第21話 二人の溺愛と冷笑のジレンマ
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「レイ様!あーん、です!今日の朝食は、私が早朝から魔獣の森で狩ってきた最高級のレッドボアのステーキですよ!」
「ふん、筋肉女の野蛮な料理などマスターの繊細な胃袋には合わない。マスター、私が全魔力を注ぎ込んで完璧な温度管理と毒見結界を施した、こちらの特製スープをどうぞ」
冒険者ギルドに併設された酒場のテーブル。
俺の目の前には、朝から胃にもたれそうな巨大な肉の塊と、無駄に神々しい光を放つ謎のスープが並べられていた。
そして両脇には、勇者アリアと、元魔王軍幹部セラが、俺の口元にスプーンとフォークを突きつけている。
「……あのな、朝は普通にパンと目玉焼きでいいんだよ」
「えっ!?レイ様が、私のステーキを拒否……!?そうか、私がまだ未熟だから、血抜きが甘いと看破されたのですね!申し訳ありません、すぐにドラゴンを狩ってきます!」
「待てアリア。そうじゃない。マスターは『朝はパンがいい』と仰ったのだ。つまり、『お前たちの用意したものは私の想像の範疇、もっと創意工夫を見せろ』という愛ある試練!マスター、すぐに伝説の小麦を探してまいります!」
「いや、普通の市販のパンでいいって言ってるだろ!どこ行くんだよお前ら!」
俺のツッコミも虚しく、二人はものすごい勢いで酒場を飛び出していった。
嵐が去った後のテーブルに取り残された俺は、深々とため息をつきつつ、冷めた水で喉を潤した。
セラ・ヴォイドが俺のパーティー(不本意)に加わってから、数日が経過していた。
無冠の城壁と呼ばれた彼女は、その鉄壁の結界を俺の『ただの冷笑』によって完膚なきまでに破壊された。
その結果、「自分の引きこもり気質を完全に理解し、肯定してくれた」という恐ろしい勘違いをこじらせ、今では俺を『マスター』と呼びながら、重すぎる愛情と忠誠を注いでくる強火の信者と化してしまったのだ。
『うぉwご主人、朝から両手に花で最高の気分っすね!掲示板じゃあ「アステルの英雄、勇者と魔将を侍らせて朝食」ってスレが爆伸びしてるっすよw』
「笑い事じゃねえよ……。俺はただ、目立たずに地道な下積み生活がしたいだけなんだぞ……」
俺の肩に止まった使い魔のフクロウ、モックが、スマホ型の魔導具を見ながらケラケラと笑う。
生前、俺は他人をバカにしてばかりのネット弁慶だった。その報いで死んだからこそ、今度こそは泥臭い王道主人公を目指していた。
だが、現実はどうだ。
俺のレベルはいまだに『1』のままだ。
アリアだけでも過保護だったのに、セラという異常な防衛力を持った女が加わったことで、俺の周囲はもはや『完全なる安全地帯』と化してしまったのだ。
「レイ様!伝説の小麦粉で作った幻のバケットです!」
「マスター、それに合う究極の魔力ジャムを錬成してきました」
「……お前ら、たった三分でどこまで行ってたんだよ」
ボロボロになりながらもキラキラとした尊敬の眼差しを向けてくる二人を見て、俺は再び頭を抱えた。
こいつら、俺のために一生懸命すぎる。
本当にいい奴らなのだが……そのベクトルの全部が『俺の圧倒的強者ぶり』を前提にしているのが致命的だった。
「……もういい、飯は自分で食うから。今日は絶対に、一人でスライムを狩りに行くからな」
「「お供します!!」」
俺のささやかな抵抗は、ヒロインたちの重すぎる愛の合唱によって、あっさりと掻き消されるのだった。




