第221話 ギヒト X リカルド②
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腹に突き刺さった針を炭素術で体内に取り込む。そうしながら後ろに吹き飛んでいくリカルドを追いかけていく。
頭上でユグニールを回転させ遠心力を乗せて叩きつけてやる。地面にバウンドしたところをさらに追いかけて棒を打ち付ける。その反動を利用して今度は反対側を打ち付けてカチ上げる。
そこから素早く滅多打ちにしていく。リカルドは体勢を立て直そうとしてくるが足を掬ったり肩を突いたりして邪魔をしつつお返しとばかりに一方的に攻撃していく。
、、、おっと
無理な体勢から放たれたリカルドの蹴りをユグニールで円を描くように絡め取って逸らしてやると相手は再び大きく体勢を崩す。そこにつけ込むように怒濤のラッシュを叩き込んでいく。
あまり手応えがないな、、、
一方的に攻撃を加えている俺だが棒から手に伝わる感触はいまいち魔力が浸透していってないことを伝えてくる。
リカルドが体に覆わせている炭素の装甲が防いでいると言うこともあるだろう。俺が使っている炭素術と反発しあっていると言うこともあるかも知れない。
だが、一番の原因は俺の出力不足だな。腕力も足りていなければ魔力圧も足りていない。
魔術を使用すれば何とかなりそうだが下手に使用すると殺していまいかねない。そのため、どうしてもためらいが出る。
俺は一旦、リカルドを蹴り飛ばして距離を開けると後ろに下がってルシウスのところに戻る。あまり離れすぎるといざって時に守れなくなるからな。
視線の先ではリカルドの起き上がる姿が見える。こちらを見る表情にはなんの感情も読み取れない。
どう出てくるつもりなんだろうな、、、?
こちらの弱点はもうバレただろう。そこにつけ込んでくるのは間違いなさそうだが、、、
さて、こっちはどうするかな?
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(意外に攻撃が軽い… 凄味がない… )
一方的に攻撃を受けていたが防ぎきったことで確信を得ていた。それは相手がこちらを殺すつもりがないということだった。
同業者だと思っていたが相手は素人でしかない。そう結論づけると付け入る隙は無限にあるように感じられる。
そして、もう一つ発見があった。体格から考えると意外なことだが腕力があまり強くない。最初は近接戦闘がもっとも得意とするところだと考えていたがそれは見込み違いだったようだ。
武器に長物を選んだのはそれが理由だろう。ある程度距離を開けて戦いたいのだ。魔術を使用してこないのはこちらの命を気遣ってのことだろう。
となると肉薄しての戦闘が最適解だ。格闘術と近接魔術で圧倒して殺す。
懸念があるとすれば相手の戦闘技術には目を見張る物があるということ。対人戦はそれほど経験がないようだが戦いながら徐々に上手くなってきている。それを鑑みてさっさとケリを付けるのが一番効率が良い。
方針を決めるとリカルドは前に歩き出す。散歩でもするかのように黒い男に歩み寄っていく。
やがて相手の間合いに入り込むと突きが飛んでくる。それを小さく踊るような足取りで躱すと急激に踏み込みを強めて弾かれるように前に出る。
懐に入られることを嫌ったのか男は棒を薙ぎ払うがリカルドは身を低くして躱す。棒が掠めて髪の毛が何本か宙に舞う。その次の瞬間にはお互いに足を踏み合うような距離まで近づいてきていた。
(この距離なら… )
今度は一方的にリカルドが攻撃していく。相手の防御の隙間を突いて体に次々と拳を叩き込む。拳は黒鉛に覆われて硬さを増している。相手の内部に衝撃を浸透させている手応えが返ってくる。
男の方は手に持っている長い棒が邪魔をして防御が間に合っていない。そこに直ぐ気付いたようで棒を手放して手を解放するとリカルドと同じように徒手空拳を選択する。
(良い判断だ、しかし… )
この距離ではリカルドに分がある。相手の攻撃を去なして無効化し、確実に拳を叩き込んでいく。やがて大きな隙が出来ると手刀を黒鉛の刃で覆いそこに黒炎を纏わせる。
それを相手の心臓目がけて躊躇なく突き出していく。急所からずれても体を内部から焼いていき確実に殺す二段構えの攻撃だった。
―ドシュッ
(チッ… )
刃が貫いたのは左腕だった。咄嗟の判断で間に腕を差し込んでいたのだ。だが、内部から焼かれる激痛に耐えられるはずがない。このまま刃を伸ばして心臓に突き入れる…
そう考えて魔術を強化しようとしたその時、リカルドの顔面に男の右拳が炸裂する。
(痛覚がないのか…? )
自分も痛覚を誤魔化すことは出来るがそれにしても度が過ぎている。後ろに仰け反りながら考えるがどうでもいいことと考えを打ち消す。冷静になって零距離を維持しようと前に踏み出そうとする。
男の方はそれをさせまいと地面に落ちた棒を足で掬い上げるとリカルドに向かって突きを放つ。
(それは悪手だ… )
自身に高速で迫ってくる棒を両手で掴むと捻りを加えて腰だめに構えるような態勢を取る。力はリカルドの方が強い。加えて相手は片手で保持している。奪うのは容易いことだった。
さらに表面の炭素に魔力を流して支配していく。このまま棒を奪い取り先端を炭素術で尖らせて突き刺す。それで死ななければそこから黒炎で焼く。
一瞬で算段を立てると実行していく。
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リカルドが俺の持つ棒に魔力を流していき丸ごと奪い取ろうとしてくる。こちらには為す術がない、、、
そう思っているんだろうな…
だが、残念。この状況は俺の狙い通りでもある。
―闘気術…
棒には既に俺とこいつの魔力が渾然一体となって充満している。そこに火種を投下してやる。
―爆遮
俺の自己魔力がリカルドの自己魔力を分断してやると魔術が制御を失って霧散していく。そのなんとも言えない感触に恐怖を覚えたのだろう。リカルドは棒から反射的に両手を離す。電流ドッキリを仕掛けられたみたいな感じだ。
その一瞬出来た隙を逃さないようにあらかじめ用意していた炭素術を解放してやる。
―滑炭機動撃
―シュッ…
魔力を帯びた炭素が潤滑剤のようになり、さらにはモータのような働きをして棒を素早く動かす。俺の手の中で後ろに引くように動いて静止した。これで発射の準備が整う。
吹っ飛べ…
―シュバッ!
―ゴッッッ!!
射出された棒が胸の中心に吸い込まれるかのように直撃する。リカルドは自動車にはねられたみたいに後ろに吹っ飛んでいき地面を数回バウンドする。その後ゴロゴロと数メートル転がるとやがて停止した。意識がないのかピクリとも動かない。
死んでないよな……?
一応、ルシウスが放った魔術を基準に威力を調整したから死んではいないはずだが絶対はない。ちょっと心配だ、、、
この魔術は精密で素早い動きを特徴とするもので威力の調整がしやすい。動き自体が単純で魔力量と速度だけ変えてやればいい。完全なノーモーションから繰り出される高速の一撃は人間の反射速度を超えている。意識が残っていたなら何が起きたのかもわからず地面に転がされていると感じたことだろう。
、、、そのはずだったんだけどな
目の前ではリカルドが平然と起き上がってきている。こちらが殺す気がないと思ってゆっくりしていたようだ。
サスペンスホラーの殺人鬼役みたいなムーブだ、、、しつこいよ
B級感に辟易してくる。
しかも、さらに一段スイッチが入ったようでその魔力に独特な嫌なものを感じる。いよいよのっぴきならない感じになったようだ。
俺も覚悟を決めないとダメかねぇ・・・
ここで戦いが始まってから初めてリカルドから話を振られる。
「あなたは何者ですか? ご同業というわけでもなさそうですが、、、」
猫被っていたときとおなじような口調で話しかけてくる。今更おせぇぜ、こっちは最初っから見破っていたんだからなぁっ、、、て言ってやりたい、嘘だけど
しかし、話には乗ってやろう。何か狙いがあるんだろうがな、、、
なんと答えたものか…
「ただの通りすがりだ 」
「、、、答える気はないと言うことですか、、まあいいでしょう 」
信じないよな… 結構的を射た答えなんだけど… ルシウスから護衛依頼を受けたのも偶然ファムと知り合っただけだし強いて言うならばアフターサービスみたいなものか…
「私の狙いはルシウスだけです。あなたが立ち去ると言うのであれば見逃してあげても良いですよ。そこまでする義理はないのでしょう? 」
義理なら、、、あるっ! とは言えないな。ルシウスとの関係性は正体ばれに繋がるから言えない。
「断るっ! どの道お前が俺を見逃すとは思えん。それに義を見てせざるは勇なきなりとも言うからな、、、俺は勇に生きる者だ。強者を前にして、、、引かぬっ!」
「? 正義を見る? 、、、どういう意味ですか? 」
あれ? ことわざが通じなかったか… 直訳じゃダメと言うことか… なんて言えば良かったんだろうな? 近い言葉があればいいんだけど知らんし…
「まあ、いいでしょう。愚かな選択ですね、、、せっかく生き伸びる機会を与えてあげたというのに、、、
こんな簡単な計算も出来ないなんて馬鹿な男だ。頭に脳が入っているのか疑問ですよ。そこら辺の土でも入っているんじゃないですかね? 」
えっ、、、なんで!?
いや、落ち着け俺、、、相手はただディスっているだけだ、、、適当なことを言っているだけだろう、、、挑発に乗ってはいけない、、、
ふう、落ち着いてきた、、、切り替えは早い方なんだ、俺は…
………―殺すぞ?
「さて、準備も整ったところでそろそろ死んでもらうとしましょうか? 長々とお付き合いありがとうございました。お陰で最高の魔術が完成しましたよ 」
リカルドの科白が終わるか終わらないかのタイミングで周囲が暗闇に閉じ込められる。
これは……
俺に気づかれずにこれだけ大規模な魔術を用意していたことに内心舌を巻く。このために長々と話しかけていたのか、、、
視界がまったく効かない暗闇の外からリカルドの死の宣告が聞こえてくる。小声で話すような落ち着いた感じの声だがとても明瞭に耳に届いた。そこにはなんの感情も込められていないような冷たい声だった。
「死ね 」




