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本を読むということ  作者: 赤月忍
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ある日、いる子さんがいつものように本を貸してくれたのだが、

 二冊とも同じタイトルの本だった。

 一冊はひどく汚れていた。見た目があまりに悲惨で、黄ばんでおり、紙もよれている。

 もう一方は新品だった。

「これね、同じ本で内容も同じなんですよ。汚れてきたからもう一冊買おうと思って、

そしたら新装版で出ていたのでそちらを選んだんですよ。

 あとがきが別の人で、いいこと書いているので両方お貸しします」

あとがきが二パターンあるからと二冊同じ本を貸す人ははじめてだったが、

もういる子さんのこういうところに慣れてきていた僕は、もちろんお礼を言ってそのまま借りることにした。


 また、こんなこともあった。


 外国人作家の本は、訳者さんが日本語に訳してくれていて、

 それを僕らが読むわけだが、著名な作品なら複数の人が訳している場合がある。

いる子さんはそんな外国作品に関して、訳者さんの違いで作品から受ける印象も違う、と言っていた。


「私たちが読むのは、作者の方だけではなくて、訳をしている人と、二人が関わっている文章ですよね。

 もし原文が英語で、もし私が英語が出来たなら、きっと日本語で読んだときとはまたひとつ違った印象を受けると思うんですよ」


 そこで僕といる子さんが共通で知っている有名な外国人作家の作品の話になり、

 僕が読んだのと違う訳者バージョンを持っているということで貸してくれた。

 これまた珍しい本の貸し方である。


 僕がこの一件で嬉しかったことは、貸し方が珍しかったからではなく、

 いる子さんと共通の作品について話が出来たことだ。

 あまりいる子さんとはジャンル的に被ることのない本の読み方をしていると思っていたのが、

 意外とそうでもなかったことに親近感を覚えたし、

 本の貸し借りを続けていくことで少しずついる子さんの好みそうな本が分かってきたというのも嬉しかった。

 会話の代わりに、本の貸し借りによって見えないメッセージをやりとりしているのだから、当然なのかもしれない。


 小説だけでなく、漫画を貸してくれたこともあった。

 言うまでもないかもしれないが、カバーは外れていた。

 それも彼女は、何十巻とあるシリーズ物の、間の一冊だけを貸してくれた。

 最初は、全部を通して読んだ方がいいのではと思ったが、

 いる子さんはどの場面が好きで僕にこの一冊だけを勧めてくれたのだろうか、などと考えながら読むのは楽しかった。


 本当に、色んな本を借りて、色んな本を読んだ。普通の友達から借りた本や、

 家にあったから読んでみたというだけの本では得られない感動もあったと思う。

 真実読書が好きないる子さんから借りた本だからと思い、深くまで理解をしようと熱心に読んだからだろう。


 ちなみにここでの「真実」という言葉は「本当に」とか「まったく」と同じ意味で、副詞的に使っている。

 いる子さんの、読書に対する思いは不変で確かなものだ。

 真実読書が好き、これは僕の読書人生に大きな影響を与えてくれたいる子さんにとって、最も相応しい表現だと思う。


 気が付けば夏休みは、終盤に差し掛かっていた。

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