第224話 次の国へ
ホテルに帰るとジュジュと遊ぶために海岸に来た。留守番させられて少々不機嫌になっていたので発散させなければならない。
あれからルシウスに全部押しつ…任せて、俺は森の中に消えると人間に戻ってから来た道をそのまま引き返した。
途中誰にも見られていないはずだ。ギヒトと俺を繋げるものは何もない。
計画通り・・・・・・
と、言うほどでもないな、、、特にリカルドの両足を持っていったやつが気になる。まだどこかに潜んでいるんじゃないかという感覚がつきまとう。
人間に戻るときは周辺を入念に確認した。その後もさらに全力で探りを入れて誰も居ないという確信を得る。そこからホテルに戻るまでの道中もつけられていないかしっかり確認した。抜かりはないはず。お陰で結構時間がかかってしまった。
リカルドにだいぶ苦戦を強いられたのも予想外だったな。お陰で擬人はぼろぼろだ。痛みはないしすぐに直せる程度の損傷に抑えられてはいたが手足を切断されるとか体を抉られるとかしたらバレてしまう。ちょっと怪しまれていた感じもあったな。
あいつの使う魔術がもっと突破力のある魔術だったらどうなっていたか分からない。もっと強化が必要だ。
人工魔石をもっと強力なものにするしかないな。沢山増やして繋げても同期させるのは難しい。魔力の感じが人間から遠ざかってしまう。補助的な使い方しか出来ない。
鎧をもっと強化していくのもありだな。フルプレートにすることを考える。とても目立ってしまうことになるがそこは今とそこまで変わらないだろう。顔を覆っている時点で不審ではある。
外側を完全に外殻で覆ってしまえば壊されない限り中身がはみ出す可能性を抑えられるからな。コアの波動を隠せるし魔力も読みづらくなるから隠密行動するのにはちょうど良い。
生理機能はないから快適性を考慮する必要もない。土の体を包帯を巻き付けて覆い、その上にボディスーツのようなチェインメイルを着せた後フルプレートで覆って修復と改良が終わる。
これ以降、使う機会はあまりないかも知れないが予想してなかった出来事に直面することはこちらに来てから何度も経験している。作っておいて損はない。
他に街での買い出しなんかを終えるといよいよ明日はサーブルを離れて次の国に行くことになる。
アニスにお別れの挨拶をしなきゃな……
そう考えるとちょっとさびしくなる。
ああ、そうそう。セリアにも手紙を書いておこう。サーブルで起こった出来事をしたためていくがリカルドが関係する事件については伏せておいた。心配をさせるような気がしたからだ。
ホテルのカウンターに手紙を預けるともうやることもないので寝る。そして、次の日は部屋でゆっくり朝食を取るとチェックアウトしてホテルを出発する。目指す場所は漁港だ。
朝一の漁を終えて帰ってきているはず。港の周辺にアニスはいるだろう。まあ、グラスや他の船員もいるだろうけど。
トライクを駐めて歩いて探し回る。探索術を駆使して魔力を探っていくと発見できた。漁港からの道を歩いているようだな。
接近していくとこちらに気付いたようで向こうからもこっちへ歩いてくる。道ばたでバッタリと会うような感じで対面する。
今日は海狩りではなく普通の漁だったらしくズボンにシャツといった普通の動きやすい恰好をしている。髪型はヘアバンドで後ろにまとめたスタイルだ。
、、、なんだか話しかけにくいな
ここを去ることを伝えなければならないのだがどうにも口から出てこない。逆にアニスの方から声をかけられる。
「どうしたんだ、レイン? 何か話でもあるのか? 」
「ああ、そうだな、、、今からここを立つことになったんでな。出立前の挨拶だ 」
ここまで来たら腹を決めるしかない。サクッと済ませたいところだ。
「そうか、、、まあ、わかってたよ・・・
一緒に漁が出来て楽しかった。アンタと出会えたこと、、、光栄に思うよ。世の中にこんなに凄いやつがいるなんて思ってなかった。それがわかっただけでも価値があるってもんだ 」
「そう言って貰えてなによりだ。俺もアニスと一緒に漁が出来て良かった。難しい局面もあったが楽しかったよ。いつかまた一緒に漁に出られるといいな、、、次はもっと大物を狙うぞ 」
「ははっ、あれよりももっとか! それはいいな! 船も銛も大きくしなくちゃな 」
「ああ、そうだな。俺もジュジュもさらに強くなるとしよう 」
「レインがもっとか、、、想像出来ないね 」
「アニスも次に会うときまでにもっと強くなっていてくれよ 」
「、、、そうだね。あたしも兄貴も… みんな今より強くならないと。うかうかしていられないな 」
アニスは俺の言葉に火がついたようだ。力強く魔力がにじみ出してきている。相当キツい訓練になりそう… 船員達の苦しむ顔が浮かんでくる。まあ、俺が気にすることじゃないんだけどな。
「その意気だ。お互いにがんばろう 」
「ああ、期待していてくれよ 」
自然と握手を交わして別れる。戦う者同士、湿っぽい別れは似合わないな。すっきり爽やかに旅立つとしよう。
トライクに戻って発進させると高速道路の入り口に向かっていく。西のレイゼルト王国側には通っていないが東のオルバン公国側には山をトンネルで貫いて通している。この道路はそのままずっと東に延びて帝国まで繋がっている。
高速道路をしばらく飛ばしていると北オルバン―南トリオス大トンネルが見えてきた。サーブルが遠ざかっていることが今更ながらに実感される。急に寂寥感が襲ってきた。
きっちりと別れの挨拶を済ませたはずだが後ろ髪を引かれている。もう二度と会えないって訳でもないんだけどな・・・
ヴィルフォートの時はあまり感じなかったのに何故だろう?
まあ、いい・・・ 旅を続けていくならこんなことは当たり前のように起きることなんだろう。折り合いをつけないとな・・・
オルバン公国は小さめの国だしすぐに抜けて次のエルテシア王国に行くとしようか。トリオスでは思いのほか長居してしまった。ゆるい旅路とは言え無限に時間をかけていいわけじゃない。
流石に行く先々でトラブルが起こっているなんてことはないだろう、、、
俺はライトを点灯させてトンネルの闇の中に入っていった。
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(別視点)
―ビュォォォォォ………
―ザザザザザ………
森の中を金色の突風が吹き抜けていく。木々の間を縫うように移動するそれは真っ直ぐに東を目指しているようだ。
魔物達はその接近を感じると道を空けるように逃げていく。
今、運悪く子鹿が風の通り道に出てしまった。まだ未熟なようで風の接近に気がついていない。
―パゥッ……
なんの前触れもなく子鹿は胴の部分で真っ二つに切断されて左右に分かれて地面に転がった。おそらく即死であろう。
その間を風は通り抜けていく。子鹿のことを振り返りもしない。殺した瞬間にはもう殺したことを忘れている。いや、殺したという認識すらなかったのかも知れない。
その冷酷な風の名はエストルという。
金髪碧眼の少年の姿をしている。美しく穏やかな外見とは裏腹に内側にはどす黒い狂気をはらんでいる怪物だ。
顔には常に柔和な笑みを浮かべている。初めて見る者のほとんどが釣られて微笑みたくなるような優しげな印象を受けるだろう。しかし、その本質を知るものからは他者を見下す嘲笑として捉えられる。
速度を落とすことなく魔境を走り続ける。向かう先には大きな都市がある。
「そろそろ仕込んでおいた種の収穫時かな? オルバンで遊んだ後はエルテシアか…… 面白い見世物になりそうだ。沢山の人に見てもらいたいな。人に喜んで欲しいからね。僕は優しいなぁ 」
心にもないことを独り呟く。そして、ニッと邪悪な笑みを形作るとさらに呟いた。
「出来るだけ参加者は多い方がいいね。出来るだけ…… 」




