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機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー  作者: 井上 斐呂


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第31話 討伐報酬 x 通貨制度 x 宿泊

俺は特にやることはないようだ。ギルドの椅子に座って働く様子を眺めていると対面する席にセリアさんが腰掛ける。


その手に持っていた布袋を机の上に置くとジャラジャラとコインの(こす)れ合う音がした。


「これが今回の討伐報酬だ。全額ある 」

「全額? いいのか? 俺は狩人の免許は持っていない。それに組合員でもないから全額をそのまま渡すのは良くないんじゃないのか? 」

「かまわないさ。働きに見合った報酬だ。と言っても外国から来たお前にはどれぐらいのものか判断がつかないだろうが… 」

「その通りだ。後学(こうがく)のために今ここで教えてくれないか? 」


少し図々(ずうずう)しいかもしれないがこの際だ。色々教えてもらうことにしよう。セリアさんも特に気にした様子はない。


「うむ、そうだな。価値がわからなければ全額もらったかどうか判断もつかないだろうな。教えて進ぜよう 」


大仰(おおぎょう)にうなずくと布袋から4種類の硬貨を取り出して机の上に並べる。そして、説明が始まった。


「このはじの一番小さい硬貨が1000エスク硬貨だ。次が5000エスク硬貨。その次が10000エスク硬貨。一番大きいのが10万エスク硬貨だ 」


硬貨はどれも同じような銀色をしている。材質はみな同じようだ。さらに自分の財布から硬貨を取り出して同じように並べ説明してくれる。


「この一番小さくて軽い硬貨が1エスク銅貨で、一回り大きい八角形が5エスク銅貨。さらに一回り大きい真ん中に穴があるのが10エスク銅貨だ 」


1から10までは銅で出来ているらしい。銅の茶色っぽい金属光沢を見ると10円硬貨を思い出してしまうな。


「この銀色の5エスク銅貨と同じ大きさと形をした硬貨が50エスク硬貨だ。真ん中に穴が開いているのが特徴だ。見なくてもこの穴を指で確認すれば5エスク銅貨と区別することが出来る

 この硬貨が100エスク硬貨。10エスク銅貨と同じ大きさだがこちらは穴が開いていない。最後が500エスク硬貨だ。これは1000エスク硬貨と同じ大きさだな 」


50から500はニッケルとかで出来ているのだろうか? 50円玉や100円玉と似たような銀色をしている。1000からの硬貨と色がやや似ている。並べて比較すると違いがはっきりとわかるが間違えやすいように感じた。


試しに、500エスク硬貨と1000エスク硬貨を手に取って比べる。すると違和感を覚えた。1000エスク硬貨から魔力を感じる。この世界に魔力を帯びていない物質はなさそうだがこれは通常よりも明らかに魔力が多い。


1000、5000、10000、10万と徐々に魔力の含有量が多くなっている。込められた魔力ならすぐに抜けていくはず。人工的に魔力を留めた状態にする技術でもあるのだろうか?


「気づいたか。1000エスク硬貨以上は魔鉄を使用しているんだ。徐々に等級を上げて製造しているそうだ 」


魔鉄…そういうのもあるのか…


そういえばセリアの剣から妙な気配を感じたことがあった。


「セリアの剣も魔鉄で出来ているのか? 」

「その通り。これは私が持っている物の中で一番いいものと言うわけではないがなかなかの品だ 」

「魔鉄は人工的に作られるのか? 」

「そういう研究もあるそうだがうまくいっていないようだ。学者が言うには地中の高魔力圧の環境に長いことさらされると魔力を帯びるんだそうだ 」


俺は蛇から食らった毒について思い出していた。あれも魔力を帯びた物質なのではないか? 亜空間で解析するとどうやら魔力が高い物質で出来ているらしい。


特定の条件下で魔力が一定の働きをするようだ。物質によって魔力を帯びる条件は異なるように思う。


亜空間の中なら自分でも作れそうな気はする。


いつかやってみよう…


鹿から取り出した鉄も普通より魔力量が多いようだ。あれも魔鉄だったということなんだろう。


「そうそう。お金の価値についての話だったな 」


脱線しかけた話をセリアさんが元に戻す。


「だいたいパン一つが50エスクになる 」

「ひとりの人間が一ヶ月暮らすのにどのぐらいかかるのだろうか? 」

「…ふむ。そうだな。だいたい30万エスクもあればそれなりの生活は出来ると思うが…… 私は稼ぎがいいので一般的な感覚とは多少ずれがあると思う。大まかな目安だと思ってくれ 」


稼ぎがいいと自分から言う物なのだろうか? 前世では少なくとも…ってまだ高校生だったな。周りに稼いでるやつなんてそうそういない…いや、いたか。木崎のやつが株をやっていたなたしか。アレは参考にならないな。


節約すれば二十数万エスクで生活できる感じか。いずれにせよ二十から三十万と見積もっていればいいか。


「そうか。ありがとう。参考になった 」


袋の中身を確認すると百二十万エスクあった。四ヶ月ぐらいは働かずに暮らせるぐらいか。税金とか考えなければだが。


森や山の奥の方にはあれ以上の魔物がゴロゴロいるのだろうか? ああいったのを安定して狩れるようになればかなりの収入が見込める。熟練の狩人はどれぐらい強いんだろうな。


「ところで税金はこの場合どうなるんだ? 」

「税金か?…どうだろうな。今回のは私が払ったことになるから大丈夫だろう」


大丈夫ではなさそうだが…


まだ、この国の人間ではないからそこらへんは曖昧なんだろう。そう納得することにした。


「異国人の俺がこの国で働くにはどうすればいいんだ? このまま狩人の免許を取ればいいんだろうか? それともこの国に所属を移すような手続きをしなければいけないのか? 」

「……ふむ、そうだな。それについてはどこか落ち着いて話せる場所で話すとしよう。レインは今日、どこに泊まるか決めているのか? 」


ん? 泊まる…?


そうか、宿を取らないといけなかった。穴を掘って休むことに慣れすぎて人間としての暮らしの感覚が薄れているな。指摘されるまで考えもしなかった。昨日ホテルに泊まったのにもう頭から抜け落ちている。


「…考えていなかった。どうするかな…? 今から開いている宿を探して部屋を取ることは可能だろうか? 」

「それなら昨日と同じ宿を取るといい。あそこなら大丈夫だ。あの宿で話の続きをしよう 」


あの宿は値段が高めという話ではなかったか。まあいいか。今は(ふところ)が温かい。それも目の前にいる彼女のおかげでもある。提案通りにするのが義理を通すことになるだろう。


「わかった。今日はあの宿に泊まるとしよう 」

「ならば今すぐ行くことにしよう 」


そうと決まると行動が速い。言い終わるかどうかというところでさっさと(きびす)を返しギルドの扉へ行ってしまう。


俺は若干慌て気味に後を追いかけた。



昨日の宿に着くとセリアさんにうながされて受付をする。


幸いにして昨日泊まったときと今朝チェックアウトしたときと同じ従業員だったので話は早そうだ。


「泊まりたいのだが部屋は開いているか? 」

「はい。空室はございます。昨日と同じ部屋でよろしいですか? 」

「それでたのむ 」


もっと安い宿が他にあるかもしれない…ここにきてそう思ったが今更だ。


昨日の部屋より安い部屋はこの宿にはない気がするが、あのぐらいなら流石にそこまでの値段はしないだろう。


「それではこちらに記入をお願いします 」


従業員は宿帳を開いてこちらに差し出してきた。昨日は書かなかったんだが…。セリアさんが手続きを行ったからか? お得意様パワーなのか? 金こそ力なのか?


これが資本主義というものか…


いや、違うな…信用力の問題だろう。彼女にはしかるべきバックがついているような気がする。それなりの地位にいる人物のように見える。今の俺は社会的信用が低すぎる。


「了解した 」


俺はうなずいてペンを受け取ると、ペン先をインク壺にちょっと付けてから記入欄を確認する。


掛け線とかは印刷だな。当然印刷技術はあるか。窓ガラスを作っているぐらいだし。


記入する項目を読んでみた。この世界の言語は表音表記だから話している単語がわかればある程度読める。他の人が書いているのを見ればなんとなくわかる。名前、年齢、国、領、住所、職業…結構書くな…。


当然書けない物もある。


職業……前世基準だと学生になるが…空欄でいいか…

すべて埋める必要あるんだろうか?


空欄で出したが特に何も言われなかった。ある程度書けてればいいらしい。内心で安堵した。


いや……後ろに控えているセリアさんのおかげか?


「前払い制となります。15000エスクのお支払いをお願いします 」


受付はちらっと俺の後ろに視線を送った。言わんとするところはわかる。


いやいや、昨日までの俺とは違うのだよ…


俺は腰に付けた巾着袋から取り出す振りをして5000と10000の硬貨を亜空間から取り出して渡す。亜空間を使えば一瞬で必要な分が取り出せる。巾着の中は見ない。手の感覚だけで仕分けてぱっと取り出したように見えるだろう。


スマートに会計する方が出来る大人って感じがする。いや、大人ぶる方が子供か? よくわからんな。こうやってホテルに泊まるのは前世も含めて初めてなんだよ。


支払いを済ませると前日と同じように鍵とランタンを受け取る。203号室。昨日のシャワールーム?の戦いを思い出すな。後ろを振り返るとセリアさんが話しかけてくる。


「荷物を置いたら私の部屋に来てくれ。部屋は501号室だ 」


女性からホテルの部屋に来てくれなんて言われると少しドキッとする。たとえその後に何もないとわかっているとしても…。


俺は動揺が現れないように平然を装って返答する。


「わかった。すぐに行く 」


俺は自室に荷物を置くとセリアさんのところへ向かう。階段を上り扉の前に立つ。理由はわからないがなんとなく緊張感があった。そう、理由はわからない。


意を決してドアをノックする。こっちもノックでいいのだろうか? 一応声も掛ける。


「俺だ。レインだ 」


よく考えたら魔力とかでわかるような気がしてきた。声をかけたのは正解だったろうか? とくに彼女は鋭そうだ。声掛けの必要はなさそうではある。


すぐに内側から魔力の気配が近づいてきてドアの手前で止まった。


やっぱり必要なかったか?

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