第86話 危険な依頼
「あらためて別の依頼を出したいのだけどいいかしら? 」
別の依頼か、、、どうしたものか
一度ラディフマタル森林に作った拠点の状態を確認しようと思っていたがリーンの真剣な表情を見ると断りづらい。もう少し詳細を聞いてから判断してみるか。
「その依頼はいつ頃から取りかかればいいんだ? 」
「そうね、、、私もいろいろ準備したいから一ヶ月は後になるかな? 今回の研究もまとめないといけないし、、、」
ん? 私も?
「私もって言うのはリーンも調査に行くって事か? 」
「そうよ。私も調査に同行するから。よろしくね 」
大丈夫なのか? いざって時には戦わないといけなくなるだろう。魔力量や魔術の腕は申し分ないと思うがそれだけでどうにかなるほど魔境は甘くない。というかよろしくねってもう依頼が成立たことになってる?
「リーン、、、やっぱり僕は反対だからね。調査に向かう場所は狩猟ギルドの管轄だけど立ち入り禁止になっている場所だ。普通の魔境でも危険なのにリーンの実力じゃ足手まといになるだけだよ 」
リオンはかなり真剣な口調で心配を伝えてくる。これはかなり危険な依頼なんじゃなかろうか? というか立ち入り禁止区域ってなんだよ。ヤバそうな臭いしかしない。
お兄ちゃん、もっと言ってやって。
「危険は承知の上よ。私も戦闘訓練は受けるから足手まといにはならないわ。それにもともとはお兄ちゃんからの依頼でしょ。お兄ちゃんに止める権利はないわ 」
「依頼を出しているからこそ止める権利があると思うよ。やはりこの依頼は中止にする。危険を押してまでこれ以上続ける意味がない。もっと人材がそろってから調査をすることにするよ 」
リオンはそう言いつつこちらにちらっと視線を送ってくる。
レインからも何か言ってやって。そう言う意図を感じる。そこはお兄ちゃんが頑張ろうよ。
「中止しても無駄ですぅ~。私は自分の意思でレインに依頼を出すことが出来ますぅ~。レインが受けてくれるから大丈夫ですぅ~ 」
ほら妹からも俺の方に飛んできた。もともと巻き込まれてはいるけれど、どんどん深く巻き取られている感じがするな。
二人とも示し合わせて俺を嵌めているんじゃないだろうな?
とりあえず危険だというならばその所以を聞いておこうか。判断はそれからだな。
「依頼についてなんだが、どうしてその場所をギルドが立ち入り禁止にしているのか理由を聞かせてもらってもいいか? それから決めることにする 」
まあ、落ち着きなすってぇ。話してご覧なさいよ。
「その場所の名前はリューミオン渓谷と呼ばれている。魔境でも中層と深層の間にある少し広めの谷になっている地形だね。中層寄りの所では中級狩猟者が狩り場にしていた 」
いた、、、か
「谷の深層寄りの場所には遺跡と思われる人工的な構造物が存在していてそのことは狩人の間では古くから知られていた。詳しく調べようという者はいなかったけど。狩人なら当然得体の知れないものに易々《やすやす》と近づいたりしないからね 」
ひょっとして俺、ディスられてる?
「事態が起こったのはだいぶ昔のことだったかな。少なくとも50年以上前のことだったらしい。渓谷の辺りで狩人が度々行方不明になる事態が発生した。そのことを重く見た当時のギルドは調査のために上級狩猟者を派遣したんだ 」
「それが戻ってこなかったと、、、」
「その通り。そのことを以てギルドは渓谷を立ち入り禁止地区に指定したんだ。別に入ったところで罰則があるわけではないけれどわざわざ危険とわかっている場所にいく必要はない。人里からそれなりに離れているし今ではギルドの拠点もなくなっている。好き好んで行く人はいないよ 」
「よし! 行くことに決めた 」
俺がそう即答するとリオンはマジでっ?って顔で俺を見つめる。
リーンの方を見ると彼女もマジでっ?って顔で俺の方を見ている。
えぇっ、リーンも? なんで?
まぁ確かに今の説明を聞いて積極的に行こうとするやつはよほどの阿呆かよほどの馬鹿ぐらいなものだろう。
誰が馬鹿だよ!
「危険は承知の上だ。それでも調査する必要があるんだろう? 原因を探るだけなら無理をせずに情報を集めることに集中すればいい。危険は制御できるものと判断した」
考えがあることをアピールする。馬鹿じゃないよっ
「いいのかい、レイン? 正直レインが行ってくれるなら安心できる部分はある。ただリーンまで行くのはちょっと、、、」
「大丈夫! 私とレインが組めば無敵よ! 」
一度も一緒に戦ったことはないんだけどな、、、
その自信はどこから来るのか? だがリーンがリオンほど魔術が使えるならあながち根拠がないわけでもないか、、、
一ヶ月ほど準備をしてくるということならかなり期待できる。俺もその間にいろいろと準備をしておこう。
「そうだろう、そうだろう。この二人ならまさに無敵だ 」
「レインまで、、、。二人がそんなだと逆に心配になるよ 」
俺とリーンを交互に見ながら内心を吐露するリオンの両肩を掴むと、にっこり微笑んで俺は魔石代の返済をせまる。
「そんなに心配なら俺に魔術を教えてくれ。まず始めに鉄魔術だ。こいつは外せない。出発前に修得できるように調整してくれ。絶対だぞ、絶対 」
絶対だぞ、、、力説しすぎて心の声がうっかりと出てしまった。
「わ、わかったよ。鉄魔術だね。何とかしてみるよ 」
リオンは俺の勢いに押されたのかすんなりと承諾する。
返済を迫るタイミングとしては勢い共になかなか絶妙だったのではないだろうか?
これでいろいろ強化できる気がする。鉄刀に魔力を纏わせることも鉄製の体を操ることにも役立ちそうだ。
「それでは俺は調査に向けて準備することにしよう。後のことは手紙ででも遣り取りしようか。直接訪ねてくることもあるかもしれないが 」
「うん、それじゃあ講義の調整はしておくよ。一週間後ぐらいには連絡をよこせると思う 」
「ああ、よろしく頼む 」
「私もなるべく早く詳細を送るね 」
「ああ、訓練頑張ってな 」
学院を辞して自宅に帰る。
一週間ぐらい空くなら明日からちょっと森林に行ってくるか。拠点の家を修繕しておこう。
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翌日の朝早くに車でラディフマタル森林に行ってくる。
途中まで高速道路が通っているのでそれを利用して向かう。
高速を降りた後も特に休憩を取ることなく突き進んでノンストップで村まで到着する。
ギルドの出張所に俺が駐車したことを告げてさっさと拠点に走って行く。
なるべく早く済ませて王都に帰ろう。
思いのほか早く手紙が来るかも知れない。なるべくなら自宅にいた方がいい。
急いで走って行くと拠点には昼過ぎぐらいに到着した。
軽く昼食を済ませると早速家の修繕に取りかかる。
屋根は思ったほど傷んでいないな。上を遮っている枝や葉っぱがいい仕事をしているのだろう。
木材の一部に苔が生えていたり腐敗している箇所があったので、水魔術と樹木魔術で修繕していく。
苔を落として水分を調整し、木材の繊維を整えていく。材木を結びつけている木の帯も繊維のほつれを修復して強化しておく。
これで長く持つようになるはず。
、、、ん?
修復を続けていると材木に気になる傷を発見する。
何かが飛んできて当たったと言うよりひっかいたような傷だな。
木の上を調べてみると同じような傷が何箇所かあった。
これは木登りがあまり得意ではない魔物だろうな、、、
普段から樹上にいるならこんな痕跡は残さないだろう。地上を移動する魔物だと思うが俺の家が相当気になったんだろうか?
ここら辺を縄張りにする気だったら人工物があれば気になってしょうがないだろうな。確認ぐらいはするだろう。
傷の感じからはけっこう大きな魔物な気がする。
地上も念入りに周辺を確認してみるがこちらは流石に痕跡らしいものは残していない。
ただなんとなく違和感のようなものは感じる。
ここを通り道にしているのか微妙に草の生えている感じとかが獣道の様相をしてきているような、そんな雰囲気だ。
気に入らないな、、、
魔境があの鳥の影響が薄れて活性化してきているのはいいことだがここは俺が築いた拠点だ。今はまだ目立って荒らされてはいないが時間の問題だろうな。
決着を付ける必要がありそうだ。
拠点で待ち構えていても遭遇できそうだがここで戦うとせっかく修繕した建物が破壊されてしまう。
それに待っていてはいつ出会えるかわからない。広い範囲を移動するタイプだと長くかかるかも知れない。
こちらから探しに行くしかないか、、、
それでもやはり時間がかかるだろう。
少々危険が伴うかも知れないが挑発を振りまきながら探すことにしよう。
そう決めると通り道としていると思われるルートを辿っていく。
初日は空振りに終わった。
二日目の昼過ぎ、森の中を挑発をばらまきながら走っていると正面から怒気をはらんだ気配が猛スピードで接近してくる。
リスクを冒して挑発し続けたかいがあったな、、、
その場に留まり相手の接近を待つ。どうやら相手は二匹いるらしい。
視認できる距離まで来ると相手を観察する。
黒い毛並みのオオカミ、レガル・ゼファだな。
最初に狩った個体よりだいぶ大きいな。成熟した個体、番かな?




