第238話 X アルゴル
回復出来ない傷を与えてくるという話が本当なら厄介なこと極まりない。俺ならば最悪、亜空間修復でなんとかなると思うがジュジュはそうもいかない。先に行かせたのはそれが理由でもある。
周りに人がいなくてよかった…
そこら辺はコイツに感謝してやってもいい。礼は何がいいだろうか? 言葉を理解するとは思えないな。言葉じゃ足りないだろう。有効な攻撃をプレゼントしてやりたいところだがよく知らないから何が効くのかわからない。
ここは相手を知るところから始めないとな…
何が好きで何が嫌いかわからないとプレゼントのしようがない。アレルギーとかあるかも知れないし。
まあ、プレゼントしたいのはコイツの一番嫌いなものなんだけどなぁ
俺は意思を固めると“月影”に思いきり魔力を込める。今度は俺の方から仕掛けていく。
相手が動くよりも先に動いて一足飛びに接近すると振り下ろす。
―ガキィィッ
硬質な音が空き地に響いた。斬撃は前足で防がれたが切りつけた感触はいつものに近い。一定以上の魔力圧を保てば分解されないと言う話は本当のようだ。
相手からお返しに反対の前足での突きが放たれる。それを身を捻ってギリギリで躱すと後ろに跳んで距離を置き、左手に“守継”を抜いて同じように魔力を込めていく。
何となくアルゴルは魔術を使えないのではないかと思えてきた。とりあえず正面から打ち合いをしてみようと再び踏み込む。今度は相手も同じことを考えたのかこちらに向かってカサカサと前進してくる。
中間地点でぶつかり合うとお互いの二刀を繰り出し合う剣戟が始まる。
―…ガガガガガ………
至近距離から高速で繰り出す斬撃をぶつけ合いながら押し合っていく。受け止めては受け止められる。そんな攻防をしていくと時折、後ろの足を突き出してくるがそれもまとめて弾いてやる。
動きは速いが攻撃は単調な感じで十分に捌ききれる。だが、厄介なことに気を抜いて魔力圧の維持が疎かになると剣を折られそうな感覚が手に伝わってくる。圧力を上げてもまったく分解されないと言うことではなさそうだ。
この分だと攻撃魔術を放ったところでたいして効果はなさそうだな、、、
分析しているとアルゴルの動きが変わる。胴体の部分がわずかに膨らみ後ろに引くような体勢を取ると次の瞬間に口から緑色の液体を吐き出してきた。
―空射加速
身を低くして躱しつつ、空術で加速して体の下をくぐり抜けると通り抜けざまに一番後ろの足に斬撃を叩きつける。
ガコッッ…―
魔力と加速の乗った刃は足の半分ぐらいまで切り裂くことが出来たが切断するまではいかなかった。
硬さで弾かれたと言うよりは斬りにくいと言ったような手応えだった。コイツを切ろうと思ったら相当に魔力を込めないと駄目だろう。相手は魔力の効果を十全に引き出せるがこちらは下手を打つと魔力無しで戦うような状況を強いられる。
素材の特性が良ければもっと楽に渡り合えるような気もするんだがな、、、
大質量の石材でぶん殴るとか複合素材でできた剣とかタングステン合金製の剣を使うとかかな? いずれにしても質量と体積の大きさを確保する必要がありそうだ。とりあえず今は魔力で対抗する手段しかとれないが、、、
更に魔力を上げてアルゴルに向かっていく。ヤツはどういうわけかこちらに後ろを向けたままだ。警戒をしつつもぶった切る勢いで剣を振るう。
すると、切りつける瞬間、突如として滅茶苦茶にのたうち回るような動きをしてくる。糸に引っ張られた操り人形のような動きだ。
初撃に斬撃を合わせてはじき返すと、今度はゴキゴキと関節を鳴らしながら無茶な姿勢から突きを三回放ってくる。
冷静に見極めて剣でガードすると脇差しを仕舞って“月影”を両手持ちに切り替える。魔力を一本に集中させて大魔力で一気に切る。
そう考えて相手の攻撃終わりを狙う。
剣を振りかぶる。その瞬間、アルゴルから嫌な気配が急激にぶわっと膨らんでいくのを感じた。
―空射加速
咄嗟に空術で後ろに身を引く。
―スパッ……
一瞬遅れた“月影”に相手の斬撃が当たり豆腐のようにあっさりと抵抗なく切断された。半ばから先の部分が地面に転がる。
なんだ… 今のは…
十分に魔力を乗せていたはずだったがあっさりと切断された。もしや今のが回復出来なくなる攻撃だと言うのか? 特に魔力の増大とかいった予兆も無しに放ってくるのは脅威だ、、、
今のは何となく勘で躱せたが次は上手く躱せるだろうか?
手元にある残りの“月影”を細く伸ばして折られた先を回収しつつ考える。迂闊に攻められなくなった。
予想はしていたがどうにもやりづらいね。おまけに普通の生き物ではしてこないようなトリッキーな動きをしてくる。形態的に弱そうにも思えたがそうでもなかった。
ヤツも今の一撃を躱されて警戒したのか様子見をしているようだ。お互いに睨み合う時間が流れる。
、、、むっ
そんな時、都市の南側で何かが起きる。大勢の人々の魔力が乱れているのを感じる。微かに魔物の魔力も感じる。それはどんどん数を増してきているようだ。魔力の気配が濃くなっていく。微かに連続する爆発音のようなものが聞こえる。
どうやら目の前のコイツは時間稼ぎの役割も担っているらしい。
そういうことか、、、
―複合術式、
「何処の誰だか知らねぇが、丁重な持て成し、心底痛み入るねぇ 」
―操雷・操鉄術式、
「何かお礼をしてやらないとな 」
お返しを叩きつけてお暇させてもらうとしよう。
―電光発揮… 柔鉄剛靱…
アルゴルは何かを察知したのか弾かれたようにこちらへ飛びかかってくる。隠蔽しているはずなんだが魔力感知能力に優れているらしい。しかし…
おせぇよっ!
―雷合閃舞刃
電光を纏った帯状の刃がアルゴルを真下から上に向けて貫いていく。その瞬間、かなりの抵抗を感じたが圧を増大させて押し切ってやった。だが、手応えは軽い。致命傷ではないな。
なら…
そこから全身を絡め取るように巻き付かせる。そして、刃を引き絞るその瞬間に魔力を増大させてインパクトを強化する。
「ぬぅんっ! 」
―ザシュッ…
バラバラに切断してやった。ブロック状にまで切り刻んでやると破片が地面に落下して転がっていく。
「満足したか? 」
それがすぐに自壊しだしてドロドロになると地面に広がっていく。若干、煙が上がっているのが夜目にも捉えられる。何となく魔力崩壊現象にも似ているように感じる。
死んだと見なしていいだろう。気配は感じられなくなる。
ドロドロの中から見たことのある結晶体が顔を覗かせてきた。魔力をまったく感じさせないアルゴルの魔石だ。手に取って亜空間に仕舞うために魔力で包み込もうとする。
ん? 上手くいかないな、、、
魔石に吸収される感じがしてやりにくい。圧と量を増やして無理矢理包んでやり亜空間に引き込んでやる。
最後まで面倒な手合いだ・・・
魔石の解析をしたいところだが事態を収拾させるためにも早く都市に侵入した魔物を駆逐しなければならない。後回しだ。
北と南のどちらにするべきか、、、
北は警察の数が多そうだ。なんとなく強者も揃っている雰囲気がある。ジュジュも向かわせているから何とかなるだろう。
北に警察の主力が向かっている分、南の方は手薄になっているはず。あまり強い魔物はいないようだが、その分、数は圧倒的に多い。
いくなら南だな…
大多数の魔物をなるべく早く刈り尽くす必要がある。それも状況的に言って人間と魔物が入り乱れていることだろう。人間を避けて魔物だけに攻撃を集中させなければならない。
今までに経験したことがないミッションだが《《あれ》》を使うならば問題なく解決することが出来るだろう。
問題があるとすれば俺が保つかどうかだが…
方針を決めたなら即実行だ。周囲に人目がないことを確認してレインメーカーに換装する。
《換装: レインメーカー 》
頭の中に声が響く。ギヒトで使用する声質で音声が鳴るようにした。何故そうしたのかというとカッコいいからだ。テンションが上がる。
俺がいちいち口に出すとその分、周りを気にしないといけないと言うこともあるが…
次の瞬間には音もなく姿が変わる。もし人がいたなら暗闇の中に突然、白い全身鎧の騎士が現れたように見えただろう。
思いきり地面を蹴って空中に躍り出ると同時にバーニアを吹かして飛んでいく。こんな非常事態に夜空を気にしている人はいないようにも思うが、一応人目を引かないようにしないとな…
なるべく高度を上げてから南側へ進路を取る。水平移動に移行するとバーニアの出力を最大まで引き上げて飛行していく。魔力を極限まで抑えてロケット推進のみにすれば流れ星のように見えなくもない、、と思う、、、
この速度なら一分あれば到着出来る。しかし、ちょっと出遅れた感じもある。急がないとな…
アイツに引き留められた所為だ、、、
京都だったら「後はぶぶ漬けになりますけど… 」とか言って早く帰れって婉曲に言われるそうだけどな…
こちらから帰りたくなったときはなんて言うんだろう? 「ぶぶ漬け、まだですか? 」って聞くんだろうか?
そう言う話は聞いたことがないな、、、
そういったことを言う必要がないと仮定すると、招いた側が気を使ってこちらが帰りたそうなタイミングを見計らい、帰ってもいいですよと言う意味でぶぶ漬けを伝えてくると言うことなのかも知れない。
それだけこちらに気を使っていると言うことなのか?
そうだったならアイツも京都人を見習って欲しいな。俺に都合のいいときに勝手に死にやがれと思わなくもない・・・
そんな下らないことを高速思考しているとちょうど良い場所まで来る。着地に適したビルの屋上を直ぐさま探し出すと自由落下をバーニアで調整して素早く、それでいて静かに降り立つ。
さて、やるか、、、
覚悟を決めると特殊兵装を呼び出す。
【理力兵装呼出】:〔理力式自動攻撃機用翼型架〕
白い翼のような一対のウエポンラックがレインメーカーの背部に出現する。背中から伸びる軸状の保持器に菱形を伸ばしたような形状の小型攻撃機が無数に並んで設置されている。一つ一つが羽根の様に見えて全体として翼のように見える。
攻撃機の一つ一つには二つの小さな理力石が埋め込まれている。一つは敵に照準を合わせて攻撃用の可視光レーザーを放つためのもの。もう一つは攻撃機を飛行させることと本体に埋め込まれた理力石と通信を行うためのものだ。
攻撃機は左右二十機ずつの合計四十機ある。これらすべてを同時に縦横無尽に飛び回らせて戦うのがコンセプトだ。
理力式自動小型攻撃機…展開!
保持器から一斉に高速度で離れると宙空を舞うように飛んでいき人間と魔物を識別して照準を合わせる。
その情報はこちらに伝えられ俺の方でも人間を避けて魔物に照準を合わせているか確認出来る。攻撃まですべて自動で行うことも可能だが今回は戦況が入り組んでいる。相手の魔物も人間に似ているところがあるからチェックはしておいた方がいい。
すべての照準が定まると後は俺がゴーサインを出すだけだ。
作戦、、、開始




