第94話 講師レイン② x 放課後の事情 x 調査計画
次の日の授業ではけっこうな人数に釣り流しを行うことになった。
幸いにしてフラン先生のような反応をする生徒はいなかった。
良かった良かった、、、
こちらでは動物を飼うことがあまり一般的でない事もあり分離のイメージを伝えるのが難しいようだ。特に男性に。
やはり妖精さんをもっとメジャーなものにした方がいいんじゃないだろうか?
まあ嫌だよな。俺だって嫌だ
そこで釣り流しの技術に有用性が見いだされたと言うところだろう。
フラン先生が気にするわけだ。
それはそれとて、俺はバックスに今日も話を聞いてみることにした。
「だいぶ上手くなったな。もう何度かあれをやっておこうか? 」
「レイン先生っ、はい、お願いします 」
先生呼びはあんまり慣れない。むずがゆい感じもあって止めさせようかと思ったが面倒臭いので止めておく。その方が楽な部分もある。
実技を行いながら会話をしてみる。
「狩人志望じゃないとしたら君はこれから何がしたいんだい? 」
「魔鉄鍛治になりたいと思っています 」
「魔鉄鍛冶? 鉄魔術で魔鉄を加工するということかな? 」
「等級が低い魔鉄なら鉄魔術だけで加工することができるんですが等級が高いとそれだけだと無理なんです
だから火や水の魔術の使い手なんかと協力して鍛冶を行うんです。その人達も含めて魔鉄鍛冶って言うんです
溶けた鉄を操るのは熔鉄魔術なんですがそれを覚えるためには鉄魔術の修得が必要でして 」
「なるほど、君は熔鉄魔技士になって魔鉄鍛冶を行いたいと言うことか 」
魔技士というのは魔術を使用して材料の加工を行う人のことを指す呼称だ。割とふわっとした言葉で直接的に操作する魔術を使わなくても魔技士と言われる。この場合なら火魔術を使用しても熔鉄魔技士と呼ぶことも出来る。
火魔術というのも曖昧だけどな。メタンとかプロパンとか可燃性のガスを操作する魔術だけでなく空気魔術でガスと混ぜて発火させる場合も言う。
「そうです。普通の鉄は今は魔術で加工することが主流だけど、魔鉄なら鎚で叩く行程が入るんだ
岩人なら誰もが憧れる仕事だけど誰でもなれるわけじゃない。せっかく才能の芽があるってわかったんだから挑戦してみたいんです 」
そういうことか。岩人は今でこそ魔術を用いて石工などの仕事をするものが多いが、かつては手仕事で金属加工を行う者が多かったらしい。
今は鉄魔術が主流になり徒人も鉄魔術が使える者が増えてきた。魔術教育のたまものだな。岩人の新たなアイデンティティとして高度な魔鉄の加工が浮上してきたということなんだろうな。
「なるほど。俺もまだまだ知らないことが多いようだ。勉強になるな。ありがとう。楽しいひとときになったよ 」
「俺の方こそ実技を見ていただいてありがとうございます 」
それにしてもやはり狩人志望ではなかったか。目標があるのはいいことだが寂しくも感じるな。そう感じるのは俺が狩人という仕事に誇りのようなものを感じているからだろうか?
会話が終わる頃にはバックスは完璧に分離が行えるようになっていた。
他の生徒も岩人は別格としてだいぶ分離は出来るようになってきている。この授業が終了する頃にはそれなりの人数が鉄魔術を使えるようになっていることだろう。
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授業がすべて終了して生徒達が誰もいなくなった教室で俺はフラン先生と向かい合っている。
教室にはどこか艶めかしい声が響いている。
「んっ、、、、ふぁっ、、あっ、、、、、あんっ、、」
「、、、、、、、」
声が出るのはもう諦めたよ、、、
「今度はもう少し強くしてみますね 」
「んっくっ、、、ああ、、、そんなっ、レイン先生、はげしいっ、、、 」
やめてくださいよ、そんな声だすの。誰かに聞かれたらマズいじゃないですか。
なんて言えない…
どうするかな、これ。
「今度はフラン先生がやってみてください 」
一旦、引いてみよう。
「わたしに出来るでしょうか? 」
「心配しなくても大丈夫ですよ。扱い方はもう身についているはずです 」
フラン先生はこちらが差し出す円柱形の鉄棒を恐る恐る握ってくる。今は彼女が使い慣れたもので練習している。
見た目があんまりよろしくないな。なるようにしかならんが。
「ではお願いします 」
こちらが促すとゆっくりと彼女の魔力がこちらに近づいてきて接触する。
「あっ、わかります。今、当たっているのが 」
目をつぶってうわごとのように言う。
無視だ、無視っ! 右から左へ流していこう。
「では、掴んで引っ張ってみてください 」
「はい、、、あっ、今、掴んでいるような気がします。これがレイン先生の、、、すごいです 」
何がどうすごいんだろう? 感覚的な事でしかないから否定は出来ないけどわざと言ってないかな?
「掴めていますよ。それでは、引いてみてください 」
「はい、、、、あっ、出てます。レイン先生のが出てますっ 」
はい、魔力が出てますよ。分離されてます。成功ですね。
「その調子です。出来ていますよ 」
「はぁ、はぁ、これが闘気術、その一端と言うことですか。なんとかモノに出来たみたいです。魔術でこんなことが出来るんですね。新しい扉が開かれたような気分です」
満足していただけたなら何よりです。それではこれで、、、
「今の感覚を忘れないうちにもう一度やらせてください 」
「、、、はい、わかりました 」
その後、昼食時になるまで付き合う事になった。
その間中、教室にはフラン先生のなまめかしい声が響いていた。
彼女は釣り流しを完全に自分のものにすることができた。もともと、魔力を操る才能があったのだろう。
存分に満足してくれたようでなりよりだ。
俺は俺で血流の制御が上手くなったよ。
ふぅ、、、
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授業もすべて終わり鉄魔術も修得できたので実践的な魔術の構築に取りかからないといけない。
鉄を塊から変形させて使うのは効率が悪いし瞬発力が足りないのであらかじめ操作しやすい形にして装備しておくのがいいだろう。
魔鉄でワイヤーか鎖を作って操作しようか。魔鉄だと操作しにくいのだが普通の鉄では強度に不安がある。3等級ぐらいの魔鉄で作ってみようか。
実際に作って魔力を通してみると何とか違和感がないくらいには操作できる。ただ鎖の形にすると一つ一つが独立しているから操作しにくい。それに鎖だと嵩張るから使い勝手が悪いな。ワイヤーにするか。
細い鋼線をねじりながら束ねて巻き取っていき先端に小さい分銅を付ける。両腕の下に設置して袖下に当たる部分から射出できるようにする。
これだと足りないな。腕に仕込める量だと長さがあまり取れない。腰の辺りの左右に一基ずつワイヤーリールを設置することにしよう。腰の刀に干渉しないように背中側に位置するようにベルトなんかで固定するようにした。
実際に装備が完成したらそれに合わせて魔術を構築してみる。割と単純な魔術構成だから想定通りに機能するだろう。
後は刀か。4等級ぐらいの魔鉄で肉厚幅広な脇差しを作ってみよう。盾のように使えるといいな。刃渡りは35センチメートルにする。銘は何にしようか? 防御を主体に攻撃につなぐから“鉄鋼刀・守継”としよう。
後はもう一本、突きを主体に運用するサーベルのようなナイフのような剣を作っておこう。こちらも素材は4等級の魔鉄。刃渡りは40センチメートル、先端が尖った両刃の直剣で握りはエルゴノミクスデザインにして片手で扱いやすくする。背負い水槽の右側に付けておこう。
装備や魔術の開発が終わったので後はリーンからの連絡を待つだけだ。
その間、もう一狩り行こうかと思ったがそう都合良く狩れるとは思えなかったのでやめておいた。
普通に王都で過ごしていると出発予定の一週間前に連絡の手紙が届く。二日後に一度会って調査計画のすりあわせを行おうという内容だった。
二日後に学院のリーンの部屋を訪れるとリオンも一緒にいた。
もう用事とやらは済ませて学院に戻ってきていたようだ。
一緒に計画を確認するらしい。もともとリオンからの依頼だったから当然か。妹への心配が理由として一番大きいだろうけど。
「それじゃあ調査計画を発表していくわ 」
それとは裏腹に妹の方はやる気で漲っている。戦闘訓練をしていたのは本当のようでリーンから感じる圧はかなり強くなっている。
これなら上級相手でも十分にやっていけるだろう。やはり秘めているポテンシャルは並々ならぬものがある。
リーンは地図を用いて計画を説明していく。
調査に向かうリューミオン渓谷は王都から海岸沿いに西へ向かい二時間ほど行ってから山側に向かって行ったところにあるということだ。
もともとは魔境でも中層に当たる場所だったので道が整備されていてギルドの拠点も存在していたそうだが今は放棄されている。
海岸沿いの道から山に向かう道は途中で途切れているそうで車はおろか歩いて行くのも大変であろう事が予想される。
途中までは俺の車で進めるところまで進んでいき、そこからは魔術を使いながら整地して道を作っていき放棄された拠点までつないでいく。
拠点の建物は頑丈に作られているので未だに使うことはできると推察される。内部を掃除して傷んでいるところを直して使用できるようにする。
その拠点を中心に渓谷を調査していくというのが大まかな流れだ。
拠点に行くまでが三日、拠点の整備に一日、調査に一週間かける予定だ。
その間の食料や燃料などを準備しなければならない。
その準備はなれていると言うこともあり俺が担当することになった。
いざとなれば俺とリーンの魔術で現地調達も含めたごり押しが出来るからそこまで問題にならないがなるべく現地調達はしたくない。環境に影響がでそうだからな。
ここら辺は地球人類の感覚が抜けきらないところなのかも知れない。
調査計画のすりあわせが終わると雑談タイムに移る。
「危なくなったら迷わず逃げ帰ってくるんだよ? いいね? 」
口火を切ったのはリオンだ。やはりお兄ちゃんは心配らしい。
しかし、危なくなってからじゃ手遅れだ。危なくなる前に引き返さなければならない。難しい話ではあるけどな。危なくなるかどうかは危なくならないとわからない。
そして、その言い方は逆効果だ。逃げろと言われたら逃げたくなくなるのが人情というものだろう。特にリーンはそう言うタイプだ。
「逃げない! わたしは逃げないわっ! なぜなら今のわたしは最強! 修行して強くなったんだから! 」
言わんこっちゃない。確かにリーンは強い、強くなったんだろう。自信を持つのも理解できる。不意を打たれたら俺でも勝てないだろう。
まあ、不意を打たれることはないんだけどな、、、
命を奪い合う現場は独特の雰囲気がある。それに飲まれないかは実際にやってみるしかない。
最初の戦いは無我夢中だった。それからの戦いは肉の体じゃなかったのが幸いしていた。
人のことは言えないな、、、
「調子に乗りすぎだよ! レインからもなんか言ってやってよ。凄腕の狩人として言いたいことがあるんじゃないかな? 」
そう思った矢先にこちらに弾が飛んできた。
ないよ、、、と、切って捨ててもいいがそれだとお兄ちゃんがかわいそうだな。
どうしたものか、、、
「実際に何が起きるかは魔境に入ってみないとわからないことだ。何が起きてもおかしくないのが魔境だからな
ただ一つ言えることは何が起きても大丈夫なように事前の準備をしておく必要があると言うことだ。それで届かなければ生きては帰れないがそれも仕方のないことだ 受け入れるしかない 」
とりあえず事実を端的に言おう。当たり前のことしか言っていないが今の俺なら説得力があるはず。
「流石レインだね。心構えが違う。覚悟のない人間なんて足手まといにしかならないよね? やっぱり、リーンはここで留守番をするのがいいんじゃないかな? 」
リオンは俺を持ち上げてくる。君はいいやつだよ。だが、言い過ぎなんじゃないかな? ほら、妹の方が俺をジト目でにらんできているよ。
どういう視線かな? 余計なことを言うな、かな? それとも、わたしのフォローをしなさい、かな?
「当然だが、俺は今まで生きて帰れなかったことはない。これからもそうするつもりだ。今回も多分帰ってこれるだろう。最悪でもリーンだけは帰ってこれるようにする。だから安心は無理でもそう心配はするな 」
「いやいや、レインも帰ってこないとだめだからね! 」
リオンの心配は今度は俺に移る。いいやつだな、君は…これでなんとか丸く収まったか?
リーンの方を見ると感じるものがあったのか目を見開いてこちらを凝視している。良くわからないが満足してくれた。そう思うようにしよう。
ここでなにか別の話題に移りたいな。この話題は良くない。




