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第24話 王都から正式招待状が届いた。逃げたい

 王都へ向かう道中。俺たちは王国が用意した豪奢な特製馬車に揺られていた。

 普通なら、のんびりと窓からの景色を楽しんだり、これからの大会へ向けて静かに精神統一したりする優雅な旅路になるはずだった。普通なら。


「レイ様。肩はお凝りではありませんか?このアリアが、聖気を用いた極上のマッサージを施して差し上げます!」

「待て。そんな無骨な力任せの指圧でマスターの繊細なお体を傷つけては大変だ。ここは私の【極小重力結界】で、マスターの体を無重力状態にし、究極のリラクゼーションを提供しよう」

「「さあ、レイ様/マスター、どちらになさいますか!?」」


 向かいの席から、アリアとセラが身を乗り出し、俺の両腕を左右からガッチリとホールドしてきた。

 柔らかい感触が腕に押し付けられているのは男として喜ぶべき状況なのかもしれないが、二人の目が完全に「私を選べ」という殺気を帯びているため、生きた心地がしない。


「……あの、どっちも結構です。俺は普通に座って景色を見たいだけなんで」

「「なんと……!」」


 俺がやんわりと断ると、二人はなぜか同時に息を呑み、ハッとした顔で顔を見合わせた。


「そうか……!明日からの武闘大会に向けて、レイ様は既に『気』を練り始めているのですね!無駄な快楽を排し、常に実戦を想定した緊張状態を保つ……。強者のストイックさに、私はまた感服いたしました!」

「さすがマスター。私が無重力を提案した瞬間に、その結界内での戦闘時の姿勢制御のシミュレーションまで先読みして却下されたというわけか。私の浅はかさを恥じるばかりだ……」


 ……どうしてそうなる。

 ただ単に両腕を引っ張られて痛かったのと、静かに寝ていたかっただけなのに。

 こいつら、俺の行動全てに『深読みフィルター』をかけるせいで、何一つまともにコミュニケーションが取れない。


『うぉwご主人の何気ない塩対応が、逆にヒロインたちの好感度と尊敬をブーストさせてるっすよ!まさに「何もしないのに勝手にモテる神業」っすね!』

「うるさいぞモック。お前もそこからスマホばっかりいじってないで、少しは場を和ませる努力をしろ」

『えー?だって今、王都の掲示板でご主人の強さ議論スレが立ってて面白いんすもん。「レイは魔力を隠蔽している」「いや、そもそも彼は概念そのものを操作しているのだ」とか、盛り上がってますよー』


 モックの言葉に、俺はさらに胃を痛めた。

 王都に着く前から、ハードルがエベレスト並みに高くなっているじゃないか。


「あのさ、アリア、セラ。一つ確認しておきたいんだけど」

「はいっ!何なりと!」

「マスターの御心のままに」

「俺、本当に何にもしないからな。今回の大会も、適当に棄権するか、一回戦でサクッと負けて帰るつもりだからな。お前らも余計な期待しないでくれよ」


 俺としては精一杯の予防線であり、本気からのSOSだった。

 しかし、二人の目はキラキラと輝きを増すばかりだった。


「おお……!『真の強者は自ら矛を交えることなく、戦いそのものを終わらせる』……!レイ様は、戦わずして勝つという、兵法の極致を体現されるおつもりですね!」

「ふふっ、マスターの『適当に負ける』ほど恐ろしい言葉はこの世にない。相手は自分が勝ったと勘違いしたまま、全てを失うことになるのだろうな……。ゾクゾクする」


 ダメだ。完全に日本語が通じていない。

 俺の切実な泣き言は、強者の『余裕のフラグ』として自動変換されてしまっている。


「……もう寝る」


 俺は目を閉じ、現実逃避するように深く座席に沈み込んだ。

 窓の外を流れていく景色を、目蓋の裏に滲ませながら、俺はひとつの計画を脳内で練り始めた。

 大会が終わったら……絶対に、この国から逃げよう。

 誰も知らないド田舎へ。スライム一匹と向き合えるような、静かな場所へ。

 王都到着のファンファーレが鳴り響くまで、俺の心の平静が訪れることはなかった。

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