#2 入学式
-登場人物-
・宮内聡志
主人公。この春から高校一年生。ピアノが得意で、耳コピができる。オタク気質な一面があり、友達は少ない。自分が陰キャであることを自覚している。
・柁谷梓
主人公の同級生。音楽が好き。音楽の趣味が主人公と似通っている。
・安川要
主人公の同級生。クラスのムードメーカー的な存在。主人公に少し興味を持っている。
・水無瀬茉由
ピアノ教室の先生。主人公にピアノを10年以上教えている。
・桑原祐一郎
1-Dの担任。優しくてイケメンの若手男性教諭。
4月になり、高校の入学式を迎えた。今日から俺が通う高校は、神奈川県の山に隣接する「私立・若山高校」である。ここには、中学時代の友達はいない。なぜなら、中学時代にそもそも友達を作らなかったからである。「作らなかった」というのが重要だぞ。うん…。おかげで当時は静かで居心地の良い日々を送ることができていた。同中でもほぼ初対面みたいなものだし、高校生活も静かに過ごせそうだな。しかし、入学して気付いたけどものすごく綺麗な校舎だ。流石私立といったところか。俺は事前に配信されていたクラス名簿を確認し、教室を探す。「1-D」の教室は…4階の真ん中あたりだ。教室に入ると、爽やかな男性教諭が席へ案内してくれた。恐らく担任の桑原先生だろうか。優しく促されるままに着席し、周りと馴染めないまましばらくすると、チャイムがなった。
「みなさんはじめまして!今日からこの1-Dを担当する桑原祐一郎です。ということで…」
担任の爽快なハスキーボイスとともに、俺の高校生活は幕を開けた。
「まずはアイスブレイクからはじめようかな。じゃあ隣の席の人と自己紹介し合ってみよう!」
まずいな。初対面の人と法則性のない会話をするのはいつぶりだろうか。隣の席の人の名前は…たしか安川君だったか。同中のはず…だけど勿論、喋ったことはない。褐色の肌から、運動系の部活に所属しているのが一発でわかる。たしかサッカー部だったか…。
「たしか中学同じ…だったよね?」
「あぁそうですね…。宮内です…宮内聡志…」
「聡志ね!俺は安川要。よろしく!」
「安川君ね、宜しくお願いします…」
「要でいいよ!あとお互いタメ口でいこうぜ?」
「じゃ、じゃあ要…君、よろしく…」
やはり、陽キャ相手にまともな意思疎通なんて、俺には早かったらしい。ぎこちない俺の返事にも要君は屈せず、どんどん話しかけてくる。
「中学のときずっと本読んでたよな!何の本が面白いんだ?」
「あぁ、…ラノベとか結構面白いよ。」
「ラ…ノベ?」
うん。見た目の通り、縁とかないよな。
「なんか…色んなジャンルがあって、例えば…」
言いかけた途端、先生が手を叩いた。
「あ、また話そうな!」
俺にコミュ力がないというより、相手のコミュ力が異常なんだと言い聞かせて、虚しさを感じた。
「はい!そこまでー。じゃあ次は机を後ろに下げて、椅子を円形に並べようか!」
フルーツバスケットでも始まるんだろうか。座れなかったら地獄だぞ…。
「誕生日順に座ろうかー、次も隣同士で話してもらうよー」
覚束ない様子で移動する俺に、1人の女子が話しかけてきた。
「あの、誕生日教えて!」
「あぁ、えーと、12月8日だよ」
「お!私7日だよ!」
「そうなんだ、あの…名前…」
「私、柁谷梓!君は?」
「えっと俺は、宮内聡志…宜しくね」
「うん!宜しく!!」
一通り会話を終えると、席に着いた。
「全員座ったー? じゃあ今度は音楽かけるから、この曲終わるまで特技や趣味の話をお互いにしよう!」
先生が手を叩くと、「SUN」という有名なJ-popが教室に流れ始めた。この曲は俺も大好きなアーティストの曲だ。この先生、なかなかセンスがいいな。話をしなければと柁谷さんの方に目線を向けると、なにやら嬉しそうだ。
「この曲めっちゃ好きなんだよ! この曲が入ってるアルバムが超名盤なの!」
アルバムまで聴いてるんだ。共感するって体験、なかなか久しぶりだな…貴重だ。
「俺もそのアルバム持ってる! 弾き語り系もいいよね」
「めっちゃ詳しいじゃん…! 同級生でなかなか居なくてさー、音楽の趣味合う人」
「それめっちゃ分かるー」
本当は趣味について語り合う機会が全然なかったなんて、口が裂けても言いたくないな…この人の前では。少し頑張って会話してみても、楽しい…のかもしれない。そう思ってしまったのが運の尽きだった。
「あとこのアルバムの1番最初の曲もめっちゃ好きなんだよねー、知ってる?」
「知ってるよ!あのFメジャーとCメジャーの転調を行き来するタイミングがたまらないよね…。」
「えふ…めじゃー?」
「あと、ヨナ抜きのメロディラインもかっこいいし、アコースティックとエレクトロニックの融合も絶妙なバランスでワクワクするよ!…ね………?」
…やってしまった……。せっかくの趣味を語り合う機会は、オタク過ぎる本性によって抹消されてしまった。
「あの…宮内君って…」
終わった…確定でドン引かれてしまう。こんな優しいクラスメイトに引かれてしまったら…俺のメンタルがもたない。放心状態で固まっていると、柁谷さんは優しい口調で語りかけた。
「宮内君って、…超絶物知りなんだね!!!」
…ん? なんか意外と好感触……なのか?
柁谷さんは止まらず、興味が尽きない様子だ。
「さっきのよなぬき?とかあこーなんちゃら…みたいなやつ何!? 響き的にも…超かっこいいじゃん!!」
「えぇーと…」
頭が真っ白になって何も言葉が浮かんでこない。圧倒的な経験値の少なさを悔やんでいると、曲は既にアウトロに差し掛かっていた。
「えーと…また音楽の授業のときにでも、説明するよ」
「ほんと!? 楽しみにしてるね!」
目を輝かせた彼女は、大好きな曲の知らない一面に出会い、興味津々の様子であった。
そうこうしているうちに、変態的なコードが心地良く響き終えた。この時点で一日の限界会話量を大きく上回っていたため、その後のことはあまり覚えていない。そうして高校生活初日は呆気なく幕を閉じた。
-あとがき-
ついに聡志の学校生活が始まりました!感想などありましたら是非お寄せください!!




