第240話 北門の戦い
これですべてかな…
理力光線で一通りの魔物を駆除し終わるとホッと一息つく。役目を終えたフォース・ビットを帰還させていく。
《・・・・・・・・》
大きいの小さいの合わせて全部で三百体ぐらいは始末した。警官や市民の皆さんが倒した分を合わせると六百体ぐらいになるかな?
《・・・・・・・・》
アイツの所為で出遅れはしたが、かなりの被害を減らすことが出来ただろう。倒れている人の中には気を失っているだけでまだ息のある人も多い。魔石が働いて仮死状態になっている人も少なくない。見かけよりも被害はずっと少ないはずだ。
《・・・・・・・・》
この戦いを仕組んだ何者かもこの結果は予想をしていなかったはずだ。
泣けただろ?
《・・・・・・・・》
というかさっきからうるさいよ。
《・・・・・・・・》
まいったな、、、
理力兵装を使用したことでコアの機能がまた上がってしまったらしい。前にも聞こえていた“声”がより鮮明に聞こえるようになってしまった。
機能的には問題はない。フォース・ビットを操作している時も終始語りかけられていた。語りかけると言っても何を言っているのかわからないが、、、
わからなくても語りかけてきているのはわかる。不思議な感じだがそう捉えるのが自然だと思えた。
だよな?
《・・・・・・・》
まあ、いいか、、、
《 帰還 》
人間に戻ると途端に聞こえなくなる。これ以上コアの性能を引き出せるようになってしまったらどうなるのか一抹の不安がある。しかし、今のところ対策はないな。なるようにしかならん。
諦めて今度は北門付近の様子をうかがう。まだ、向こうは決着がついていないようだ。俺も行くことにしよう。
ビルの屋上から大通りに向かって飛び降りると落下途中で水糸を操作してベクトルの向きを変えてやり水平方向で着地してそのままの勢いで走って行く。
これを仕掛けて来たクソ野郎のことだからまだ何かトンデモナイものが用意されていたとしても不思議じゃない。
次もぶっ潰してやるよ…
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(別視点)
北門から押し寄せてくる猿の魔物達に対して駆けつけてきた警官達は抜剣して対抗していく。
狩猟ギルドからもたらされた情報により人間のように武装をしている魔物がいることは伝わっていたが、いざ実物を目の前にすると困惑せざるを得ない。
しかし、魔物相手に躊躇してはいられない。困惑も一時のもので目の前の敵を排除しようと冷静に攻撃していく。普段、人対人で訓練を行っている分、むしろ対処はし易いとも言える。
連携して次々と切り伏せながら北門の制御室に向かおうとする。開きっぱなしになった門を早く閉じなければならない。このままにして置くととてつもないものが都市に侵入してくる。そんな予感があった。
しかし、魔物の数が多すぎて前進することができない。おまけにより大型の魔物が混じっていて数名の警官が浅くない傷を負わされることになり一時的な撤退を余儀なくされていた。
防衛線を張りつつも増援の到着を待つことにして耐える。周辺にいた戦える市民も駆けつけて防衛線に加わってくれる。それによりなんとか戦線を持ち直すことが出来た。
耐えていると数分もせずに警察の増援が到着して体勢を整えるといよいよ攻勢をかけていく。
「いつでもいけますっ! 」
「よしっ! 突撃… 」
「隊長っ! 新手ですっ! 」
突撃隊を結成していざ殴り込みをかけにいこうとした矢先にそれはやって来た。
門の外から巨大な魔物が地響きを立てて侵入してくる。オリバーにより団長級と分類された猿の魔物だ。
デップリとして頑丈そうな体躯は隊長級よりも数倍の大きさがあるように感じる。太い二本の足で立ち上がり歩く様は巨人のようにも見える。
分厚い鉄板で拵えたような金属鎧を身に纏い、手にはその体格に合わせた戦槌を握っている。まともに食らえば一撃で戦闘不能になるだろう。
それを見て防衛線を張る部隊長は即時に決断を下す。
「後退っ! 突破されるのだけは阻止しろっ!」
今は市民が避難をしている時だ。後ろに魔物を通すわけにはいかなかった。防衛線で小型の魔物を防ぎつつ新手のデカいヤツを警官の最精鋭部隊で足止めする。そんな作戦を思い描いていた。
団長級が一体だけであればその作戦は成功していたかも知れない。
「な… なんだと… 」
団長級は一体だけではなかった。後ろからももう一体が顔を覗かせる。さらにはその後ろからも。
「バカなっ! 三体だとっ! 」
「もう一匹いますっ! 」
合計四体が侵入してきた。手に持つ武器は斧であったり金棒であったり様々だが、いずれも同じぐらい強力な個体であると一目見ただけで誰もが感じていた。
(まずい… このままでは防ぎ切れん )
最悪の結末が頭をよぎったその時、後方から大きな魔力反応が接近してくる。人間の魔力だ。その力強さに暗雲が立ちこめていた前線に活気が戻る。
「我々も加わろう 」
「まぁ、しゃーねーわなぁ 」
帝国騎士団諜報部のリエラとダンが部下達を引き連れて戦線に加わる。
皆、警察の制服を着ていて傍目からは警察署からの増員にしか見えない。それを見た周囲はアッシェバーンの底力を見たような気分になり士気が触発される。
彼らの主な任務は捜査をすることであり直接の戦闘は想定外だ。しかし、こういった事態が起きないようにすることが目的であった。この戦いに参加することは後始末をつけることに等しい。
そして、戦闘が不得手というわけでもない。
リエラとダンはゆっくりと地響きを立てて迫り来る団長級達を見つめながら苦々しい思いでいる。同時に冷静な目で戦況を判断していく。
アレは強い。苦戦は免れないと思った。
リエラとダンの部隊が一体ずつ受け持ち、警察の精鋭部隊が一体を相手にする。どうしても残りの一体を相手取れる部隊が足りない。
直ぐに倒して次にいけるような生易しい相手ではない。最後の一体は防衛線で食い止めなければならなくなる。他の相手をしている間に防衛線が保つとは思えなかった。部隊長も同じことを考えている。
それでも事態は動いている。敵はこちらの都合に合わせてはくれない。
リエラとダンは逡巡もそこそこに、隊を引き連れてそれぞれ団長級に向かっていく。援軍が到着してくれることに賭けるより他なかった。
リエラは敵の正面に躍り出ると注意を向かせるために空術で足場を作って飛び上がり目を狙って切りつける。首を捻って躱されるが刃は頬を掠めた。皮膚が切れて血が流れ伝う。
躱されはしたが注意は引くことが出来たようだ。団長級は怒りの咆吼を上げるとリエラに向かって戦槌を振り下ろす。
余裕を持って躱すと戦槌の頭部はアスファルトに叩きつけられ道路を爆発させるように砕く。弾丸のように撒き散らされる破片をものともせず前に踏み込むと懐に潜って斬撃を浴びせ、鎧の隙間がある鼠径部を切りつける。
それに合わせるように残りの五人の隊員が攻撃を仕掛けていた。それぞれが鎧の隙間を狙ってねじ込むように突きを放つ。
全員の攻撃は毛皮を切り裂いて肉まで届いた。しかし、手応えに違和感を覚える。硬い感触は刃の侵入を留めていた。おそらく想定よりも防御力が高い。
その後も、リエラが正面を相手取りながら相手の攻撃を躱しつつ仕掛けていくがあまり手応えを感じられない。
(こいつ… 異様に頑丈ね… )
魔術を使ってくる様子がないことや肉体の硬さ、傷の回復力などから肉体の強化に能力を割り振っている様にリエラには感じられた。
戦いの技術は未熟で攻撃の威力は高いが隙が大きい。リエラのような手練れにとってはそう恐い相手ではないが倒しにくいという点においてはこの場において厄介極まりない特性だった。
他の場所ではダンがリエラと同じように正面を受け持って戦っている。同じような戦術で相手を翻弄しているがこちらも決定打を与えることに苦心している。
警察の精鋭部隊も十人がかりで入れ替わり立ち替わり攻撃を仕掛けているが結果は同様で大した損害は与えられていなかった。
そんな中、残りの一体が防衛線に迫りつつあった。警察はそれに対して水魔術を使える術士で隊列を作り集合魔術で対抗していた。
消火栓から水を引いてきて巨大な水弾を作り出してぶつける。最初の数発は効果を発揮して敵の巨体を押し返していたが相手はそれに慣れてくると放たれる水弾に対して金棒を振り下ろして粉砕してくる。
おまけに道路のアスファルトを砕いて足場を作り出すと以前にも増して確実に足を進めてくる。
水魔術を使えない警官達は空術を使えるものは空弾を放つことで補助にまわっているが時折邪魔しに入ってくる小型の魔物のせいで効果を上げられないでいる。
とうとう防衛線の手前までたどり着かれてしまう。巨大な魔物は防壁を破壊しようと手に持った金棒を振りかぶる。
見上げるほどの巨躯、さらには身がすくむほどの魔力圧の高まりを感じ、ある者はその場に立ちすくみ、ある者は蜘蛛の子を散らすようにしてその場を離れる。
そして、膨大な魔力が込められた金棒が横薙ぎに叩きつけられて振り抜かれる。
設置されていた防壁は広範囲になぎ倒され吹き飛ばされる。数名の警官も衝撃で破片と一緒に吹き飛ばされていく。
防壁の破損箇所へ小型の魔物が殺到していき都市方面への侵入を開始し出す。
防衛線を維持していた警官や武装市民は戦線を維持しつつも侵入していった魔物を殲滅するために即座に人員を割いて当てることを決断する。しかし、団長級が防壁を破壊したそのままに歩を進めて防衛線から侵入してくる。
小型を倒そうにも迂闊に前に出れば金棒の餌食になってしまう。誰もが思うように動けないでいた。
もはや防衛線の修復も維持も困難だ。部隊長は戦線を崩して乱戦に持ち込もうかと考えた。
号令を出そうとしたその時、門の外側から大きな魔力が入ってくるのを感じた。
人間の魔力だ。
見ると団服に身を包み軽鎧を身につけた騎士達がこちらに駆けてきていた。
アッシェバーン境界騎士団の第二部隊長を預かるアロッゾとその旗下、精鋭七名からなる一小隊が到着したのだ。
騎士隊は防衛線を越えて都市中心に向かう団長級に後ろから襲いかかる。
魔物はそれに気付いて後ろに向き直るが、その瞬間、次々と騎士達の斬撃を浴びせられて背中から倒れ込むことになる。
倒れ込んだ巨体の横を通り過ぎていくと防衛線を通過した小型の魔物達を切り伏せながら部隊長の下に行き、アロッゾが声をかける。
「遅れて済まない。あのデカブツは俺達が引き受ける 」
「助かる 」
短い遣り取りのあと部隊長は防衛線を引き下げつつ修復するために指示を出していく。まだ侵入してきた小型を一掃出来ていない。討伐隊を結成する必要もある。
騎士が来てくれて戦線の維持は可能になったが気の置けない状況だ。南側に魔物が現れたとの情報も警察無線でちょうど入ってきたところだった。場合によってはこちらから人員を回さなければならない。
その横でアロッゾは部下に指示を出す。
「グリンツとマルスは俺に続け! それ以外は南側に救援に迎え! 」
「はっ! 」
既に起き上がって向かってきている団長級を睨み付ける。自分も含めて三人もいれば倒せると見積もったが平然と向かってくる様子を見ると想定より強い魔物であると思えてくる。
「面倒くさそうなヤツだな… 」
南に向かう五人の部下達の足音が遠ざかっていくのを背中で感じながらもう一人残しておけば良かったかなと心の中で呟く。鎧に身を包み武器を手に持って闘う魔物などはじめてだ。
最初の不意打ちでは試しに鎧の部分を攻撃してみた。鎧を斬ることは出来たが中まで通すことは出来ていない。それなりに等級の高い魔鉄が使用されているようだった。防御に魔力を振っている様にも思える。
鎧の隙間を狙った部下達の攻撃もそこまで効いていないようだ。八名の騎士達による斬撃、それも不意打ち気味に喰らわせたはずだが平然と歩いている。
長期戦になりそうだなと思いつつも殴り続けていればいつかは倒れるだろと楽観的に考える。戦闘用に気持ちを切り替えて正面から向かっていった。
アロッゾが正面に陣取り敵の大振りの一撃を躱すと、その間に騎士二人が左右から抜けて後ろに回り込む。陣形を整えると本格的に討伐が始まっていく。
背負っている水槽から魔水を呼び出して身に纏うと振り回される団長級の金棒に斬撃を合わせて受け流していく。水撃により衝撃を増加させて軌道を逸らし、その際に生じる衝撃を水で受け止める。
真っ正面から打ち合うように攻撃を捌いている間に後ろに回った二人も水術で攻撃を仕掛けていく。アロッゾが正面で引き受けている分、後ろの二人は攻撃に集中出来る。
時折、後ろからの攻撃を嫌った魔物が振り返って二人に攻撃を仕掛けようとするが、その隙をアロッゾが突いて深く切り込んでくるので常にアロッゾを向いて戦うことを強いられる。
団長級がこの状況を打開するには目の前にいる一際強力な騎士を仕留める他にない。
終始人間側に有利な状況で進んではいる。しかし、団長級は驚くほどの頑強さで抵抗していき一向に倒れる様子を見せない。時間は刻々と過ぎていく。
南側が騒がしくなってきていることは北門の周囲にいても伝わってきている。末端の警官や武装市民達も多くの市民達が混乱のさなかにあれば魔力によって状況がわかる。
なるべく早くこちらを片付けて救援に駆けつけたい思いが生じる。
団長級と戦っている猛者達はそういった思いを頭の片隅に追いやって目の前の戦いに集中していった。




