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機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー  作者: 井上 斐呂


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第80話 報告書 x 魔術談義① x 再調査

報告書は三日で書き上げることが出来た。悩んだところもあったが良いものになったと思う。自画自賛をしてみる。


早速、リーンに見せに行くことにした。


学院の受付は顔パスというか、もともとそこまでセキュリティーは厳重ではない。


学問の場は万人に開かれているのが建前だろうし、魔力の波動のお陰で良からぬ事を企んでいる人間はなんとなくわかるもの…


俺は無害な石だから大丈夫だ…


遠慮なくリーンの部屋の前に来るがどうやら不在のよう。魔力を感じなかった。開けなくてもわかるのは便利だ。


出直すかと考えるがリオンの部屋に行っている可能性もある。


講習を受けているときにリーンから場所は聞いていた。そちらに向かってみるとリーンはいないようだがリオンは中にいるようだ。


聞いてみるか…


ドアをノックしてみる。


「はい、入って大丈夫ですよ 」


中から返事が返ってくる。良いそうなので遠慮なく中に入ると机に向かって書き物をしている最中だったようだ。


「失礼する、ちょっといいか? 」

「うん、かまわないよ 」


リオンは手を止めてこちらに向く。


「リーンがどこに行ったか知らないか? 部屋にはいなくてな。報告書が完成したんで渡そうと思ったんだが 」

「今日はウルメセルムに行ってると思うよ。多分夜になるまで帰ってこないんじゃないかな 」

「ウルメセルム? 」


なんだろうな。初めて聞く単語だ。


「動植物を育成する環境を整えた場所で繁殖とか品種改良とかを行うね。王都の郊外にいくつかあってそのうちのどれかに行ってると思う。湿地帯の動植物を手に入れたって言ってたからたぶん第三かな。レインが採ってきたものだったね 」


農業試験場とか実験農場とかのことか。夜になるまで帰らないってことは今日は無理か。無駄足だったな。


「リーンに用件があるなら僕が聞いておこうか? 」

「いや、自分で渡すことにするよ 」


報告書が入った厚めの封筒を見せて応える。するとリオンは興味を引かれたようだ。


「それは例のカンヴァル湿原の調査報告書だね。ちょっと見せてもらっていいかな? 」


リーンから多少は話がいっていたようだ。中身を言い当ててくる。視線は封筒に向けられていて、目が輝いている。好奇心が刺激されてしまったのだろう。


わかるよ、その気持ち。これは良いものだ


「すまないが、依頼を出したのはリーンなんでね。最初に見せるのは彼女と決めている 」


だが断る


「そうか…残念だね… 」


俺の言葉を聞いて心底残念そうな顔になる。申し訳ないな。替わりと言ってはなんだが魔石代の一部を取り立てることにしよう。


「リオンは魔術について研究しているんだったな。この場でちょっと教えてもらえないか? 」


報告書をちょっと読むぐらいの時間は合ったのだろう? まさか断るとは言わないよな?


「う~ん、そうだねえ 」


時間がどうこうとかは言ってこない。何から教えるべきかと言ったところか。


「そもそも魔力ってのはなんなんだろうな? そういう根本的なところからでかまわない 」

「狩人なのにそういうことを気にするんだね。意外な感じもするけどレインらしいと言う気もするね 」

「ダメなのか? 学問なら一番に気にすべき事だと思うが 」

「ダメじゃないというか歓迎するよ。ただ、わかっていないことが多すぎてあまり実りあるものにはならないんじゃないかな 」

「それでもかまわない。現代魔術の基礎的な部分が知りたいんだ 」


わからないことをわからないと知る。出来ないことは出来ないと知る。無知の知というヤツに通じるものがある。そういうのは案外大事になるものだ。鞭打ちでもムチムチでもないぞ。


「それじゃあ本当に基本的な考え方からやろうか。レインは魔素って言う言葉を聞いたことはあるかな? 」

「本で読んだことはあるが詳しくは知らないな。魔力の基になるものがあるって言うぐらいだな 」


「魔力を行使すると言うことは魔力が消費されると言うことだよね? その消費された魔力はどこに行くのか疑問に思った人がいた。それが始まりだったと言われている

 そうすると魔力はそもそもどこから来ているのかが疑問になってくる。その疑問に答えるために魔素という概念が生み出された 」


「なるほど、魔素が魔力に変換されて物質に影響を及ぼせる形になり、魔術現象を起こすと魔力は魔素になってどこかに消えていくと… 」


「うん、そうだね。そういう考え方が今の学会では主流ではあるね。もちろんそれが間違っている可能性も大いにあるけどね。なんせ魔素の存在をだれも証明できたことがない。魔力ですら僕らは感じることができるし魔石の存在も知っているけど直接測ることはできていないんだ 」


そうか。俺は魔力量を直接測ることは出来ているがあくまで魔力の大きさを測っているだけで魔力そのものではないということだな。亜空間という特殊な環境下ではその挙動が普通の空間と異なるという可能性もある。そうであると決めつけるのも良くないかも知れない。


「次は魔境と魔素の関係について話していこうか。レインも狩人なら気になったことはないかな? どうして深層にいくにつれて魔物が強くなっていくのか? 土や木に含まれている魔力が多くなっていくのか? 」

「気にはなっていた。まあ、そういうものだと割り切っているところがあるが… 」

「はじめは魔境の奥に行くにつれて魔素が濃くなっているからと言う考えが主流だった。魔境の奥に魔素が吹き出してくる源泉があるという考え方だね 」

「実際は違っていると? 」


「違うと言うより説明がつかないことがあるっていうことだね。魔境のほうが魔素濃度が高いと仮定して、魔境で鍛え上げて魔力が増大した狩猟者が街に長く暮らしたとしても魔力は低下していかない事はわかっている

 魔素濃度が魔力量に関係するならそのとき魔力量は低下していくはずだし、関係ないなら深層の魔素濃度が高いと言うことは否定される」

「一度魔力が成長したら低下しないんじゃないのか? 」

「魔石だけを空間に置いておくと徐々に魔石は小さくなっていく。魔力自体は拡散する性質にあるように思う…

 生きている魔石は状態を維持しようとするがそれでも濃度の差には抗いがたいと考えられている

 魔力を消費したとしても魔境と都市で回復量に差があるわけでもない。詳細は不明ではあるけど魔素源泉説を積極的に支持する理由がないというのが実情かな 」

「では、今は魔素は均一に世界に広がっていると考えられているということか 」

「その通り。魔素自体は世界に均一に広がっている。魔境の深層は何かしらの作用によって大量に魔素から魔力を引き出していているし、魔力量の多い人間は都市部においても魔素から魔力を引き出している。その原因となるものは魔石が深く関わっていると考えられているがそれ以外の要因も示唆されている。これが一応の通説となっている 」

「それじゃあ(はる)か上空でも深海でも魔術は使えると言うことか 」

「そうだね。昔は魔素には重さがあって深い谷間とか窪地に溜まっているなんて説もあったけど、それならすべての魔素は深海に溜まっていき地上ではほとんど魔術が使用できないことになる

 一応高い山の上でも魔術は問題なく使用できることが確認されている。海の底には魔素は届きにくいなんて説もあったけど水深をだんだんと深くしていっても魔術の使用に差が出るなんて事もなかったらしいね 」


そこで言葉を切っていままでになく真剣な表情になる。


「でも宇宙で魔術が使えることを試した人はいないんだ。いつか試してみたいと思っている。僕は理由はないけれど使えないんじゃないかと思っているんだ。魔素に重さがないなら宇宙に広がっていてもおかしくはないはずなんだけれどね… 」


宇宙か…


この世界の技術なら宇宙に到達するのもそう遠くない気がするな。魔術を応用すればロケットの製造も難しくないだろう。材料技術は地球を越えているし燃焼も魔術で細かく制御できる。宇宙放射線もこの世界の人間には効かないだろう。


問題があるとすれば魔物がいるから周辺に人がいない発射場を確保するのが難しいことかな。あと30年ぐらい積み上げれば実験ぐらいにはこぎつけられそうだが。


俺が気にすることでもないか。俺は俺で自分のやりたいことをやるだけだな。


そういう人間なんだろう。俺もリオンもリーンも…


「そのときが楽しみだな 」

「そうだね。本当に 」


にっと笑って言う俺に対してリオンも笑って返す。


「それじゃあ、俺は行くな。なかなか楽しい話だった。ありがとう 」

「こちらも楽しかったよ。機会があったらまた魔術の話をしよう 」


リオンの部屋を辞して自宅に戻る。


いつならリーンがいるかな。次は空振りにならないといいが…


電話で連絡が取れれば良いのだがまだまだ普及はしていない。学院やギルドなんかの主要施設、王都の中心部、各主要都市の一部… そのぐらいか、通っているのは。自宅にも引きたいところだがまだ無理かもな…


諦めて普通にその日を過ごした。


リーンのことだ。俺が採取してきたサンプルに夢中で掛かり切りになっていると考えられる。


試験場に行ったままになっているのか…


それならば数日は開けた方がいいだろう。リーン一人だけでやると言うことはないとは思うがスタッフとやりとりするだけでもそれなりに時間は掛かることになりそうだ。


その間、何をしようか?


なんとなくカンヴァル湿原にはもう一度行くことになりそうな予感がする。そのときのためにいろいろ資材を集めておくことにしよう。


それはそれとして、そろそろ森林での狩りもしたいところだ。拠点がどうなっているのかも確認したい。


だが、いまはリーンとリオンとの関係を構築していった方がいいかもしれない。あの二人はなんとなくいろいろなところに顔が利きそうな気がする。いざという時頼りに出来るなら安心だ。


現金な話かも知れないがそこにこだわっていられるほど余裕はない。俺の置かれている立場を考えればそうなるだろう。


あくせく働いているつもりはないが、やらなければならないことが多い。優先すべきことを間違えないようにしなければ…


二日ほど開けて再びリーンの下を訪れてみる。


今度は自室にいたので調査報告書を渡すことができた。


「これが今回の報告書だ。なかなか面白いものに仕上がったと思う。読んでみてくれ」

「……うん、ありがとう。後で読ませてもらうわ 」


だがリーンの顔はどこか優れない印象だ。


聞いていいものか…


声を掛けるか迷っていると向こうから口を開く。


「………死んじゃった 」

「し、死んだ!? 」


まさかリオンがって事はないだろうな。この世界の人間は魔境にでも行かない限りそう簡単には死なないはず…だよな?


「レインが取ってきてくれたあのアキアトル… 死んじゃうのよ…すぐに… 」


なんだ、あれのことか。あれがすぐに死ぬのは薄々感じていた。そのままの状態なら一、二週間は保ちそうな気がするが実験に使うなら取り出さないと無理だ。せいぜい一時間ぐらいしか生きられないのではないだろうか。場合によっては数分で死にそうな気がする。


「どのぐらい死んだんだ? まだまだいるはずだろう? 」

「……あと一瓶よ 」


……マジか


五日で二瓶の消費とはね。一瓶に結構な数がいたはずなんだが結構豪快に使用したらしい。


「どういうふうに使ったんだ? 」

「最初は一匹ずつ取り出していろいろな環境下に入れてみたんだけど定着せずにすぐに死んでいったのよ。数を増やしても結果は同じで最初の一瓶は使い切っちゃって… 」


研究内容をしゃべり出すと花が咲いたように楽しそうになる。ここら辺は研究者だな。


「もう一瓶はどうしたんだ? 」

「最初の一瓶に残った水と土を合わせてなるべく環境を再現して、そこにまるごと全部投入してみたの。数が多ければみんなで協力して環境を調整してくれるかなって思ったの 」

「そうしたら全滅した、と…? 」


そう指摘したらリーンはとたんに表情が曇り俺から目線を逸らす。黙ったまま弱々しく叩首すると俺の言葉を待ってそのまま黙りこくる。


「……… 」

「……… 」


気まずい沈黙が流れる。


リーンが何を言わんとしているのかはわかっている。魔力を通してビンビンに伝わっている。だが自分から言い出すのは負けたような気がする。


……ハァ……


結果として耐えきれなくなったのは俺の方だった。


「また取ってくればいいのか? 」


そうなる予感はしていた。毒を食らわば皿まで。最後まで付き合ってやることにする………最後って何処までだ?


「ホントに? いいの? 」


遠慮がちに聞いてくる。


「依頼を出せば引き受けることにしよう 」


そう言うとリーンはしてやったりという感じににっこりと微笑むと俺に直ぐさま依頼をかけてくる。


「じゃあお願い! 今すぐ! 」


今すぐってお前…


さっきまでの落ち込み具合はやはり演技だったか。完全にいつも通りに戻っている。


よくも、よくもだましてくれたなぁ!


…なんて別に思わないが我ながらチョロいなとは思う。妹のような存在に弱いのか、俺? リオンの苦労が(しの)ばれるな。

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