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妖精が舞い踊る世界 〜フェアリースマイルに魅せられて〜

作者: 下東 良雄

 会社の帰り道。僕の周りを可愛らしい妖精たちが舞い踊っている。美しい身体を惜しげもなく晒しながら、ほのかに光る背中の羽根を羽ばたかせて。

 時には僕の肩に、時には僕の腕に、時には僕の手の上に乗って微笑む妖精たち。


 僕は、そのフェアリースマイルに魅了された――


 空想(ファンタジー)の世界の住人だと思っていた妖精。

 彼ら・彼女たちが僕たち人類の側に寄り添うようになって、もう十年以上になる。どこからやってきたのか、何が目的なのか、それは分からない。ただひとつ言えることは、妖精たちは僕たち人間が大好きだということ。僕たちの周りでは、必ず妖精たちが舞い踊っていた。

 でも、妖精たちは束縛されることを嫌うのか、世界中誰一人としてつかまえることができない。その身軽で素早い動きは、大きな網を使ってもスルリとかわしてしまう。

 人間型の生き物でもあるので、妖精たちの好きに生きさせてあげようというのが、世界中のひとたちの共通した認識だ。みんな、あの微笑みに心を奪われてしまったのだろう。


 自宅のマンションに帰ると、ひとりの妖精がリビングの真ん中でちょこんと座っていた。どこからか迷い込んでしまったのかもしれない。僕は窓を大きく開けてあげると、妖精は嬉しそうに外へ飛んでいった。


 ベランダに出た僕の目の前に広がる妖精たちの宴。もう絶滅してしまった川辺で美しい光を放つホタルの群れのようだ。

 僕はただ、夜空に舞うその美しい光を見つめ続けていた。




 十年後――


 人類は絶滅の危機に瀕していた。


 新種のマラリアが大流行し、世界で数百万人単位での死者が出始めたのだ。

 さらに並行して、デング熱や日本脳炎などの患者が一気に増加。しかも、人から人への感染も確認。突然変異のウイルスだった。

 世界中は大パニックに(おちい)る。


 原因は「妖精」だった。

 妖精がマラリアやウイルスを媒介、人類に感染させ続けたのである。


 それに気付いた時には、もう遅かった。


 出産と孵化を繰り返し、爆発的なスピードで増え始める妖精。

 生き残った数少ない人類は、閉鎖された空間で生きることを()いられ、窓をびっしりと覆う無数のフェアリースマイルに怯えながら生きていくことになった。




 妖精。


 その正体は、進化した「蚊」であった。



挿絵(By みてみん)



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