どうやら封印が効いていなかったようです。
「初めまして、華音ちゃん。俺はサタナ・シリウス。……魔王さ」
「――はあ?」
いや、確かにこの人も攻略キャラだけれど。
何で……勇輝に封印されたんじゃ?
「何故俺がここにいるのか分からない、という顔をしているね。いいよ、説明してあげようじゃないか!」
ああ、どうしよう。
ゲームでは素敵な自意識過剰なタラシキャラだったのに……現実にいるとウザい。
超ウザい。
「はは、眉間にしわが寄っているよ? まあ、そんな顔もかわいいんだけどね」
「あ、あのー……ご用件は?」
人差し指で私の眉間をつんつんする魔王に溜息ひとつ、恐る恐る問う。
「今言ってもいいんだけどね。勇者が――」
「お前、なぜ生きている!」
じゃっきーん。
素敵な効果音とともに勇輝が剣を抜く。
そうして、切っ先をこちらへ向けた。
ちょ、待って! 刺さる! 私に刺さる!
「何故、って……君、あんなチンケな封印術で俺を完全に封印できたとでも?」
「――ッ!!」
目をつむって悔しがるな!
あああ危ない! 串刺しにされるって私!
「おい、神崎。ちょっと落ち着け。」
そうだよ、プランツさんの言うとおりだよ。落ち着け勇者!
「あれで駄目なら……今度はこの聖剣で斬るッ!」
聖剣だったのソレ!? そんなんで刺されたら私確実に死ぬじゃん! なんでンな危ないものこっちに向けるんだよ!
「一つ忘れてないかな、勇者。こっちには――」
え。
首筋に何か冷たいものが触れる。
もしかして、これって、
「人質がいるんだよ」
あ、私そういうポジションでしたか。
殺されるパターンですか、そうですか。
「華音に触んな!」
「おおっと、勇者。それ以上近づいたら華音ちゃんの首は無いよ?」
ちくりとした痛みに顔を歪める。
……マジで?
「もうやめてください」
スッと私の前に人影。
「争って何が変わるんですか。それに、関係ない華音さんまで巻き込んで……これ以上こんなことをするようなら、私が二人とも――殺しますよ」
クレアさんが左手を左目に添えた。
この子も確か邪眼なんだよな。ゲームの中では『魔を退ける』とか言われてた。魔力持ちにしか効かないんだっけ? ううん、そっちのルートはまだやってなかったからわかんないや。
でもこのセリフが出た、ということは。今はまだ第一部だ。これで魔王が――
「ふーん、面白い。気に入ったよ。君――俺の女になれ」
ほらね。それで人質だったメイドさん、つまりここでは私を開放して、クレアさんの唇を奪おうと――
「おい、華音を放せ」
勇輝が声を上げた。
そのとおりだとしか言いようがない。何故、私の首根っこをつかんだままクレアさんに迫ってらっしゃる! お前は浮気者か!
「え? 嫌に決まってんでしょー」
悪気も何もなさそうに零されたその言い分。
だが、彼女は黙っていなかったようだ。
パアン、という小気味良い音が響いたのは、それからすぐ後であった。
じゃっきーん☆