。
でもここまで近づかれてからそんなことを考えても遅い。
そう、彼は――
吸血鬼なのである。
双子じゃないですよ。顔が似てるだけなんです。