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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

黒い海を見つめる夜空。星に交じり海面に伸びる腕。

作者: 青月―闇

新しい物語は書く意思によって成立する

狂気も愛も文字の世界では平等

脳内で再生される世界は否定出来ない貴方の世界

 決別が出来るのならしている――

 この意思から。

 でも、それは許されない――

 どれだけ拒絶しても、私を手放さない。



 静かな夜。

 生命の活動を緩やかにする粘着質の闇で世界が満たされ、その中心とも言える黒い海には死が溢れていた。

 人には認知出来ない存在が自由に動き、この世界の支配者である様に徘徊している。

 時折、この存在に気付く人間もいる。視線に敏感な支配者達は、その存在を確実に攫う。そして、食される。高位の存在ならではの食事方法で。

 その行為で自身の命を長らえているのかは疑問である。何故なら攫われた人間の肉体に変化は殆ど無い。魂もそのままである。

 一体何を食したのか分からない。ただ、何かが失われているのは分かる――

 私は、その存在になってしまった者達を黒い海に導くだけの存在。その存在になってしまった者達を黒い海に沈めるだけの存在。

 瘦せ細り、肌がボロボロの人間の腕。その大きさは樹齢三百年以上の大きさで、先端には腕と違って若い男の掌。中心には人間の目。

 その目が忙しなく動く、獲物を探す様に。

 遠くない過去に捕食された青年が夜の砂浜を歩いていた。以前とは違い、身体が透けている。普通の人間には見えない状態。

 身体の中心には青い光が灯り、光の明滅はまるで鼓動の様。

 捕食された人間を海に沈めようと腕を伸ばす。

 不意に青年と視線が合う。

 偶然か――?

 いや、違う――

 彼は、私という存在が見えている。

 何を考えている? 何を言うつもりだ?

 心が不安定になる。


「いつまでそんな事をしているつもりだ……?」

 弱々しい声で問いかけられる。声に対して視線は強さが増していた。


 自分よりも劣っている存在に全てを見透かされていた。この黒い海の深く、私自身でも拾いに行くには困難な場所へ封印した鍵を。

 あぁ――

 上って来る。見透かされた羞恥によって。外せない視線によって上昇速度は更に上がる。

 海面が突き破り、大きな水柱が生まれる。

 形を崩した水柱が水面を叩く。瀑布の様な状態は時間と共に収まり、いつも通り静かな海に戻る。

 空に浮かんでいるのは鍵と呼んでいる心臓。

 私の心臓。

 此処に私の全てを封印した――

 星でも掴む様な仕草で青年が心臓を奪った。


 ―――!?

 一瞬の出来事に何も考えられなかった。

 青年は、身体の中心に存在する青い灯りの中に心臓を入れた。次の瞬間、私の身体は青い炎で燃え始めた。凄まじい熱と痛みで身体を激しく動かす。同時に崩壊が始まり、燃える肉片が海面に落ちる。

 一体何が起きているんだ――?

 私は消えるのか? 嫌だ、嫌だ、私はまだやりたい事がある!


「それを叶えるために俺の身体を使え」

 

 私には鼓膜など存在しない。だが、まるで人間の身体で青年から呟かれた様に聞こえた。

 ――とても力強い声で。

 


 目を覚ました時、私は青年となっていた。

 青い光が立ち上る煙の様に目に届き、瞳に流れ込む。

 この世界での高位の存在が見える。

 手に持っている巨大な本。どのページも白紙で特殊なインクでしか文字が書けない制限付きの本。魔力で鞣された魔獣の皮、それを使い装丁された本をゆっくりと開く。

 獣の匂いと古い紙の匂いが鼻腔を刺激する。

 視線を落とし、先程流れ込んで来た青い光が涙となって落ちる。

 落ちた先でゆっくりと滲み、紙一面に光が走る。それが使用者の証明の様に、私の手には元の身体と似た形をしたペンが握られていた。

 ペンを走らせる。

 この世界に隠れている存在を知らせるために、全てを此処に書き示す。全てを書き示す。誰かの空想でも、知られることなく消えていった事実。それら全てを――


 私はようやく、本当の意味で藻掻き苦しむ理由を得られた。

 その苦しみはいつまで続くのか分からない。この肉体が終わりを迎えるまでなのか、それとも違う形で存在し続けるのか――


 白紙のページが青い文字で埋まっていく。

 青年の手は止まらない。足も止まらない。

 全てが止まることなく動き続ける。

 それが望んだことなら―― 誰も不幸ではない。

 ただ一つだけ、暴かれる必要が無い事も世界には多く存在している。


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