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微笑みをもう一度…

ただならぬ気配を感じ、私の本能がヤツは危険だと告げた。


私は彼に飛びかかり、「返せいっ」と大事な大事な宝を取り返し、散らばった荷物をかき集めた。


猛烈にダッシュし信号が赤に変わる前に信号を渡りきった。そのまま一目散に地下鉄まで走り、電車に乗り込んだ。


「ふぅっ」


安堵の息をつく。


(なんなんだアイツは)


やっと息が落ち着いたころに最寄り駅に着いた。まぁ、よくわかんないヤツだったがこんなこともあるか、と気持ちを切り替えそそくさと家路を急いだ。


(まぁ、感じ悪いヤツだったがカッコよかったな…)


私は、不覚にもそんなことを思ってしまい、おいきり首をふるのだった。

しかし、まだその時は知らなかった。私が大いなるミスをしたことを…そして、そのミスが私の人生を変えることを…



☆数週間後☆


今朝は、あまりの苛立ちにけたたましい目覚ましを投げ飛ばした。…三時間しか寝ていない。


ここ数日は、私は仕事漬けでまったく癒しの時間が持てていない。そのせいで、同人誌の原稿も遅れているし、読みたい漫画(もちろんBL)もたまっている。


私の職場は、新聞社だし普段もかなり忙しい。だが、ここ数日は拍車がかかっている。


今日から2週間インターンでやってくる大学生の、教育係にさせられてしまったからだ。


そんな雑務は、新人にやらせてくれーと上司に詰め寄った。


しかし、何でも有名大学のエリートが多く、社としても優秀な人材を確保したいので、採用も視野にいれた本格的な研修がしたいとのことだった。


断ることもできず、私は自分の仕事を早めに片付けねばならなくなり、無理なスケジュールを組んでいた。


(くそぅ…欲求…不満…漫画が読みたい…)


眠さより漫画が読めないことを悲しむ私に関心しながら、自分の身体に鞭打って引きずるように出社した。


出社してしばらくすると、アシスタントの新人社員・小出君に案内されてエクスターン生達が、やってきた。


上司と他の国際部のメンバーの前に、若い顔が一列に並ぶ。私も上司の横に立った。


(やっぱり若いなぁー、20人っていってたよね…)


私は、全員の顔を順番にざっと見ようと目線を動かした…が…


(げっ!!!!!)


なんと、あの感じの悪い悪魔野郎が一番端に立っているではないかー!!!!


(な、なんでアイツがっっっ)


私は、あまりのことに声が出ない。あたふたとする私は、彼から目が離せない。


(ど、どうする、私??)


私は彼を凝視する。しかし、彼は一向にこちらを見ない。


(あれ、もしかして気づいてない?)


あの日は、暗かったし一瞬だったから気づいてない可能性が高い!


このまま知らぬふりをして乗りきろう!と心に決めた瞬間…


ぱっ、とヤツと目があった。



そして、何を思ったか近寄ってくる。


「あれ?水口さんじゃないですか、お久しぶりです。」


彼は屈託のない笑顔を見せる。あの悪魔のような笑みが嘘のようだ。


「おっ、水口君、知り合いかね?」


戸惑う私に上司が尋ね、皆の視線が私に集中する。


「え、あ…」


私は咄嗟のことで上手く答えられない。


「はい。昔、英語の家庭教師をしていただいていたんです。」


「がぁっ!」


私は、あまりのことに変な声が出てしまった。何を言っているんだ、コイツは。


「そうだったのか。よかったな、君達インターン生の担当はちょうど彼女なんだよ。」


上司は何の疑いもなく、よかったなと私にも言ってくる。


「そうなんですか。水口さんにまた教えてもらえるなんて光栄です。水口さんはとても読書家で…今も読んでるんですか?B…」


ぐぁっ!とかホギゃッ!とか、訳のわからないことを口にしながら焦って彼を上司達から引き離した。


「ちょっと!何言おうとしてんのよっっ」


私は上司達に聞こえない細心の注意をはらいながらコソコソ声で彼に詰め寄った。


すると、また凍りつくような微笑を浮かべ、彼は耳元につぶやいた。


「黙っててほしけりゃ、まず昼飯でも奢れよ」



※※※※※※※※※


…というわけで、私は彼と昼食を一緒に食べている。もちろん、私の奢りだが、今日で5日目になる。


(毎日かよーっ!)


と泣きたくなるが仕方がない。あと少しの辛抱だ。


彼は、初日二人になると、「あの時の落としものです。」と私の名刺入れを差し出した。


(ヤツは、これで私の名前と会社を知ったのか…?)


不信に思いながらもこの5日間、昼飯を毎日一緒に食べている。


しかし、彼は態度も丁寧で、普通のインターン生のように色々と仕事について質問してくる。初めは何を企んでるんだと身構えていた私は、無邪気に研修をしている彼の様子に正直拍子抜けした。


(な、なんだ、コイツがここにいるのは偶然だったのか。)


彼は、藤城宏明(22才)。現役のT大学の三年生だ。国際学を研究しているようで、もちろん英語は完璧。更に、中国語とフランス語も話せるらしい。大学では、サークルを作り起業し一応社長という肩書きも持っている。


その上、1日で社内中の話題になるぐらいのイケメンだ。色白で、軽くワックスで固めただけのラフなヘアスタイルが爽やかで嫌味がない。


身長も高く185センチくらいあるだろう。スラッとしているが細すぎず、大学ではテニスもしているという。丸く可愛らしい目だが、高い鼻と薄い綺麗な唇が彼の顔を男らしくしている。


話し方も声も、人を惹き付ける。しかし、自分がイケメンであるとか秀才さを誇る所がなく、話題が豊富なのに聞き上手だ。研修のことも良く理解し、他の研修生より抜きん出ている。


少しずつ私も警戒心がとれ、彼はそんな悪い人じゃないし、真面目な良い学生じゃないかと思い出した。


彼も、そんな私の変化に気付いたのか、色々とプライベートな質問をしてくるようになった。


兄弟いるんですか?とか、大学どこですか?とか、出身どこですか?とか当たり障りのないものだ。


私は、その頃には彼にすっかり心を許していたので、ちゃんと答えた。


(取り越し苦労だったな)


疑って申し訳ないなとも思い始めていた。そして、私も彼に軽い気持ちで質問した。


「藤城君は、何で我社に来たの?将来、マスコミに入りたいの?」


一瞬彼は目を丸くして私を見た。そして、何か考えるように手で口を塞ぎ斜め下を向いてしまった。


(あ、あれ?私、何か変なこといった?)


不安になった私は、彼を覗きこんだ。すると、彼は小刻みに震えている。


(え、泣いてる…?)


彼は、しばらく下を向いたままだ。何か不味いことを言ってしまったんだったらどうしよと彼が心配になった。


急に彼は、顔をあげだ。


「…入りませんよ」


彼を見てまたゾクッとした。またあの悪魔のような笑みを浮かべていたからだ。


(わ、笑ってたのか…??)


「あんた本当お人好しだな。会社にもマスコミにも、全く興味ねーよ」



いきなり化けの皮を剥がした悪魔を前に私は、ぶるぶる震えてるしかない。


「名刺見たって言っただろ?脅されて飯まで奢らされて、ちょっと真面目にしたらすっかり忘れやがって」


「え、え、え、じゃ、じゃあ何で…?」


男は、冷笑を浮かべ私を見た。


「俺、プライド高いんだ。あんた俺を公然と叱りつけただろ?あれが許せないから仕返ししに来たんだ」


ガーーーン!!!!


(ヤバい、やっぱりコイツはヤバい、だ、誰か…け、警察…)


あまりのことに、腰を抜かし椅子から転げ落ちた。私達は、外のテラスにいた。周りにはお客さんがいなかったから良かった…と思ったが、いや違う!助けを求めなきゃと周りを見回した。


すると泣きそうになりながら、キョロキョロとする私に、手がさしのべられた。


「大丈夫ですー」


悪魔は、こちらに来ようとした店員を笑顔で軽くあしらい、私の手を引いて優しくて席に座らせた。


「助けを呼ぼうとしても無駄だ。」


しかし、優しい動作とは裏腹に悪魔は私の耳元につぶやいた。


(ヤバい、殺されるー!ひー)


パニックになった私は、咄嗟に謝るしかないと決めた。


「す、すいませんっ!ごめんなさいっ、許してー、い、命だ、だけわ…」


「嫌だ」


(く、即答かよ…)


無表情の彼の顔色をうかがいながら途方にくれた。重たい沈黙が流れた…


こんな危ないヤツに絡まれたことなんてない。平和な人生を送ってきた私はにはありえない。いよいよパニックになり、どんな仕返しをされるのか考えると悲しくなってきた。熱を帯びた目に涙がたまっていくのを感じた。その時…


「なーんてね。嘘です、嘘。すいません、からかっちゃって」


彼は、天使のような温かい笑顔を見せる。


(う、うそ…)


私は頭が真っ白だが、彼の笑顔を見ると自分は窮地を脱したと分かり生き返った気持ちで、ホッとした。


「そんな本気で信じないでくださいよ。そんな下らないことで、わざわざエクスターン生になって仕返しに来るヤツなんていませんよ。」


彼は、笑ってる…私も、つられて、アハハ、そうだよね、一本とられたなぁとか言っちゃってる…


しかし、やっぱりコイツは危険だ…本能がそう告げる…


(なんとか、理由を作って明日からは昼食は行かないことにしよう…、こ、コイツ怖い…、けど助かって良かったぁぁ…)


私は、どっと疲れてヘラヘラしながらもテーブルにへたりこむ。


(ああ、早くこんな研修終わって家でゆっくり漫画読みたいお…)




「僕が、研修に来た本当の理由は…」


男は淡々と話し出した。


(ほ、本当の理由ぅ…?)


疲れすぎて、私の耳には彼の言葉がどこか遠くに聞こえる…


(最近、仕事も多くて昨日もあんまり寝てないんだよな…)




そんなことを考えていたが、次の彼の言葉に再び現実に引き戻される…




「僕と結婚してくれませんか?」



彼は、あの悪魔のような微笑みを浮かべていた…

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