第227話 依頼 x 少年
狩人たちの間で不信感が渦巻いている。
そんな状況だから特に関わりのない俺に事件の調査と解決を依頼したいのだという。
俺が信用できるのかという問題もありそうだがそこら辺は経歴を照会してこの件に関わりがないという事を確認してあるそうだ。抜かりはないらしい。
八ツ星狩人であることも信頼する根拠であると言う。人格面でも実力の面でも星が多いと言うことはそれだけ有利に働くと言うことか、、、
そこまで言われてはこちらも引けない感じがあるな。それに昨日の夜、都市内に魔物が出現したことも気になる。二つの出来事になんとなく関連性がありそうな気がして気持ち悪さを感じる。
何か水面下で大きなことが起こっているような気がする、、、
放っておくのはまずいという予感をひしひしと感じている。
何もせずにここを去ったとしても多分ここにいる人達で解決できる問題ではあるんだろう。
昨日会った警察の特殊部隊の人達とか相当に優秀そうだった。狩人達も本格的にことが動き出せば団結して対処するようになるんだろう。
だが、俺が動いた方がスムーズに解決出来る。そのぐらいの自負はある。確実に犠牲を減らすことは出来るはずだ。
「その依頼、引き受けよう 」
「本当ですか!? ありがとうございます! 」
ブラントは心底ほっとしたような笑みを浮かべてこちらに握手を求めてくる。俺もそれに応えて手を取るとがっしりと握手を交わした。
なかなかいい笑顔だ、、、
この一年結構な悩みの種だったんだろう。すぐに解決するとは思っていないだろうが一歩前進したことに安堵を覚えたって感じかな? 組織のトップとしての苦労がその顔から偲ばれる。活動はこれからだが受けて良かったとも思う。
その後、俺とブラントは今後の活動について詳細な遣り取りをしてそれが終わるとギルドを後にする。
時刻はすっかり昼になっていた。これではレストランとか混んでいるんじゃないだろうか? ジュジュと一緒だと選択肢が狭まるから早めに動きたかったが仕方がない。
とりあえず大通りでオープンカフェを探してそこがダメだったらテイクアウトで何かを購入してホテルで食べるとしよう。
そう考えて大通りを目指して歩いていく。アッシェバーンを南北に貫く最大の道路で首都である南のオルトバーンに通じる道だ。祭りなんかのイベントがあるときはそこを一部封鎖して行うらしい。名をエランテス通りという。エランテスというのはこの街を作るときに活躍した人物の名前らしい。
そのエランテス通りについてみると目の前には壮観な景色が広がっていた。中央に片側二車線の広い車道が通っていてその間に意匠に凝った中央分離帯が設置されている。その両側を幅の広い歩道が挟み、さらに外側には壁のように並び立つビル群が見える。
ビルの高さは五十メートルぐらいだろうか。日本と比べても遜色ないような発展具合を感じる。道路には電気で動いているであろう信号が設置されていて、その指示に従って多数の車が行き来している。
これが帝国の力か…
レイゼルトもトリオスも大都市はかなり発展しているように感じたがここと比較してしまうとまだまだのように感じてしまう。ここですら帝国の飛び地、それも一番奥にあたる場所だ。
本国ならどれほどのものなんだろう?
オープンカフェを探して広い通りをキョロキョロと見回しながら歩いていく。周りから見ると田舎者に見えないだろうか? 狩り着を着ていたら完全に場違いな感じになっていただろうがむしろ服を合わせた分、余計に行動が目立ってしまうかも知れないな、、、まあ、気にしたところでどうしようもない。
しばらく歩いていると少ないながらも犬を連れて歩いている人がいることに気付く。連れている犬は従魔ではないようだ。首輪をしているが魔物使いギルドの紋章はついていない。リードをつけていることも違和感を感じさせる。従魔であればリードは不要なはずだ。
品種改良で生まれたペットとして飼える犬なんだろう。魔力の感じからいって下級下位から中位ぐらいだな、、、それでも普通の人間が扱うには少々手が余りそうなんだが、、、よほど人に慣れやすい気質をしているらしい。
見かけることは少ないから存在自体が稀少であるのか? 飼うに当たって一定以上のハードルが設けられているのかも知れないが帝国ではペット文化がそれなりに浸透していると言うことか、、、
しばらく歩いているとオープンテラスのカフェを何軒か見つけるがどこも満席だった。やはり今は混み合う時間のようだ。さらに歩いて次の店を見つけるとそこには一席だけ密度が低い場所があった。
四人掛けに一人で座っている少年がいる。さらさらの金髪に血色のいい白い肌。長い金色のまつげに縁取られた瞳はとても大きく、目の覚めるような青色をしている。まるで人形の様に見える美しい少年だった。
少年か少女かぱっと見では分からなかったが骨格から言ってかろうじて判断出来た。外見年齢は小学校から中学校の間ぐらいのように思える。
そんな人物がこんな時間に独りでカフェにいることに違和感を覚える。学校はどうしたのかとか保護者はどうしたのかとか疑問が浮かんでくるがよくよく見てみるとこの少年、抑えてはいるがかなりの魔力量を有している。
リーンやリオンと似たような感じなのかも知れない。見た目通りの年齢ではなさそうだ。まあ、便宜上心の中では少年と呼ぶことにしよう。
少年は店内の視線を集めている。遠慮がちではあるがその美貌を目にしようとチラッチラッと一瞬の視線を投げかけている。女性だけでなく男性もだ。男女関係なく虜にしている。こちらの基準でも少年の顔立ちは突出して良いようだ。
みんな相席を遠慮しているから一人で座っているのだろう。俺も遠慮すべきかと思ったがここを逃すと次は無いような気もしている。
相席を頼むとしよう・・・
少年に接近して話しかけてみる。
「すまないが相席を頼めるだろうか? 従魔も一緒なのだが、、、」
俺に話しかけられて顔を上げると俺とジュジュを交互に見た後、輝くような笑顔で応える。
「ええ、いいですよ 」
「そうか、ありがとう 」
快諾した様に見えた少年だったが俺は嫌そうな気配を浮かべたことを見逃さなかった。もっともそれは一瞬のことで何を思ったのか次の瞬間にはこちらに興味が出たように感じられたのだが、、、
なにが嫌だったんだろうな? ひょっとすると魔物が嫌だったのか? ジュジュを見てのことだったらなんか悲しいな… 撫でたら考えが変わることもあるが気軽に勧められない、、、
いっそのこと断ってくれれば良かった。こちらから聞いて相手が承諾したものを再度こちらから断るのは意味が分からんしこのまま相席するしかないんだけどな、、、
あんまり気にすることじゃないか… いいと言ってるんだから
俺はジュジュをテーブルに残してカウンターにいくと注文をする。この店はカウンターで受け取って自分でテーブルまで運んでいくスタイルのようで出来上がりをカウンターで待つ。
その間、少年とジュジュの様子が気になったのでここから確認して見る。
、、、特に何もないな…
お互いに興味が無いようで目線を合わせるようなこともない。少年がジュジュを撫でて目覚めることに期待をしたのだがそんなこともなさそうだ。甘いものが好きなんだろう。
にこやかにソフトクリームのようなものをスプーンで掬って口に運びつつ、時々ティーカップに注がれた飲み物に口をつける。たしか紅茶だったな。茶色く透明な液体で芳醇な香りがしている。こちらにも地球とほとんど変わらない紅茶があるんだよな…
地球と違うところがあるとすればティーカップにカップソーサーがついていないと言うところだな。100℃近い紅茶を冷ますため、一旦皿に注いで冷ましてから飲んでいたというのが由来だそうだがこちらでは冷ます必要性が薄いから最初からないみたいだ。
そんなことを考えていたら注文した料理が完成したようでトレーに並べられた状態で差し出される。それを受け取って席に戻ると少年と向かい合う形で食べ始める。
注文したものは昨日も食べたハンバーガーだ。昨日と違うのはファーストフードのハンバーガーといった感じでナイフとフォークで食べるものではなく耐油紙に包まれていて丸ごと手で掴んでかぶりつく方式であると言うところだ。
食べながらチラッと少年をうかがうが特にこちらにかまうことなくソフトクリームを食べている。実においしそうな表情をしている。
邪魔をするのも悪いか…
何か話しかけないと悪いような気もしていたが取り越し苦労だったようだ。文化的にどうするのが正解なのかわからないが少なくとも少年は気にしていないようだし俺も気にしないことにする。
周囲の様子をうかがってみると相席をしているのか分からないがしゃべっていたりいなかったりとまちまちだ。帝国文化については分からないがとりあえずこういった店では自分の好きにしていいような気がする。
相変わらず少年は周囲の視線を集めているようだがそのせいか俺とジュジュにも注目が集まっているのを感じる。そのなかに妙な視線が混じっているような気がするのだが、俺はこの視線をどこかで感じたことがあるように思う。
何処で感じたんだったか・・・
思い出そうとしていると食事を終えた少年が席を立つ。トレーをカウンターに運んで片付けるとさっさと店を離れてどこかに行ってしまった。
最後に相席の礼ぐらい言うべきだったか?
少年の方は求めていなかった気もするがこちらはなんとなしにもやもやしてしまう。こういう事を思ってしまうから相席はあんまり好きじゃないんだよな… などと感じつつ昔の自分だったらそもそも最初から相席はしなかったなぁと思う。自分のちょっとした変化を実感してなんとなく面白みを感じていた。
少年がいなくなったことで妙な視線は消えたのだがこちらへの興味の視線は消えるどころか少年に割り振られていた分がこちらに向いた感じだ。
主な原因はジュジュだろう。これほど強力な従魔は珍しいだろうしもふもふだからな…
だとしても今までも興味から見られることはあったがこれほど注目を集めることはなかったかも知れない。あの少年の効果かな? まあ、気にしても仕方がない。
俺達も食事が終わるとトレーを片付けて店を後にしてホテルに戻っていった。
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(別視点)
オープンカフェでの昼食を終えたエストルはアッシェバーンの街を適当に散歩していた。
散歩しながらカフェでのひとときについて思い返す。
(なかなかに楽しい時間だったね )
その幼い外見通りに甘いものを好む性質をしている。いくらでも食べられる体構造から遠慮することなく大量に摂取することが常であった。
しかし、今回初めて食したソフトクリームの味に感銘を受け、味わって食べることに専念していたのだ。途中までは…
(あの男… なかなかに面白い… )
邪魔をされないように誘導していたにも関わらずまったく効いていない様子だった。もともと多少の力を持った人物であれば効果がないようなものであったが、相手が秘めている力の大きさには目を見張るものがある。
少なくともアッシェバーンのような平和な大都市において容易に遭遇するような存在ではないはずだ。
(偶然だろうか…? それとも…? なんにせよ計画の邪魔になりそうな気がするね )
エストルは街を行き交う人々を眺めるのが好きだった。笑顔や穏やかな表情、何かを考えているような顔、思い詰めたような表情、それらを観察することが好きだった。
人間が好きであるという意味ではない。
平和な日常の中にいる人々が突如として殺戮の中に放り込まれたとき、どのように表情を変えて死んでいくのかを想像することが大好きだった。それは甘いものを食べることよりも。日常的に戦いに身を置いて死を覚悟した者が見せる表情とは一線を画すえもいわれぬ変化が。
だからこそオープンカフェで甘味を堪能しながら人々を直接眺めることが出来るひとときはエストルにとって特別なものであった。
それが一瞬であっても邪魔をされることになった。あの従魔を連れた狩人と思われる男に対して、いつもであれば地獄の苦しみを与えて殺さなければ晴れないほどの憎悪を抱くところであった。しかし、不思議とそのような感情はなりを潜めていることに自分のことながら理解出来ないでいる。
それが不快かと思えばそうでもないようだ。何かを期待してワクワクしているような自分がいることを自覚し始めている。
(あの男と戦ってみたいと感じているのかな? 僕は… )
それはそれで面白そうではある。邪魔になるようなら始末をするだけだしあの男が何処までやれるのか直接確認するのも面白そうだと言う気がしている。
どれほどの強さかわからないが感じられた力の片鱗から推測するに自分に届くことはないと考える。計画の邪魔になるとしても邪魔なだけで大勢には影響がない。消したいときに消すぐらいは出来るだろう。
そう高をくくる。
(問題はどの程度僕を楽しませてくれるかだね… )
エストルは自分の強さを疑っていない。同族を除いてこの世に存在するもののすべては自分より格の低い存在であると固く信じている。あの男も例外にはならない。
(ああ、そうだ… 進捗具合を確認しておこうかな。久しぶりにあいつに会っておこう。本番の前に念には念を入れておかないと… 祭りは準備をしているときが一番楽しいって言うし… )
計画が実行されこの街が阿鼻叫喚に包まれる光景を想像して胸を躍らせると足早に歩いていく。
その姿は狭い路地の闇に消えていった。




