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第22話 セラさん、三十回復唱しないでください

「『お前の気持ち、よく分かる』……三十一回目……『お前の気持ち、よく分かる』……三十二回目……」

「止めろ!!なんで回数を数えながら復唱してるんだよ!!」


 朝食のテーブル。

 昨日、俺が何気なく口にした「俺も昔は引きこもりだったからお前の気持ち分かるよ」という言葉を、セラが夜明けから無表情のまま三十回以上リピートし続けていた。


「……失礼しました、マスター。ただ、あの言葉を正確に脳内に刻み込もうとしているだけです。あなたは昨日、この私の全てを理解し、受け入れた。その事実を、私は一生涯忘れない」

「そういうことじゃなくて!!」


 耳まで真っ赤になったセラが静かに目を伏せているのを見て、俺は頭を抱えた。

 あの発言、本当にただの雑談のつもりだったんだが……。


 冒険者の街アステルの近郊、初心者用の狩り場である『緑風の草原』。

 俺は今、右手に初期装備の「なまくら剣」を握りしめ、目の前をポヨンポヨンと跳ねる一匹のブルースライムと対峙していた。

 ちょっとした気分転換——そして今日こそ、俺自身の力でレベルを上げる——という目的で、一人で来たはずだった。なぜかアリアとセラが「お供します!!」と言い張って、結局こうなった。


「よし……今日こそ、俺自身の力で、泥臭く魔物を倒すんだ。これが王道主人公の第一歩……!」


 冷や汗を拭い、剣を構え直す。俺のレベルは1。相手もレベル1。まさに適正にして至高のバランス。

 俺がスライムに向けて、気合の一撃を振り下ろそうとした、その瞬間だった。


「マスターに土埃が!【絶対清浄・遮断結界】!!」

「ピギャッ!?」


 俺の足元から、突如として半透明の六角形のシールドがドーム状に展開された。

 俺に飛びかかろうとしていた可哀想なスライムは、その結界に激突した瞬間、「シュゥゥゥ」と音を立てて浄化され、あっけなく消滅してしまった。


「なっ……!?」

「ご安心ください、マスター。このセラ・ヴォイドの結界がある限り、大気中の塵一つ、羽虫一匹たりともマスターの高貴なお身体には触れさせません。どうぞ、安全なドームの中から、自然の景色をお楽しみください」


 後ろを振り返ると、セラが「ドヤッ」と微かに胸を張って立っていた。無表情だが、明らかに褒めてほしそうに俺を見つめている。

 ……バカ!俺は景色を楽しみに来たんじゃねえんだよ!


「おいセラ!!なんで倒しちゃうんだよ!俺の経験値が手に入らないだろ!」

「え?経験値……?マスターほどの超次元の御方が、あんな下等生物の経験値など……。ハッ!そ、そうか!マスターは『スライムさえも慈しみ、あえて経験値としての価値を見出す』ことで、私に生命の尊さを教えてくださっているのですね……!なんという慈愛……!」

「違う!ただレベルを上げたいだけだってば!」


 セラの頬はまたしても朱に染まり、両手を組んでうっとりとしている。話が全く通じていない。


「レイ様の邪魔をするな、元魔将!レイ様はあえてあのスライムと『一対一の決闘』をお望みだったのだ!それを横から奪うなど、万死に値する!」

「ふん。勇者ともあろう者が甘いな。マスターの足元を汚す可能性がミリ単位でもあるなら、事前に排除するのが従者の務めだ」


 アリアが背負った聖剣を抜き放ち、セラとバチバチと火花を散らし始める。

 また始まったよ、こいつらのマウント合戦。


「お前らなぁ……本当に頼むから見てるだけでいいから。手出し無用。分かったな?……っ、またスライムが出た!」


 俺は気を取り直して、新たに草むらから現れたスライムに向かって、全速力で突進した。

 今度こそ、俺の剣で!


「お覚悟!【聖覇剣・グランドクロス】!!」

「は……?」


 ドゴォォォォォン!!!


 俺がスライムに到達するより早く、天空から降り注いだ巨大な光の十字架が、草原のど真ん中を一直線に吹き飛ばした。

 爆発の風圧で俺は危うく吹き飛びそうになり、急いで地面に伏せた。


「ふふっ、レイ様!レイ様のお手を煩わせるまでもありません!このアリアが、レイ様の視界に入る不浄な魔物をすべて薙ぎ払ってご覧に入れます!」


 煙の向こうで、アリアがドヤ顔でサムズアップしていた。

 見渡す限り、草原にあったスライムの群れは、大地ごと綺麗に更地になっている。当然、経験値は俺には一ミリも入らない。


「お前ら……俺をレベル1のまま一生飼い殺しにする気か……」

「マスター?どうされました、膝から崩れ落ちて」

「レイ様!もしやお疲れですか!?私が背負いましょう!」

『うぉw勇者と元魔将による「推し最強保護計画」っすねw過保護すぎて草生えるっすw』


 モックの嘲笑を聞きながら、俺は焦土と化した草原の真ん中で、一人静かに涙を流すのだった。

 俺の泥臭い熱血主人公への道は、あまりにも過酷で……そして、安全すぎた。

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