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第14話 騎士団の総攻撃

 結界に閉じ込められてから五日目。アステルの街に、ついに終わりの時が刻一刻と近づいていた。

 街中の食糧庫は底をつき、飢えと疲労、そしていつ殺されるか分からない不気味な恐怖から、市民たちの間では暴動すら起き始めていた。

「俺たちの食い物を出せ! このままじゃ全員餓死だぞ!」

「やめて、泣かないで……もうすぐ勇者様が助けてくれるから……っ」

 広場では食料を求めて騎士に詰め寄る男たちと、空腹で泣き叫ぶ子供を必死に抱きしめる母親の悲痛な声が響き渡っている。

 【無限結界】の中に充満したパニックと絶望という『負の観測力』は、そのまま見えない魔力となって結界の外にいるセラへと吸収され、彼女の結界をさらに強固なものにしていく極めて性質の悪い悪循環に陥っている。


「もう……限界だ……」


 暴動を制止しようとしていた騎士の一人が、ボロボロになった剣を取り落とし、うなだれた。

 精鋭として国の誇りを背負ってきた彼らも、五日間の不眠不休の防衛と、守るべき市民たちからの絶望を直接浴び続けたことで、心の糸が完全に切れかけていたのだ。

 その惨状に、アリアが唇から血が滲むほど強く噛み締める。

 このままでは、街の人々はおろか、誇り高き騎士団の精鋭たちまで完全に心が折れてしまう。早急に、上空の元凶を絶たねばならない。


「団長! お願いします、全騎士の残存魔力を一つに束ねる『光芒一閃の陣』の許可を!」

「アリア殿……だがしかし、あれは術者の命すら削りかねない禁呪。もし跳ね返されれば、我々は全滅だぞ」

「このまま座して死を待つよりはマシです!レイ様が信じて任せてくださったこの街の平和……それに泥を塗るわけにはいきません!」


 アリアの悲壮な決意に、騎士団長も太い息を吐き出し、重々しく頷いた。

 戦士として積み重ねてきた数十年の矜持と、街の人々を守りたいという純粋な使命感が、彼の選択を決めた。


 彼らは広場に巨大な魔法陣を展開し、残された百五十人の騎士たちがその上に円を描くように配置についた。

 全ての魔力を中央に立つアリアの聖剣へと注ぎ込む、文字通り背水の陣。


「皆……ありがとうございます。この聖剣に、皆の思いを全て込めてください」


 アリアは静かに目を閉じた。

 彼女の脳裏には、この五日間で疲弊していく街の人々の顔が浮かんでいた。助けを求める子供たちの泣き声。倒れていく騎士たちの背中。そして、全てを任せてくれたあの人の、静かで深い三白眼。

 自分では、まだ隣に立てないかもしれない。でも、今できることを全力でやる。それだけだ。


「はあああああぁぁぁぁぁッ!!」


 アリアの魂の底から絞り出される叫びとともに、彼女の聖剣がかつてないほどの巨大な光の柱を生み出す。

 街中の僅かな希望と、騎士たちが命を懸けて注いだ全魔力。それが巨大な光の濁流となり、上空で無表情に浮かぶセラへと真っ直ぐに放たれた。


 ゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!


 空間を揺るがすほどの凄まじい大爆発が上空で発生した。

 紫色の空が一時的に純白の光に染まり、衝撃波が街の防壁や建物を激しく揺さぶる。

 だれもが息を呑んで空を見上げた。これほどの攻撃だ、いかに魔王軍幹部のチート結界でも無事では済まないはず。


 しかし。

 ――パキンッ。


 純白の光をガラスのように割り砕き、そこから現れたのは。


「無駄だと、何度言えば分かるの」


 やはり、傷一つ、煤一つ付いていない完全無傷のセラ・ヴォイドの姿だった。

 アステルの全てを懸けた最後の一撃すらも、彼女の【無限結界】という「絶対法則」の前には干渉すら許されなかったのだ。


「あ、ああ……アハハ……」


 アリアの聖剣が、カランと虚ろな音を立てて地面に落ちた。

 彼女の目から絶望の涙がこぼれ、周囲の騎士たちも次々とその場に崩れ落ちていく。

 街を覆っていた一縷の希望の光が完全に消え失せ、底知れぬ凄絶な絶望がアステルを飲み込んだ。


 その惨状を上空から見下ろし、セラは静かに、冷たく言い放つ。


「もうやめなさい。お前たちに、私の結界は絶対に破れない。これ以上足掻いても、ただ体力と魔力を無駄に消耗するだけよ」


 だが、そのコンプレックスの防壁の内側で、彼女はホッと安堵の息をついていた。


 (耐え切った……! よかった、よかった……!もうこれ以上の攻撃は来ないわね。外の世界の本気の攻撃なんて、二度と受けたくない……!)


 どれほどの絶望を振りまこうと、彼女の心にあるのは強者の驕りなどでは決してなく、どこまでも小さく哀れな怯えの感情だった。


 負け続けた街の上で、空は相変わらず、不吉な紫色に染まり続けている。

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