エピローグ 本当の値段
数ヶ月後。 九条蓮は起訴され、『ニブス・テック』の株価は暴落した。 修正申告により追徴課税された額は、重加算税を含めて五十億円を超えた。彼が築き上げた資産のほとんどが吹き飛んだ計算になる。 『九条現代美術館』も閉鎖され、収蔵品は管財人によって処分されることになった。
ある晴れた日。 加賀美は、押収品倉庫の一角にいた。 そこには、『SAKURA』の作品群が無造作に積み上げられている。 オークションや公売にかけられる予定だが、買い手がつかなければ廃棄処分だ。
「先輩、これ、どうするんですか?」
牧村が『虚無の青』を抱えて尋ねた。
「ゴミだ。燃えるゴミに出せ」
加賀美は即答した。
「でも、なんか勿体ない気もしますね。遠目で見れば綺麗だし」
「近くで見ればただの印刷物だ。……だが、そうだな」
加賀美は苦笑した。
「この絵のおかげで、俺たちは巨悪を挙げられた。その意味では、三億円以上の価値があったのかもしれん」
加賀美は倉庫の扉を閉めた。 重い鉄の扉の向こうで、虚構のアートたちが永遠の闇に沈んでいく。 外に出ると、秋の澄んだ空気が満ちていた。 これが現実だ。色も匂いもある、本物の世界だ。
加賀美はポケットから安タバコを取り出し、火をつけた。 紫煙が空に溶けていく。 さて、次の獲物はどこだ。 マルサの眼は、今日も街のどこかで、隠された金の輝きを探している。
(完)
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。




