第220話 ギヒト X リカルド①
気配を辿りつつ進行方向を予想して先回りしていく。二人は西門から外に出るようだ。
離れて追跡していくと森の奥の方へと行ってしまう。
危ういな…
二人がデキている、、、と言う意味ではない。どうやらルシウスもリカルドを疑っているようだ。しかし、二人で人目に付かないところに来るのはいただけない。ルシウスは事態を楽観的に捉えすぎている。
まだ、リカルドを普通の研究員として見ているな。出来心でやったこと。反省して改心するなら不問にして今まで通りに研究を手伝ってもらおうとか考えているのだろう。
確かにその可能性がないとは言えない。だが、それをするなら刺激しないように見守るのが無難であるという気がする。
まあ、俺にとってはそこまで悪くない展開なんだけどな、、、さっさと決着が付く方が面倒がなくていい。
二人は整備された森にやってくると調査を始めだした。調査内容は昨日と似たようなものかな? 巡りながらどんどん奥の方へ移動していく。
やがて二人は少し開けた場所で立ち止まる。調査が終わったのか、それとも休憩かな? そう思って様子を見ているとルシウスがリカルドに話しかける。世間話と行った雰囲気じゃない。
いよいよ始まるのか……?
ちょっとどきどきして聞いているとやはりルシウスはリカルドが犯人であると考えていたらしい。尋問が始まる。
(換装… )
俺は一応、擬装戦闘体に換装していつでも飛び出せる準備を整えて置く。
目の前では言葉の応酬が始まる。リカルドは当然しらばっくれることを選択したようだ。具体的な証拠は何一つ残していないんだろう。そういった自負があるのかも知れない。
しかし、俺には危険な兆候の様に思える。ルシウスの意図がわかっているなら素直に謝っておけば丸く収まりそうなものだ。俺より付き合いの長いリカルドならそれがわかるはず。
なのにそうしないのは既に始末する算段になっているからなのか、、、いや、本当に犯人じゃない可能性も一応まだあるが
「レイン殿がお前を見たと言っていたのだよ 」
えっ、、、そんなこと言ってないけど
聞いていたらルシウスがブラフをぶち上げる。リカルドが犯人であることにかなりの自信があるらしい。パワー系に見えて策士なのか? どうするんだ? リカルド、、、
それを言われてリカルドにはじめて動揺が走った。仮面のような魔力にわずかだがゆらぎのようなものが表れる。
あれ? 結構簡単に引っかかるな、、、
「やはりあの男にはもっと注意を払うべきでしたね・・・ 」
科白に反してリカルドはすっきりしたような表情を見せる。なにか決心が付いたようだ。
どうやら俺のことを警戒し過ぎて過大評価しているらしい。そこから勘違いして観念してしまった。当の本人である俺は確信しているわけでもないのに、、、
そこからリカルドの仮面が剥がれ落ちていく。まるで別人になったかのように魔力波が変化する。体格や顔つきも若干だが変化が見られる。魔力で筋肉を操って細身で柔和な感じに見せかけていたと言うことか、、、
どうやらガチの犯罪者…
それも工作員とか諜報員と言った類いのものかな? 想像してたよりも普通じゃなかった。これはもう後ろになにかいるだろ、、、
擬装戦闘体を作っていて良かった。いつでもルシウスを助けられるように構えておく。
しかし、問題が発生する。思いのほかルシウスが強い。
いざ出ようとしたら初撃をあっさりと躱して見せた。思わずつんのめりそうになる。どれぐらいやるのか事前にわかっていれば良かったんだけどな、、、
お互いまだ全力ではないようだがリカルドは警戒を強めていて大胆な攻めが出来ないでいる。にらみ合いの中でもルシウスは魔術を相手に悟らせないように注意深く構築していく。
これはひょっとするとひょっとするのかも知れない…
リカルドを倒せないまでもワンチャン逃げ切って助けを呼べるんじゃないだろうか?
俺が出ないで済むならそれが一番良い。ちょっと手が出しづらいぞ、、、
目の前では次の攻防が始まる。リカルドの蹴りに合わせてルシウスは魔術を発動して距離を大きく開け、勢いそのままに逃走を図る。
リカルドはそれを追いかけていき、俺もそんな二人を追いかけていく。流石にこのまま逃がすほどリカルドも甘くないようで直ぐに追いつかれてしまう。二人は距離を開けて正面からにらみあう。
再び膠着状態になったときに事態は急変する。ここに来てリカルドが魔術を使い出した。
黒い炎のように見えるそれはリカルドの意志に従ってルシウスに襲いかかる。ルシウスも魔術を駆使して躱し、上手い具合に空術で目くらましを行う。光学迷彩のような魔術だ。俺の視点からもルシウスの姿は見えていない。
それでも俺には魔力視で直ぐに位置を特定出来たのだが果たしてリカルドにそれが出来るのか・・・?
リカルドは目を凝らして周囲を探っていく。しばらく位置はわからなかったようだが俺の想像よりも早く特定されてしまう。
「グッ… アアァッ 」
一瞬の攻防の後、リカルドの魔術によりルシウスは右腕を大きく損傷させられる。
これ以上の戦闘は無理だろう。俺は飛び出して二人の間に割って入ろうとする。だが、ルシウスの魔力圧が急激に高まるのを感じた。俺は再び急停止して前につんのめる。
な、なんだ・・・?
ルシウスは詠唱を始める。詠唱に従い魔術が構築され発動されていく。あまり類を見ない特徴的な術式だ。
これは… もしかしていけるのか?
ルシウスがリカルドを倒しきるのは難しいとは思っている。だが、目の前の魔術に期待が盛り上がってくる。リカルドはこの魔術を甘く見ているようだが果たしてどうかな?
ルシウスの渾身の魔術が放たれるとリカルドの防御も回避もすり抜けて炸裂する。直撃だ、、、リカルドにとってこの結果は意外なものだっただろう。
あの魔術は闘気術にも似ている部分があるな。欠損した自分の腕を魔術で補い自分のものとするのが第一段階。それを攻撃魔術と融合するのが第二段階。そうして魔術を自分の体の延長と捉えて自在に操る。
申し分のない一撃だった、、、だが残念だがここまでだな。俺は今度こそ地面を蹴ると戦場に介入する。
今の一撃はリカルドの何らかのスイッチを押してしまったらしい。魔力の雰囲気が先ほどまでと違う。
ルシウスの前に出ると手に持った木の棒でリカルドの手刀を受け止めると押し返して距離を取らせる。
この棒はレザニュームの構体から作り出したものだ。長さは1.5メートル、太さは3センチメートル程。鉄よりも硬くしなやかだ。名前はユグニールとした。北欧神話に出てくる大樹、ユグドラシルからとった。
ロイドが使っているのを見て俺も使ってみたくなった。使い方はだいぶ違うがな、、、
棒術ならではの戦い方を見せてやろう…
まあ、初めて使うんだけど、、、
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(別視点)
突如として現れた何者かを注意深く観察して対処法を考えるとリカルドは手に持っている棒に着目する。
(近接戦闘が得意なのか… )
そう考えるととりあえずは距離を取って戦うことを選択する。両手に黒炎を出すと二人に向かって大量に放出していく。二人同時に始末するつもりではあるが主な狙いはルシウスだ。
既に魔力が尽きかけて戦えないルシウスでは防ぎようがない。これで始末出来るなら当初の目的に近づける。
最初はルシウスを殺して擬装を施し、死体を処理して自分も消える予定だった。魔物の仕業に見せかければそれ以上の追求はない。自分は別人として他の場所で活動を続けるつもりだった。
だが、この突然現れた謎の男のせいですべてが狂ってしまった。心情的には殺してやりたいし殺すつもりだ。しかし、万が一殺せなかった時のことも考えておかければならない。
リカルドは激情に駆られつつもどこか冷静に状況を見ていた。
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迫り来る黒い炎を見ながら考える。
これは防がないとルシウスが死んでしまうな、、、
俺は木の棒を高速で回転させるとバトントワリングのように振り回して広範囲をカバーする。風切り音が鳴り響く。
………ヒュンヒュンヒュン………
黒炎は雪崩のように押し寄せてくるが棒に触れると押し返されていく。迂回してルシウスを狙おうとしてくるところもあるがそれを棒の軌道を調整して防ぐ。
無駄だよ・・・ なぜなら・・・
リカルドは手応えに不審なものを感じたようで黒炎を引き戻すと俺の姿がはっきり見えるようになった。俺からもヤツが見える。その表情にはわずかだが驚きが見て取れる。
俺が持つ棒は黒く染まっていた。そしてその両端には黒い炎が揺らめいている。
お前と同じ属性だ・・・
対抗術式を使用して黒炎を無効化していた。リカルドの使う魔術は炭素術で間違いない。黒い炎の正体は黒炭、ススのようなものだ。
さあ、どうする?
#
(同じ属性か、、、)
こちらの手の内は知っているものと見て間違いないだろう。だが、やりづらい相手ではあるがそれは他の属性であろうと同じことだ。炭素術の使い手があまりいないことは確かな利点だったがそれだけだ。そう考えて冷静になるとリカルドは直ぐに次の行動に移る。
引き戻した黒炎をまとめて両手を覆いながら地面を蹴って相手に正面から向かっていく。なんのためらいも感じられない思い切った行動に見える。先ほどまで接近戦を躊躇していた様子から一変している。
(体術と魔術の組み合わせなら… )
相手がルシウスを守りながら戦うならこちらは好きに出来るとも考えて仕掛けていく。
開始早々、リカルドの思惑通り相手は防戦一方になる。正面から行くと見せかけて回り込んでルシウスを狙う振りをすると間に割って入ろうとしてくる。そこに力の乗った拳を繰り出すと両手で棒を構えて防いできた。しかし、無理な体勢で受けたためにわずかだが体勢が崩れる。
その隙につけ込むように腹部に蹴りを放つと再び棒で防がれる。それでもさらに体勢は崩れる。そして、こじ開けた隙に手刀を叩き込む。
―ギィンッ
炭素で固めた刃を作り太ももを切りつけると硬質な音が響く。
(良い鎧を着けているじゃないか… )
服を切り裂くに留まったがそこから手を緩めることなく攻撃を続けていく。打撃や斬撃で体勢を崩していくとルシウスに黒炎を放ちそれを防がせて隙を作り出す。今度は左脇腹に蹴りを炸裂させた。炭素で固めた十分に魔力を乗せた蹴りだ。だが…
(手応えがおかしい… )
感触に違和感を覚えつつもそのまま攻撃を続けていく。押しているのは自分の方だ。切り札もある。確実に殺せる。そう考えて一撃一撃に殺意を込める。
斬撃や打撃を何度も浴びせた。服を切り裂き軽鎧はひしゃげている部分がある。チェインメイルごと肉を切り裂いたのも何カ所かある。しかし、リカルドは違和感を感じていた。
攻撃を当てているのに大きく崩れることがない。それどころかだんだんと崩れなくなってきている。手にしている棒で的確に防いで反撃する瞬間すらも出てきている。
(上手くなってきている・・・ )
ほんの数分で対応されてきていることに若干の焦りを覚えたリカルドは手札を一つ切ることにした。
身に纏った炭素の装甲を変化させて剣を作り出す。両手で持つ大振りの剣だ。それを横薙ぎに切り払う。
相手は棒を縦に構えて地面に突き刺し、さらに足を添えて固定する。大剣と棒が接触すると大きな衝撃が生じてリカルドは弾かれ、逆向きに回転してしまう。
隙を見せたように見えるがそれがリカルドの狙いだった。後ろを向いた瞬間、剣の柄尻が針のように細長く伸びていく。
(黒針…)
それは光線のように真っ直ぐな軌道でルシウスに向かう。何事もなければ立ち塞がる男の股の間を抜けて突き刺さるだろう。
そこに黒い男がしゃがみ込むようにして自分を盾にする。黒針はチェインメイルを抜けて腹部に深々と突き刺さる。それだけでなく体内で枝を伸ばすように成長していって内部から破壊していく。
(獲った… )
このまま殺せるだろう。だが、リカルドは念には念をと手にした大剣により追撃を試みる。首を刎ねて確実に殺してやるつもりだった。そのまま回転して剣を振りかぶる。
その瞬間、腹部に強い衝撃を受けて後ろに吹き飛ばされた。魔術の構成が乱れて大剣も黒針も形を失っていく。




