第231話 X 人型 x 調査
三十分ぐらい追跡していたら、相手は諦めたのか動きを止めた。俺達をまく気でいたようであれこれルートを変えていたが根負けしたみたいだな。もう空はほんのりと明るくなってきている。このままだと他の狩人がやってくると危惧しているのかも知れない。やはり人間の行動を熟知している。
こちらを迎え撃つ気のようで俺達が着いたときには正面を向いて武器を構えている。
速度を落として警戒をしながらゆっくりと接近していくが今度は本気で戦う気があるのか疑ってかかる。
また、逃げ出す気じゃないよな、、、
周囲を探るが伏兵はいないようだ。罠が仕掛けてある場所に誘い込まれた可能性も考えるが特にそれらしいものはない。
一見すると仲間のいる住処に案内するぐらいならここで果てんとする覚悟にも捉えられる。もしそうならば大した物だが…
いまいち信用出来ないんだよな…
またスカされるんじゃないかと危惧している。そうならないためにもジュジュとしっかり連携を取ることにする。
《回り込んで… 》
俺の指示に従ってジュジュが大回りして相手の後ろに回り込むと挟み撃ちをする形を取る。その間、ヤツは妨害をしてくることなく構えを維持してされるがままになっていた。これで退路は塞ぐことができたが…
何か狙いがあるのか?
しっかりとやる気があるのはいいがその分警戒をしなくてはいけない。相手に疑念を抱かせるのが上手い。何かあると思わせて実際何か仕掛けてくるんだろうな。
それに対してこちらは正攻法でいくと決める。戦力はこちらが圧倒的に上だ。力でねじ伏せよう。
俺は“絶雷”を抜くとタイミングを合わせてジュジュと同時に仕掛けていく。
前後から迫る俺達に対して相手は俺の方だけを見ている。このままいけばジュジュの攻撃で仕留めることが出来るがそこまで甘い相手ではないだろう。
果たして相手は前後同時に対処を仕掛けてきた。
口からぷっと丸い玉を俺に向かって吐き出して来るとその玉が弾けて周囲に煙が広がる。後方に対しては地面がせり上がって土壁が形成される。視界を塞がれた形になった。
一瞬相手を見失うと突如として煙の中から相手の剣が襲いかかってきた。それを刀で弾くと剣は地面に転がる。
また、逃げる気か…
―操空術式、旋空界
ヤツの狙いを見定めると空術で煙を散らしてやる。視界が開けると自分で作り出した土壁の上に飛び乗っているところだった。そこから更に跳んで逃げるつもりらしい。
だが、土壁に乗った瞬間、両足のふくらはぎがズタズタに切り裂かれて血しぶきが舞う。ジュジュの使う空術が炸裂した結果だ。結構殺意が高い。
落下してくるタイミングに合わせて刀を振り抜くと首を切断して頭と胴を分けてやる。地面と衝突すると反動で頭だけ転がっていき数メートル移動してから止まる。
その顔は特になにも感じさせない無表情のままだった。直前にジュジュの攻撃で足を引き裂かれているのだからもうちょっと苦痛に歪むとかありそうなものなんだけどな。人間に近いとか猿の魔物だからと言う以前に魔物はあまり表情にでないものなのかも知れない。いや、この魔物が特殊なだけかな?
ジュジュは首を失った体の上に乗ってドヤッて感じの、どこか晴れやかな表情を浮かべている。よほど唐辛子が不快だったのだろう。あれからそれなりに時間は経っているが怒りは残っていたようだ。
気が済むまでそうさせた後、遺体を調べていく。身につけてあるポシェットを探ってみると閃光玉とおぼしきものがあった。やはりまだ取れる手を残していたらしい。
これを使って目くらましをしてから土術で地中に隠れるとかするつもりだったのだろうか? 今となってはわからないがこれまでのことを考えると上手い具合に使ってくるはずだ。
今回は一匹だけだったが他の個体と連携を取られたらもっと面倒なことになっていた。強めの個体がこいつだけとも限らないしな、、、何匹もいて囲まれたら無傷では済まない。群れの大きさによってはこいつより強い個体がいるかも知れないし決して侮ってはいけない相手だ。
裏に人間がいる可能性も考えなくちゃならないし気が重い…
またリカルドみたいな人間と戦う羽目になるのか? 擬人が使えればいいんだが今度はこのまま戦うことになりそうだ。ちょうど良く換装出来そうなタイミングが来るとは思えないしな。
いや、まてよ、、、あの警察の特殊部隊に任せれば解決しそうな気がする。だいぶ強そうだったし。普通の警官も弱いとは限らないしな。今回はサポート役に徹することにしようか、、、
調べ終わったので遺体を包んでギルドへ運んでいく。町へ着く頃には空はだいぶ明るくなっている。
町の門は夜間には閉鎖されるがもう開いていた。門から入りギルドの解体場に運び入れると梱包を解いて解体士達に見せつけてやると一瞬の内に場が静まりかえった。
なんもいえねぇって感じだな。こういうのは久しぶりな気がする
「やっぱり珍しいか 」
「珍しいってもんじゃないですよっ! なんなんですか! これはっ!? 」
「魔物だが… まあ、変だよな 」
武器に防具に狩猟道具と一式揃っている。毛深いだけの狩人って言っても通用しそう。生きているうちは魔力波で何となくわかる部分もあるだろうが死んだ今では見た目だけしか判断材料がない。
「こんな魔物は見たことないですよ 」
「あっ! こいつ、、、あれに似てないか? 」
解体士の一人が何かに気付いたようで声を上げる。なんだろうか? 気になるね。
「ああっ、そうですね。警察署で検査した魔物に似てますね。全体的な骨格とかではありますが、、、」
警察… あれのことかな?
「それはこのぐらいの大きさでもっと顔が爬虫類みたいに長いヤツじゃないか? 手足が鳥っぽい感じになっている… 」
「そうです! 知っているんですか? 」
「知っているも何もそいつを発見して仕留めたのがこのジュジュだからな 」
「えぇ~、そうなんですか!? 」
フンスと鼻を鳴らして胸を張るジュジュに驚きの声を上げる解体士達、、、いい感じだな。主人として鼻が高いよ。
それはそうとして世間は結構狭いものだな。こんな風に偶然関係者同士が出会うなんて、、、必然と言えば必然か
しばらく解体士達とこいつについて話をしていると代表のラーゲがやってくる。やはりこいつを見たら口をあんぐりと開けて驚愕していたがそれも一時のこと。
「話があるんだが他で話せるか? 」
「はっ、はい、、かまいません。この間の場所に行きましょう 」
冷静になったラーゲとじっくり話をするために個室に移動して込み入った話をしていく。
最初は俺の方からヤツを仕留めるに至った経緯をかいつまんで話してその後にラーゲからの質問に答える。それが終わるとこちらから本題を話していく。
「ラーゲはアッシェバーンの市街地に現れた魔物のことは知っているか? 」
「はい、あまり詳しくは聞いていませんがギルドも関わっていることなので 」
「俺はこの魔物と関連があると思っている 」
「、、、そうでしょうね 」
そう答えるラーゲの表情には苦い物が混じっているように思える。認めたくないような気持ちがあるのだろう。俺の言っていることが本当だったら相当面倒なことが起きると予想されるからな、、、それこそ狩人の行方不明事件よりももっと大きなことだ。
「ギルドからの調査依頼はこれで完了と言うことでいいだろうか? 」
「と、いいますと? 」
「俺は俺でこの件を調査してみようかと思っている。これから都市の方で情報を漁ってみるつもりだ 」
「そうですか、、、確かにその方がいいかもしれません 」
ラーゲは歯切れが悪そうに応える。表情もちょっと踏ん切りがつかないと言った迷いをにじませた表情だ。
「ここの代表としましてはもう少し調査をして頂きたかったのですが、、、まだ、残党と言いますか、、残っている魔物がいることですし 」
まあ、ラーゲの心配ももっともなことだな、、、少し安心させてやるとするか
「俺の考えではここではもう事件らしい事件は起きないと思っている 」
「そうなのですか? 」
「ああ、詳しいことは後で報告書にまとめるがあいつらは人間に極力見つからないように活動していた。行方不明になった狩人はたまたまヤツらと遭遇してしまったという可能性が高い
もし意図的に狙ってやっていたとしても秘密裏に行っていたもので、ここ最近は起きていないことを考えるとその必要がなくなったからだと考えている。
俺達に発見されて少なくない損害を受けたことを考えるとここでの活動はやめるか、やめないまでも控えておくことになるだろう 」
「ふむ、、、、それは、、確かに 」
腕を組んで顎に手を当てて深く考えこんでいるようだ。俺の言うことに納得までは出来ないが一理あると言った感じかな? これ以上の納得は無理かも知れないが諦めてもらおう。
「アイツの装備は魔物が作ったようには見えなかった。狩人から奪ったものとも考えづらい。一部はそうかも知れないが、、、裏に人間がいるかもしれないからそこを警戒しておきたい。ここよりもアッシェバーンで何かが起きる可能性が高いと判断した 」
「なるほど、そうですか、、、確かにそうですね。私もそう思います。納得… と言うわけではありませんが引き留める理由はありませんね。レインさんの意思で行動してください。
調査はこれで完了です。ありがとうございました。後はこちらで何とかやってみます。みなで協力し合えば大丈夫でしょう。騎士団とも協力できますし 」
「報告書は直ぐに書き上げて提出する。対処するときの参考にしてくれ 」
「よろしくお願いします 」
さて、部屋で書くことにしようか…
部屋から出て割り当てられた居室に戻ろうとするとラーゲから質問が投げかけられる。
「レインさん、この件に関わっている狩人がいると思いますか? 」
「、、、いないだろうな… たいして益があるとも思えない 」
少し考えてそう告げた。安心させるためと言うよりそう思ったからだ。狩人の中に協力者を紛れ込ませる必要性はこの件では薄い気がする。
「そうですか、、、」
ラーゲはほっとしたような表情を浮かべてそう呟いた。今までもけっこう大変だったと思うがこれからが本当に大変になることだろう。事態が動いてしまったからな・・・
だが、何とか出来るはずだ。こちらの人は目の前にある現実への対応能力に優れている。狩人は特に、な。
一時間ほどで報告書をまとめると提出してシェリンオルテから都市方面へと引き返していく。直接アッシェバーンに戻ることはしない。途中で川に向かう道に入る。
北の魔境から川が流れていてそれが南下してアッシェバーンの東側を通り半島の付け根の辺りで海に流れ込んでいる。結構な大きさの河川だ。日本でなら一級河川に登録されていることだろう。周辺にある農場に水を供給している。
上流側に浄水場が設置されていてそこから上水道を通り都市に向けて綺麗な水が供給されている。都市で発生した汚水は下水道を通って集められ下流側に設置されている下水処理場に向かいそこで浄化されて再び河川に戻される。
下水処理の過程で魔術によりリンや窒素、硫黄などの物質が回収され主に肥料として再利用されるがそれは今はいい。
都市で遭遇した魔物はマンホールから出現した。つまり、下水道からだ。
魔境で遭遇した類人猿みたいな魔物達は今思えば河川の支流に向けて移動していたように思う。川によって削られて出来た谷なら死角になるような場所もあるしアイツらが人に気付かれずに潜めたり移動出来たりしそうだ。
川と都市も下水道で繋がっている関係ではあるので関連性はありそうだ。下水処理場によって下水道は途中で分断されている可能性もあるが都市に大雨が降り注いで許容量を超えた場合に備えて直接河川に流すような経路を設置しているはずだ。そこを突けば川から都市に侵入することが出来る気がする。
現状の手がかりだと何となくそこが怪しいぐらいしかわからないが、兎に角現地を調べてみようと思いトライクを走らせる。
下水処理場に到着すると適当に空いている場所を探して駐車する。そこからまず河川に繋がる巨大な下水管を探す。
この辺りかな…
目星を付けると土手を越えて河川敷に降りる。探しながら移動していくと程なくしてそれらしいものを発見することが出来た。
多分これだ…
半分ぐらい水に浸かっているが直径は大きく大きめの魔物でも通ることは出来そうだ。ちゃんと浄化処理されているから臭うなんて事はないがここを通っていく気にはならない。バレたら俺が捕まるだろうしな、、、
そこから再び土手を上がって下水処理場周辺の農地の方に来る。それから、土術で地中深くに魔力を通して下水管の位置を探る。探し当てて地上からどのように通っているか調べようかと考えたのだ。




