第26話 俺の本命戦略は「試合放棄」だったのに勝利している件
「さあさあさあ!第一回戦から大注目カードの登場だ!アステルが生んだ謎の英雄・レイ!対するは、現在ヘイト指数トップクラス、炎上上等の悪童パーティー・『バズラーズ』!!」
大歓声の中、俺はコロシアムの中央へと歩み出た。
アリアとセラは、規則により選手控えのベンチから俺を見守っている。二人の目は、「レイ様がいかに鮮やかに勝つか」という期待でキラキラと輝いていた。
俺の作戦はシンプルだった。
適当に殴られる→力なく転ぶ→「すみません負けました」と言う→終了。
この四段階だ。レベル1のなまくら剣を持った俺がバズラーズに勝てるはずがないし、勝つつもりもなし。とにかく一刻も早く負けて、この茶番を終わらせる。完璧な計画だ。
「オラァ!テメェが噂のアステルの英雄かぁ!?見たところ、ただのヒョロリとしたモヤシじゃねえか!レベル1の装備で舐めプか!?アァ!?」
対戦相手のバズラーズのリーダー格——金髪でトゲトゲの鎧を着た大男が、下品な笑い声を上げながら俺に凄んできた。
彼の背後には、スマートフォンによく似た魔導配信機材を構えた魔法使いの女と、ナイフを舐めている盗賊風の小男がいる。
「みんな見てるゥ~!?今からこの『自称・英雄』を、アタシたちがフルボッコにして、名声を横取りしちゃうからね!チャンネル登録とスパチャ、よろしくぅ!」
魔法使いの女が配信機材に向かってウインクし、観客を煽る。
なるほど、分かりやすい。
彼らは俺を倒して、俺の『観測力』を横取りするつもりなのだろう。
(よし、いいぞ。そのまま俺を徹底的にバカにして、情けなくボコボコにしてくれ。そうすれば、俺の『最強の勘違い』も解けるはずだ!)
俺は心の中でガッツポーズをし、わざと怯えたような表情を作ってブルブルと震えてみせた。
「ひ、ひぃぃっ!お、お手柔らかに頼むよ……!俺、本当は強くないんだ!」
「ハッ!今更命乞いかよ!ダッセェなぁ!オラァ、観客ども!この情けねぇツラを見ろ!こいつが英雄だなんて、ちゃんちゃらおかしいぜ!」
大男の挑発に、コロシアム中から「えぇ……」「嘘だろ、本当にただの素人じゃ……」という失望の声が上がり始める。
よしよし!その調子だ!
俺の評価がゴリゴリ下がっていくのを感じる!
「さあ、まずは俺様の自慢の斧で、ド派手に吹っ飛ばしてやるよ!【大炎上ブレイク】!!」
大男が巨大な斧を振り上げ、燃え盛る炎をまとって突進してくる。
俺は目をつぶり、適当に吹き飛ばされる準備をした。死なない程度の怪我で済むといいな、と考えながら。
——だが。
その瞬間、俺の脳裏に、前世で浴びせられた数々の『薄っぺらい煽り』の記憶がフラッシュバックした。
『うぉwご主人!あの斧の炎、ただの演出用の幻影魔法で、実際の攻撃力はレベル3程度しかないっすよ!完全に再生数稼ぎのハッタリ攻撃っすねw』
モックの呑気な解説が耳に入った瞬間、俺の奥底にあった『ネット弁慶としての魂』が、無意識のうちに作動してしまった。
「……は?なんだ、そのハリボテ」
「あ?」
「お前、炎上商法やってるくせに、覚悟が足んねえんだよ。そんな見掛け倒しのエフェクトで俺を煽れると思ってんのか?お前の炎上は『安全な場所から石を投げてるだけ』ってのが透けて見えてて、絶望的にサムいんだよ」
俺の口から、無意識のうちに、氷のように冷たく、致命的な『マジレス』が飛び出していた。
その言葉は、大男の斧にまとわりついていた炎属性の魔法を【論理的な矛盾】として直撃した。
「な、なんだと……ッ!?」
カキィィン!!
俺のなまくら剣が、大男の巨大な斧と交差した瞬間。
大男の魔法の前提となっていた『観客を本気で煽るための悪意』という文脈が、俺のマジレスによって完全に否定され、崩壊した。
魔法のエネルギー源を失った大斧は、俺のただの防御姿勢の前に、あっさりと「パリンッ」と音を立てて粉々に砕け散ってしまった。
「へっ……?」
「……あ」
大男が呆然とし、俺も自分のやらかしに気づいて硬直する。
静まり返るコロシアム。
——また、やってしまった。
「負けに行く」はずだったのに、無意識の冷笑が炸裂してしまった。
俺の本命戦略は「試合放棄」のはずだったのに、どうして今、相手の武器を一撃で粉砕しているのか。




