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機鋼神エイジャックス ー石に転生して異世界に行った俺、わからないことだらけだが何とかやっていくー  作者: 井上 斐呂


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第233話 捜査官 x 大学

最初は二年程前のことだった。一人の女性が突如として行方不明になるという事件が起きた。当時は調べても何も発見出来ずに未解決事件として世間を騒がせることになった。


それが世間から忘れ去られようとした頃にまったく別の場所で同じような事件が起きる。今度は男性だった。最初の事件のように忽然と姿を消して何も手がかりを残さない。状況から一件目と同一の事件であると認定されたが迷宮入りしたのも同じだった。


そこから定期的に行方不明者が出ることになる。場所も不明者の年齢、性別もバラバラで痕跡を残さずに人が消えていく。警察も必死で捜索を行ったし下水道の中も調べてはいたが捜査が進展することはなかった。唯一わかったことは行方不明者はみな夜の時間帯にいなくなっているということだけだった。


おそらく路上を歩いているときに何者かに連れ去られたのではないかという推測がなされたがそれも定かでは無い。それでも、その推測を元にして夜間の外出はなるべく控えるように通達がなされた。


警察の発表では犯人がいるとしてそれは人間とも魔物とも判断がつかないというものだったが世間では謎の魔物の仕業であると畏れられていた。大手の新聞では憶測は控えられていたが、二流紙や週刊誌、ラジオなどの媒体では闇夜の空から突如として降り立ち人間を連れ去っていく魔物の仕業であるとまことしやかに報じていた。


事態を重く見た本国は帝国騎士団諜報部から人員を派遣することを決定した。そうしてオルバン公国に来たのがリエラ達である。派遣されたのは半年前のことだった。


表向きは警察の特務課を装っているが本質はもっと暴力的な性質を持つ。帝国もこの件に異質さを感じリエラ達の派遣を決めたがリエラ達もまた捜査に当たっていて人間の関与、それも組織的なものの影を感じている。大きなことが起きる前触れのようなものと捉えていた。


しかし、派遣されてからの半年、リエラ達を警戒したのかアッシェバーンで行方不明者は出なくなっていた。身を潜めて捜査をやり過ごそうとしているかのようだ。


そのこともリエラ達の警戒を呼び起こす原因となっている。時機的に情報が漏れていることが考えられた。だが、組織内に裏切り者がいるとは考えていない。単純に相手の諜報力が優れているのだろう。それ故により一層警戒感は強まる。


先日、流れの狩人が仕留めた魔物が大きな手がかりになるかも知れないと期待をしたのだがそれも成果には繋げられないでいる。改めて魔物が関係していることと下水道が主な舞台となっていることが確認され、再び調査方針が固まったと言うのに。


調査範囲を広げて都市外の農業施設も捜索してみたがめぼしい発見はなかった。所有者も洗って見たが書類上でおかしいところはない。人物を当たろうにも数が多くて絞り込めないし礼状無しに踏み込める部分は限られている。相手が同業者ならそう簡単に尻尾を掴ませないだろう。再び行き詰まりの様相を呈している。


頭をかきむしりたくなるような状況の中、調査から戻ってきた同僚のダンがリエラに話しかけてくる。


「そこまで根を詰めることもないだろう。結局なるようにしかならん 」


「最善を尽くすのは当然よ 」


リエラは外で任務に当たるときと内勤の時では口調が変化する癖があった。部下に接するときも厳しく冷静な口調に変わる。


「その最善がなんなのかわかったものじゃない。俺達の仕事は特にな。何もしないことが最善だって事もある。上からの指示ならやることはやるけどな 」


ダンはリエラと同じ班長の任を与えられている。階級は同じだがリエラより十年以上長く今の階級にいた。そのせいか今の状況を達観して見ていられるようだ。


リエラはそんなダンの言うことに一理あると感じ言い返すことはしない。この任務に就くまでたいして面識はなかったのだがこの半年間になんだかんだで信頼を築いてきている。


と言ってもリエラもダンもお互いの本名は知らない。名前はあくまで上層部から与えられた暗号名だ。仕事以外での付き合いもない。お互いの私生活に立ち入らないようにするのは自然と当たり前のことになっている。


「それはそうと、問い合わせてみたら狩猟ギルドから面白い情報が届いたぞ 」


「どんな? 」


「例の狩猟者の行方不明事件なんだが進展があったようだ。ギルドが流れの狩猟者に調査を依頼したところとんでもない魔物を狩り取ったそうだ 」


「魔物? 気になるわね… 」


「正確に言い表すのは難しいが人間みたいな猿の魔物だという。鎧を身につけて剣を握っていたらしい。唐辛子玉なんかの道具も使っていたんだと 」


「、、、俄には信じられないわね。誤情報じゃないの? 」


「そうだな、だが本当のことだ。これがギルドの正式な報告書だ 」


ダンはリエラに報告書を手渡しながら続ける。


「どの道具も人間が用意したものに違いないと言うことだ。その魔物が使いやすいように設計されたものだったらしい。人間が関わっていることに間違いはなさそうだ

 魔物は一匹だけじゃなくて群れを作ってもいるようだな。仕留めたのは一匹だけだがそいつよりも小さな個体がいくつもいたという。群れを守るためにそいつが足止めに現れたと言う感じの状況だったらしい 」


「群れを作っている… やっかいそうな魔物ね。その個体は群れの長だと思う? 」


「いいや、、群れの長なら優先的に守られるだろう。そいつは兵隊役なんだろう、多分 」


「そうね、、、おそらくもっと大きな群れを作っているはずだわ 」


リエラは手渡された報告書を読みながら会話をしている。魔物の詳細が描かれた絵の項にたどり着き容貌を確認すると気になる点が出てくる。


「これは、、、似ているわね 」


猿の魔物というダンの言葉にも引っかかっていたが詳細に描かれている絵を見て街に現れた魔物との類似性に注目がいく。


「ここに現れたヤツとな、、どうやら狩人の行方不明事件と繋がっているようだぜ 」


「人間の大々的な関与の疑いも合わせればもう少し踏み込んだ捜査ができそうね 」


「そうだな… だがこの事は相手もわかっているだろう。何か仕掛けてくるとして動きを早めてくるに違いない。残された時間はあまりないぞ 」


「警察へ警戒を厳重にするよう要請しましょう。それと騎士団にも伝えておく必要があるわね 」


「ああ、それは俺の方から伝えておこう 」


「よろしく、、、ねえ、この魔物を仕留めた狩人って黒髪で従魔を連れているのかしら? 」


リエラは報告書から顔を上げるとダンを見て問いかけた。それに対してダンは感心した表情を浮かべて答える。


「良くわかったな、レイゼルトから来た流れの狩人だ。名前はレイン、狩人名もそのままレインだ。八ツ星で実績も凄いぞ。たった一年たらずで零から八ツ星までのし上がっている。近々最高位に昇級するかもしれねぇって話だ。俺達二人がかりでも相手になるかわからねぇぞ 」


「、、、そう 」


少年のように熱く語るダンに対してリエラは興味なさそうに相槌を打った。ダンは強者に対して憧れを抱くたちであるが、リエラはあくまで自分が今、目の前の出来事に対して何が出来るかに焦点を当てる性分だ。だが、まったく関心がないわけでもないようだ。ダンから目線を逸らすとレインについて考える。


(邪魔になるような事にはならないかもしれないわね、、、むしろ協力関係を築くほうが得策かしら? ダンはあっさり信用しそうだけど何処まで信用出来るかは未知数、、、そこが問題ね )


考えを巡らせる同僚を見て話は終わったと判断したダンは踵を返すと自分の席に戻っていく。アッシェバーンの警察や騎士団へ渡す要請書を作成するためだ。その背中に後ろから声がかかる。


「ねぇ 」


「なんだ? 」


「ケセラセラって言葉に心当たりがないかしら」


~~~~~~~~~~~~~~~~


次の日は朝から警察署に行ってみる。ジュジュが市街地で仕留めたあの気味の悪い魔物を見ることができないかと思ったからだ。


警察署に到着すると受付に身分証を提示して用件を伝える。その際に俺達が件の魔物を仕留めたことをしっかりとアピールすることを欠かさない。


受付の人はとりあえず問い合わせをしてくれるようだ。奥の方に引っ込んでなにやらしてくれている。


それなりの時間を待っていると戻ってきて事情を説明してくれた。どうやらもう警察署にはないようでアッシェバーンにある中央大学へ検体として寄贈してあるという。


そこでどんな風に扱われているのか警察ではわからないが廃棄されているなんてことはないだろうとのこと。そちらに行ってみてくれという話だ。


その際にこの書類を見せれば無下にはされないというか断れないだろうと言うことで警察のお偉いさんか何かの署名入りの紹介状をもらった。ついでに大学の地図までだ。


なんか至れり尽くせりだな…


門前払いされる懸念もあったがここまでしてくれるとは思わなかった。俺達が仕留めた獲物だから何かしらの権利とか発生しているんだろうか? それとも八ツ星狩人としての権力なんだろうか? それならば昇級を目指して頑張ってみるのも有りな気がする。もう少しでいけそうな気がするんだよな、、、


地図に従って大学へ向かっていく。ビルが建ち並ぶエリアから急に視界が開ける場所に出る。公園のような緑地の向こうに荘厳な建物が姿を現した。


学院と異なって大学は教育機関であるという側面が強く、地球のように高等学校を卒業してから通う人間が多いらしい。確かに緑地には若い感じの人達が沢山いて授業の合間の余暇を思い思いに過ごしている。


友人と会話をしている者や本を読んでいる者、芝生に寝っ転がっている者など様々だ。自由な雰囲気がいい。俺も地球にいたならこういったところに通っていたんだろうか?


まあ、今の生活も気に入っている。不満はないんだがな…


受付に行くと結構なお年を召したご老人が案内をしてくれることにななった。


「あの大きな木が見えるでしょう? 文豪のサハロフが学生だったとき、良くあの木に背中を預けて寝ていたという逸話がありましてね… 」


「へぇ… そうなんですね。あのサハロフが、、、」


「はい、あのサハロフが、です 」


サハロフって誰だ? 知らんぞ。後で調べておくか…


いろいろと雑談を交わしながら回り道をして学内を紹介してもらい目的の研究室にゆっくりと向かっていく。


研究室の教授はオリバー先生と言うらしい。なんでも賢者の称号まで持つ偉い研究者なんだと。年齢は百五十歳を超えているが見た目はとても若々しく青年ぐらいに見えるから驚かないようにと忠告を受けた。


リーンやリオンと同じような立ち位置にいる人のようだな、、、


ほかにもいろいろ聞いてから目的の研究室の前にたどり着く。案内のおじいさんがノックをすると中から返事がして若い人が扉を開けてくれる。


髪の毛の茶色い青年だがこの人がオリバー教授なんだろうか? 魔力がそんなに大きくないから違うな。学生さんのようだ。


「お待ちしておりました。先生は中にいますのでお入りください 」


すでにこちらが来ることは連絡済みのようだ。学生がそう答えるとおじいさんはここまでのようで引いていく。


「それでは私はこれで。帰りはご自由に帰って頂いてかまいません 」


「わかりました。ありがとうございます 」


去って行くじいさんの背中を見ながら考える。もう既に連絡してあるのに回り道をしたってことは教授が部屋に戻ってくるか準備を整えるまでの時間を開けるためだったってことかな?


単に大学の自慢をしたかっただけではないようだ。


やるな…


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